終焉の戦争Ⅴ
抜けていたので振替え投稿しました。
シアンの読み通り、闇の国の侵攻部隊は水の国へと攻撃を仕掛けて来たが、こちらは無事に反撃が行われた。
フォルティスまで被害が及ばなかった事もあり、盤面としては勝利したと言える。
しかし、実情としては精鋭部隊に大きな被害が発生してしまったのだ。さらに、怪物達も現在進行形で周囲を闊歩している。
「カイト、御苦労さまです」
「ねぇ、本当にあれで良かったのかな」
「はい。闇の国としては対人戦力での完全敗北を喫しているわけですし、今後は回数が減るかと思われます」
目的は最初からこの一つに絞られていた。
怪物単体に標的を向けるべき状況ながらも、相手が攻める隙を生んでしまえば本末転倒。それを防ぐべく、シアンはこの重要な第一戦目で完全防衛を果たし、侵攻優先度を大幅に下げてきたのだ。
「そうじゃないよ! 魔物の大多数は未だにこの国の周辺を歩き回っている……これじゃあ――」
「具体的な協力体制が築かれる前ですから、敢えて他国の領地に逃がした方が効率的だと思いました」
「シアン、君はまさか……」
「第一接触点である光の国が取り逃した分で、あれほどの数がいたのですよ。水の国単体で全てを迎撃する事は初めから不可能でした」
カイトはシアンの戦術を高く評価していたが、こういった実践的な、捨て駒を含めたように聞こえる作戦には賛同しかねている。
「水の国としてはこれで十分ですよ」
「……水の国、としては?」
「そうです。ここからは冒険者ギルドも独自に討伐を開始するはずですので、ティアちゃんなどの協力を間接的に得られます」
その戦力こそは知られていないが、少なくともミネアと同じ《星》の一人の少女。カイトの認識ですら高い水準に含まれてくる以上、その数値は誤差ではない。
「西方に向えばライカちゃんが、南方に向えば……ミネアちゃんも居ます」
ミネア、という個人の名前を出す寸前、シアンは僅かばかり表情を曇らせた。
「みんなで協力して戦うって事だね」
「はい、現状水の国として出しうる《選ばれし三柱》はカイトさんだけですし、他の《選ばれし三柱》への救援を求めるとなれば、こうする他にありませんでした」
同類として認識しているそれは、カイトからすれば信頼に値する実力者達である。
とある事情でその多くと一同に会する事があっただけに、カイトはその知っている者達、未だ知らない者達に期待していた。
「それはそうと、カイトはどうでした? 魔物との初戦は」
「だいぶ厳しいね。俺だけはそれなりに戦えてたけど、それ以外の人達は苦戦するばっかりで」
「初めに説明した通り、今回の戦いでの主力はカイトさん含め、《選ばれし三柱》となります。ですから、出来るだけ早く慣れてくださいね」
「分かったよ」
自室に戻っていく最中、カイトは魔物と交戦する少し前の事を思い出す。
異形の怪物《魔物》の話、自分の重要性、シアンの事。