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勇者見習いレベル1(8)

 俺は、情報屋に教えてもらった本を探すため、本屋の店内をウロウロしていた。


(普通、この手の物は、旅行誌か地図のコーナーにあるもんだが、……そのコーナーそのものがないな)

 恐らく、この異世界から脱出出来ないからだろう、その手のコーナーは見つからない。

(そりゃそうだよな。行けもしないのに、『ギリシャの歩き方』や『オーストラリアへの旅』なんて本が売れるわけないからな)


 あちこち探しまくって、ようやく『異世界の歩き方』と『異世界の謎マップ』を探し当てた。

 ついでに『異世界 武器大全』と『異世界 魔法大全』、『異世界 魔獣大全』も買うことにした。


 俺はレジで支払いを済ませると、本屋を出て適当に歩いていた。すると、噴水のある広場のようなところに出た。まわりにベンチも置いてあったので、ここで一休みしながら本を読むことにした。


(フハハ、やっぱ『少年シャンプウ』おもしれぇ)


 と、肝心のガイドブックそっちのけで、漫画を読みふける俺だった。かくゆう俺も、いけてないのである。


(あ、アンケート葉書も付いてる。異世界からアンケ出せるのかなぁ? ウヒヒ、冗談で出してみようかな)


 なんてバカなことを考えながらのんきに漫画を読み耽っていると、午後ももう三時くらいになってしまった。どうして分かったって? 広場に時計塔が立っていたからさ。


 さて、本当にどうしよう。


 俺は買ってきた本の中から、『異世界の謎マップ』を取り出すと、パラパラとめくった。どうやら、ここは、異世界の中でも、辺境にあたるらしい。『都』と云うところに行けば、もっとたくさんの人がいて、情報も集まってくるらしい。

(でも、このレベルじゃあなぁ。もっと経験値を積んでレベルを上げないとなぁ。さて、どうしよう)

 俺は謎マップをパラ見しながら、考えていた。すると、あるページで俺の手が止まった。

(これって、ここの近くだよな。今夜、試してみるか)


 その日の夜更け、俺は町からほど遠くない、森の中に来ていた。謎マップによると、この森の中に祭壇のような遺跡があって、夜な夜な化物がうろつくのだそうだ。

 祭壇と聞いて俺はピンときた。もしかしたら『アマテラス』祭壇じゃないのか、と。化物が何かまでは分からないが、祭壇に供物を納めれば、前の時のように何かしらのご利益があるかもしれないと思ったからだ。

 もう日もとっぷり暮れてしまっていた。森を奥へ進むと、大きな広場に出た。その中央には、やはり少し高い盛土がしてあって、何やら祭壇のようなものが見えている。

 さて、供物はどうしよう。この森を、ここまで歩いて来たものの、トカゲもイグアナにも出くわさなかったもんな。少し戻って、狩りでもしようかと考えていると、突然、祭壇の方から、不気味な吠え声が聞こえた。

 俺が驚いて振り返ると、広場の地面のそこここが盛り上がり、地底から何かが這い出てきているように見える。それは、人の形をした化物のように見えた。

 何だろうと思って、『魔法の眼鏡』で、詳しく探ってみた。


ゾンビ (元勇者):Level 1

  HP : 0

  攻撃力 : 10

  防御力 : 0

  魔法力 : 0

 邪鬼に操られて人を襲う。動きは鈍重だが、すでに死んでいるため有効な攻撃方法は無い


(何だそりゃ。攻撃が効かない? 邪鬼に操られているってことは、そいつを倒せばいいってことだな。じゃぁ、その邪鬼は何処だ?)

 ぞくぞくと地中から這い出てくるゾンビは動きも鈍く、すぐには近くまで来れないように見えたので、俺には未だ心の余裕があった。

(操ってるとしたら、集団の最後方だろうな。だとすると、遺跡の中か。一番ありそうだな。そのためには、ゾンビの集団を抜けないとならんか。ちょっと難儀なことになったな)

 俺は、腰の木刀を抜くと、中段に構えた。あれこれ考えている間に、ゾンビの先鋒はもう目の前だ。


 俺は先頭のゾンビに切りかかった。ゾンビの手は、簡単に木刀に切り離されると地面に落ちた。だがゾンビは片腕になっても構う様子もなく、ノロノロと近づいてくる。しかも、切り離された片腕も地面をまさぐるようにうごめいている。

(くあっ、何て気色の悪いやつらだ)

 俺は今度は胴体を横にないだ。ゾンビは上半身と下半身に分断された。しかし、下半身は倒れること無くよろよろと近づいて来るし、上半身は地面の上をズリズリと這いよってくる。

(本当に、打つ手がないなぁ。取り敢えずゾンビの動きを止めるか)

 俺は、木刀に念を込めると、横一文字に振り放った。

「飛び散れ、『烈風斬』!」

 真空の刃が乱れ飛び、ゾンビ達の足を切断した。足を切り離されたゾンビ達は、地面に這いつくばりつつも、ズリズリと這い寄ってくる。しかし、その速度は、格段に鈍くなっていた。

(よし、一気に抜けるぞ。頼んだぞ『高速のサンダル』)

 俺は、地面に転がっているゾンビに足を掴まえられないように気を付けながら、ゾンビの群れを一気に走り抜けて行った。

 すると、ゾンビ軍団の最後方に、鬼のような巨人が立っていた。


邪鬼 : Level 4

  HP : 20/20

 攻撃力 : 25

 防御力 : 27

 魔法力 : 8

ゾンビの軍団を操って旅人を捕まえ、魂を吸い取る


 いた。あれを倒せば、ゾンビどもは大人しくなるはずだ。

 俺は、一気に邪鬼までの間合いをつめると、木刀で切りかかった。邪鬼の鋭い爪が伸びると、『勇者の木刀』をガッキと受け止めた。

(やるな、さすがゾンビ軍団の親玉。ゾンビとは各が違う)

 俺の木刀と、邪鬼の爪の応酬が続く。その間にも、ゾンビが地面を這いながら近づいて来ている。早く勝負を決めないとならない。


 俺は勝負に出た。『勇者の木刀』に念を込める。

「食らえ、『一文字崩し』!」

 俺は木刀を横一文字に振るった。木刀は邪鬼の爪を切断し、そのまま奴の首に一閃を与えた。

「グゥオオオオオ」

 首筋を切り裂かれて、邪鬼が一瞬怯んだ。

「今だ! 『一刀両断切り』」

 木刀の一閃は、邪鬼の頭から胴体を両断していた。

 邪鬼は霧のように霞むと、邪悪な、何か気体のようなようなものが、その場に拡散していった。

 俺が振り返ると、ゾンビたちも動きを止め、その死体は粘液のように泥々になっていた。

「ふう、何とか倒したようだな」

 俺が祭壇に向かおうとすると、邪鬼のいたところに、一人の少女が倒れているのに気がついた。神社の巫女さんのような出で立をしている。

 念のために、眼鏡で確認してみる。


アマテラスの巫女:Level 4

  HP : 15/15

  攻撃力 : 8

  防御力 : 20

  魔法力 : 12

アマテラスの祭壇を守護している巫女

(アマテラスの命により勇者の手助けをしてくれる)


(この娘が、あの邪鬼の正体だったのかな?)

 俺はそんな風に考えながらも、この少女を介抱しようと、抱き上げた。

 すると、少女は、「うーん」とうめいたと思うと徐々に目を開いた。

「大丈夫?」

 俺は、そう少女に訊いた。

「あ、あなたは。……もしや、勇者様ですか!」

 急に訊かれて俺はドギマギした。女の子は思った以上に美人だったからである。

「あ、え~と、一応そういうことになるかな」

 俺は、ようやっと、そう応えた。

 少女は急に俺に抱きつくと、

「ありがとうございます。勇者様が、わたくしを助けて下さったのですね」

 そう言われても、どうやって助けたのかさえ怪しい。俺は単に邪鬼を倒しただけなんだけどな。

「わたくしは、アマテラス様におつかえする巫女です。ここでずっと勇者様が助けに来てくださるのを待っていました」

 そう言われても俺には実感がない。逆に、免疫のない美少女に抱きつかれたり、目をうるうるさせられたりして、戸惑うばかりである。

「い、いやぁ、お、俺は単にここの遺跡が気になってやって来ただけなんすけど。ちょ、ちょうどゾンビや邪鬼が襲ってきたから、返り討ちにしただけなんすけどねぇ」

 そう言うと少女は目を丸くして、

「邪鬼を倒したのですね。やっぱり予言にあった勇者様に間違いありませんわ。わたくしは、邪鬼の中に封印されていたのです。邪鬼が勇者様を襲ってしまって申し訳ありません。お、お怪我はありませんか?」

 そう言われて、俺は自分を確認した。特にどこかやられたところは無いようだ。

「大丈夫みたいっす。あなたこそ、怪我とかしてないっすか? 俺、邪鬼を真っ二つにしちまいましたから」

「ああ、何て偉大な勇者様でしょう。わたくしの心配等をしてくれるなんて……。さぁ、勇者様、この勢いで、アマテラス様の祭壇の邪気を祓っていただけないでしょうか」

 急にそう言われても、レベル1の俺に出来る自信はない。まがりなりにも『勇者の木刀』は持ってはいるものの、必殺技はパラメータ不足で出せないし、通常技を出す魔力もHPもほとんどない。

 俺が渋っていると、

「勇者様なら必ず出来ます。そのお手にしているものは『祝福された勇者の木刀』です。それで、祭壇の邪気を薙ぎ払えば、必ずやアマテラスの祭壇を浄化出来るはずです」

 かわいい女の子に懇願されて、嫌とはなかなか言えないものだ。俺は試しに、少女の言う通りにしてみることにした。

「試してみるだけっすよ。失敗しても怒らないで下さいね」

「いいえ、あなたが勇者様なら、必ずや邪気は祓えるでしょう」

「そうすかぁ? じゃ、やりますんで、少し離れて下さい」

 俺はそう言うと、汚されてしまったアマテラスの祭壇に近づくと、『勇者の木刀』を降り下ろした。

 すると、何かの悲鳴のようなざわめきが響きわたるとともに、祭壇が何か清浄な空気に包まれたような気がした。

「やりましたわ、勇者様! 祭壇が、祭壇が清められていきます」

 少女がそう言うのを聞いていると、何だかそんな風にも思える。と、突然頭の中に、いつか聞いた声が響いた。


<我アマテラス、汝を庇護するものなり。我が祭壇を清めた汝の勲功に報い、汝を祝福する>


 そうすると、俺の体が光に包まれた。何か身体の中から力が湧き上がって来るような気がする。

 俺は、自分のレベルを確認してみた。


勇者 (初心者) : Level 2


「やったー! レベル2になったぞ。すげえ、アマテラスやっぱすげぇよ」


 やっとのことでレベルアップを果たした俺は、有頂天になっていた。

 側で微笑んでいる少女がこの先、俺の勇者生活にどんなことをもたらすものかも、その時は考えに入れていなかった。これが、後々大きな荷物をしょい込むことになることを、俺はまだ知らなかったのだ。

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