日本的には夏休みⅤ
「エルズ、こっちこっち!」
「ティア待ってよ!」
二人の子供が通り過ぎていくのを見ながら、俺はニオの到着を待っていた。
外で待ち合わせ、などという若干怖い頼みを受けた俺は、こうして少し早めに来ている。約束の一時間前から待っており、後五分で指定の時間丁度だ。
それにしても、いくらカラフルな髪の毛が多いとはいえ、緑や藍とも紫とも言えるような髪の子は今の二人ぐらいだろうか。
どちらかが《星》だったのではないか、などと思考を巡らせたりはするが、それでも待ち合わせ中に何処かに行くような無礼をするつもりはない。
「カイトさん! お待たせしましたっ!」
「おっ、来た来――」
そこにいたニオは、なぜかプリントTシャツにジーンズという日本風の格好になっていた。
「それ、どうしたの?」
「ライカ姫からもらいました! これで異世界風の衣服なんですよね?」
確かにそうなのだが、張り裂けそうな胸の部分には《BADBOY》と書かれている。
異世界の文化を知っている雷の国ならばともかく、それ以外の国ならばこの文字の意味すら分からないのだろう。
それにしても、悪い男とはどういうセンスで選ばれたのだろうか。
日本でなら絶対に並びたくない装備のニオと手をつなぎ、街中の散策を始めた。
「今日は色々と見て回りましょうね!」
「分かってるよ。今日こそはのんびり見て回ろう」
昨日はライカの追跡にかなり意識を送っていた事もあり、今回はそうした緊張感のない素直な散歩をすると約束をしている。
祭りの詳細な時間は知られていないが、日を追う毎に人の数は増えていた。今ならば中目黒と同じくらいは混み合っているだろうか。
「出店とかも出ているね」
「あっ、仮面ですよ!」
ニオはお面屋を発見するや否や、俺に気を止めず、すぐさま店先に並んだ色んなお面を見ていた。
人それぞれ好みはあるが、面白いと思っているならばそれは仕方がない。
「なんか安いですね」
「これプラスチック製だね、やっぱりお面みたいだ」
「お面?」
「安物の仮面みたいなものだね。日本ではお祭りの時に付けるんだよ」
並んでいるお面を見るが、キャラクターの時代がバラバラだった。
十年前と思われる特撮ヒーローや、黄色いネズミの仮面、三十年以上は前と思われるライダー、ほとんど最近な変身ヒロイン。
世界を越えた物を模倣して作ったのか、クオリティはまちまちだ。プラスチックの加工技術自体はあるという事なのだろうか。
銀貨一枚で適当に見繕うと、俺とニオは顔に掛からない位置に装備した。
「なんか楽しくなりますね」
「祭りってのはそういうものだよ。本番になったら、きっともっと楽しいからさ」
気軽に返した後、俺は一つの事に気付く。
「その子、幽霊か何か?」
「えっ? ……うわっ!」
ニオは驚いて尻餅をつくが、俺は彼女の傍に立っていた少女の方に近づいた。
「君、迷子?」
「あら、親切な殿方ですわね」
ライカが演技でしていたそれにも似ている言葉づかいだが、どうにも付け焼刃の物だとは思えない。
「ラグーン城への案内をお願いしますわ」
「ん? い、いけど……君、もしかして《星》なの?」
黒にも思えるような濃い藍色の長髪、シアンと同じくらいの身長、藍色の瞳。何よりは、頭の上から生えているアホ毛。
「そうですわね。《闇の星》のライムですわ。お噂は予てよりお聞きしていましたわ、《水の月》のカイト様」




