終焉の戦争Ⅰ
「謎の未確認生命体が本国に迫っています」
「調査班からは?」
「依然として正体不明と――」
作戦会議室を抜けたカイトは一人、シアンの部屋へと向かった。
「シアン、入るよ」
「どうぞ」
互いに意思の疎通が図れた時点で、カイトは扉を開ける。
中では正装に着替え、窓の外を眺めているシアンが椅子に座りこんでいた。
「戦いが、始まっちゃったのかな」
「そうですね。しかしあれは……」
シアンの視線の先には、空に浮かぶ黒いカーテン状のものがある。
宣戦布告が行われた日、カイトが認識したそれは僅かに、そして確実に水の国へと近づきつつあった。
生命体の軍勢、その正体は水の国の軍ですらつかめておらず、作戦会議室は騒ぎの渦中にある。
城下町については情報統制もあり、未だにその正体は伝えられぬまま、不安をあおらないように沈黙や虚偽情報の流布が続けられていた。
「シアン、いつかのように君の作戦でどうにかならないかな」
「あそこまで規模が大きいとなると、わたし一人の力ではどうしようもありませんね」
「じゃあ――」
「わたし一人、ではどうしようもありませんよ。ですが、みんなで協力すれば、きっと道が見えてきます」
シアンの告げたみんな、とは世界全土の人間の事を指している。
人類皆兄弟、それくらいの無理を平然と言うくらいでなければどうにもならない、という事はカイトですら理解していた。
「カイトは無理をしないようにしっかり休んでいてくださいね。本格的に戦いが始まれば、休む暇もなくなってきますから」
「それを言うならシアンもね」
「わたしは……わたしは今も戦えるので、お休みはありませんよ」
作戦会議室に集まる水の国の主要人、それらに逐一命令を出しているのは紛れもない、シアン本人だった。
肝心のフォルティス王は知略に長けているとは言い難く、チェスは強くとも、カイトの世界風に言うのであれば株式などは苦手なのだ。
つまりは、戦闘にしか興味がなく、戦闘にだけ自身のポテンシャルをつぎ込んだ結果ともいえる。
「シアンもあんまり無理しすぎないで」
「はい」
カイトはそれだけ言い残し、部屋を出た。