終焉の戦争Ⅷ
「……そんな事があったんだ」
「はい……ですから、ミネアちゃんに頼るわけにはいかないのです」
「でもミネアって――」
カイトの頭の中には、いくつかの情報が錯綜していた。
一つは、ミネアがシアンを嫌っているようには見えなかった、という所。現に、彼はシアンの身を案じていたミネアを見ている。
二つ目は事態の重大さ。なにぶん術が原因というだけに、カイトでは助言も出来ず、使いこなさない事には解決はないという事が明らかとなっている。
ここでカイトは一つの解決策を思いついた。それは自分では無理、だと分かりきった上での発言だった為、いつものような自信はなかったが。
「じゃあ、術を修行してみたらどうかな」
「えっ」
「俺は元の世界に戻らないけど、戦争が始まったらいつでも守る事はできないしさ。それに、ミネアの言う事にも一理あるよ」
返事を返さないシアンを見兼ね、カイトは続ける。
「もしも襲われた時に何の抵抗もできないのって、軍師としても不安じゃない? それに、シアンは俺と違って術自体は使えるんだしさ」
「でもっ……わたしは《水の星》の制約で――いえ、カイトがそういうなら頑張ってみます」
「うん! でも、無理をしすぎない程度に軽く修行してみなよ」
ここまで聞いて満足したらしく、カイトはシアンの部屋を出た。
なんだかんだ言って彼もまた疲労していたのだ。何せ、少し前までは何十人が死ぬ戦いを行い、その中で生き残ったのだから。
自室に戻った途端、ニオに出迎えられるが、カイトは何も考える事無くその場に倒れ込もうとする。
「えっ、カイトさん?」
「…………ベッドまで運んでくれないかな」
「いいですけど……大丈夫ですか?」
あまりに突飛な展開だった為、ニオはカイトの帰還に対する喜びを何処かに忘れてしまい、ただただ困惑するばかりだった。
「とりあえずは生き延びたって感じだね。でも、たぶん明日からはまた戦い漬けだよ」
床に突っ伏したまま、カイトは答える。
「えっと、とりあえずベッドに運びますね」
「よろしく」
再会を喜び合う隙もなく、二人は同じベッドの中で眠りについた。
疲れていると分かりながらも、ニオは服を脱ぎ、カイトに抱きついている。
しかし、肝心のカイトは疲れ果て、精神的な摩耗もあり、それに何かしらの返答を寄こす事もなく目を閉じた。
目に残る死の残像、倒れ伏す味方の亡骸、持ちかえる事すら出来なかった罪悪感。
その全てがカイトを蝕み、精神へと多大な量の傷を付けていく。
彼自身、自分が死ぬという考えは全くなかった。苦戦する戦いであり、命の削られる勝負を連続していたとはいえ、カイトは生き延びている。
それも、偶然などではなく、必然的な実力の凌駕という形で。
それでも、この戦いが続けば多くの人が死んでいく、そうした外界的恐怖感だけが足枷のように身動きを封じていく。