火の玉少女と王宮の騎士Ⅰ
あれから何日も休み、俺は完全復活した。過労働を繰り返すには、まだ若すぎたのかもしれないと思う一方、この回復力は若さありきなのだと実感する。
復活早々に城下町へと向い、個人的に人助けを始めた。
それまでは仕事として助けていた節もあり、お礼をされても断っていたが、今は無職なのでもらえる時は感謝をし、ありがたく頂戴している。
「あんたみたいに若いのが手伝ってくれるとありがたいねぇ」
「はい、力仕事ならお任せあれ」
俺は中年夫婦が営業している小さな宿屋の手伝いをしていた。おばさん曰く、旦那さんが腰を痛めたらしく、しばらくは支援が欲しいとの事。
小さいとはいえ、首都だけあって客入りは結構激しい。部屋の掃除からベッドメイクから調理から接客まで、どう考えても二人で運営していた事自体が驚く程の忙しさだった。
「それにしても、冒険者みたいな事をしているねぇ」
「冒険者? ……怪物退治とかじゃないの?」
「いやいや、冒険者はほとんどお手伝いさんだよ。一度は頼んでみたけど、あんたみたいに全部できるわけじゃないから余計に手間が増えちゃってねぇ」
どうも、この世界の冒険者はかなりひどい扱いらしい。ただ、一般の仕事が出来ない時点で、戦闘に特化してるとも考えられた。
「あっ、そろそろ予約したお客様が来る時間だね。部屋の最終確認をしてくるよ」
「あいよ、お願いね」
こうして一日中手伝い、もらえる額といえば銀貨一枚くらいのものである。
日本的に言えば一万円、コンビニバイトで十時間――深夜ならもっと短いか――と考えると、さほど安い額でもなかった。
ただし、シアンが小遣いとしてくれた量を考えると、少し不足気味である。目的の槌を買うにしても、当分は掛かる。
ちなみに兵士では月に金貨十枚、警備隊なら月に金貨八枚。公務員の、それもそれなりの地位に当たる額が支払われているわけだ。
仕事終わりが夜に入る少し前、その頃になると大きな動きも減り、おばさん一人でも回せるようになるらしい。
空腹になりながらも、城への帰路につき、睨んでくる門番に挨拶をして自室へと向かう。
部屋に入り、ランプのボタンを押す。それだけで点火が行われ、部屋に橙色の温かい光が満ちた。
「今日のご飯は何かな」
外出用の服から普段着――扱い的にはジャージのようなもの――に着替え、シアンの部屋へと向かう。
何回かノックし、シアンの返事が来た時点で扉を開けた。
「シアン、ただいま」
「お、おかえりなさい……」
どうも声のおかしいシアンに疑問を抱きながらも、俺は部屋の中に足を踏み入れる。
刹那、奇妙な熱気が頬を掠り、少しとはいえ火傷を起こす。
「あっち!」
「何勝手に入ってきているのよ」
位置の関係で見えなかったが、部屋の中にはもう一人の少女がいた。
ショートヘアなのにツインテールにしたような赤い髪。これはシアンと同じで、瞳も髪と同色だ。言うまでもなく、この国では見た事もないタイプ。
「こんばんは、だね。僕は池尻海人、シアンの友達だよ。君は?」
「イケジリカイト? ……なんであたしが名乗らなきゃいけないのよ」
シアンと違って、この子はとても刺々しい。人見知りする子なのかもしれないが、自己紹介くらいは済ませておきたかった。
「カイトでいいよ。ちょっと前からシアンのお世話になっているんだ」
「なっ……シアン、本当なの?」
若干、狼狽気味の少女はシアンに詰め寄る。
これに対してシアンは何の事もなく頷き、「カイトさんは異世界人で、いい人なんですよ」と、これまでのあらすじを語るように言ってくれた。
「へ、へぇー……異世界人ね、珍獣を拾ってきたようなものよね、うん」
目を泳がせながら、少女は俺の方を見る。「あたしはミネア。水の国の南側にある国、火の国の姫よ」




