勇者見習いレベル1(7)
取り敢えず牛丼を食って一服した俺は、町の中を見て回ろうと思った。
「ごちそうさま。いくらになりますか?」
すると店員は、
「牛丼大盛りと半熟玉子ですね。五百五十円になります」
俺は、懐の袋から五百円玉を二個取り出すと、店員に渡した。
「はい、……おつり、四百五十円です。どうもありがとうございました」
俺は店員からおつりを受け取ると、懐にしまった。
(さて、これからどっちにいこうかな? 取り敢えず、人の多そうな大通りにでも行ってみるか)
俺は、適当に大通りの道をブラブラと歩いていた。
(結構、人がいるなぁ。ん? あの人は、もしかして……)
俺は、大勢の人の中に別の種類の人がいることに気が付いた。これも『眼鏡』のおかげだが。その人に焦点を合わせると、属性やパラメータが見えた。
情報屋 (元勇者):Level 7
HP : 25/25
攻撃力 : 20
防御力 : 27
魔法力 : 5/5
異世界の情報に詳しい
やった! ラッキー、情報屋だぁ。これで何かわかるぞ。俺は、情報屋の後をつけていった。
情報屋は、大通りから右へ左へと、宛のないような歩きをしていた。そして、だんだん裏道のような、人通りの少ないところを歩くようになった。
俺は、情報屋を見失わないように、付かず離れずの距離を保って、後をつけていった。
すると、情報屋は、突然、門を曲がっていって見えなくなった。
(やべ。見失っちまう)
俺は急いで情報屋の入っていった道へ行くと、門を曲がった。
(いない。見失ったか……)
俺は、誰もいない裏道を早歩きで進むと、突然、後ろから首を絡み取られ、身動きが出来なくなってしまった。
「兄ちゃん、大きな声を立てるんじゃねぇ。……見かけねぇ顔だな。何でオレをつけてた。どこのまわしもんだ」
俺の尾行は、情報屋に完全にバレてたらしい。首が絞まって身動きがとれない。
「お、俺は、つい昨日、こ、この世界に来たもんです。情報屋のあんたに訊けば、何か分かるかなって思ったもんだから、つい、後をつけてしまったんです」
「本当か。なぜオレが情報屋だと分かった」
「お、俺には、見た人のスキルやパラメータが分かる能力を持ってるんです。大通りを歩いていたら、あんたが情報屋だって、分かって。そ、それで、ついて来たんです」
俺は、ある程度、正直に答えた。
「嘘言ってんじゃないだろうな。それじゃ、兄ちゃん、オレの今のレベルはいくらだ」
「レ、レベル7。HPは25です」
「ほう、そこまで分かるのかい。じゃ、取り敢えず、兄ちゃんの言うことを信じてやるよ」
そう言われると、首を絞められていた力が緩んだ。
「ふぅ~、驚いた。信じてくれて、ありがとっす」
俺は情報屋から離れようとしたら、今度は腕をとられてしまった。
「待て。オレの方を見るんじゃねぇ。オレは裏世界で生きてるからな。簡単に顔をバラされちゃ敵わんからな」
「わ、わかりました。だ、だから、あんまし痛くしないでください」
「わかってんなら、いい。で、兄ちゃん、何が知りたい?」
「な、何って、何もかも全然っ分かんないっす」
「そんなんで、オレに接触しようとしたのか。人騒がせな奴だな。このオレから情報を引き出そうなんて、兄ちゃんには、十年早いぜ」
「で、でも、いきなり、こんな異世界に放り込まれて、右も左も分かんないのに、どうすりゃいいんですか?」
「じゃぁ、兄ちゃんに、良いこと教えてやるよ。ここから大通りに出て、右の道をしばらく行くと、本屋がある。そこで、ガイドブックでも見るんだな。オレのお奨めは『異世界の歩き方』と『異世界の謎マップ』だ」
それで、俺はやっと解放された。
「あ、ありがとっす。じゃ、取り敢えず本屋行きます」
そう言って、俺は大通りに向かおうとしたら、情報屋は、
「待てや兄ちゃん。情報料は」
「ええ、こんなんで金取るんすかぁ」
そう言って、振り向こうとすると、
「こっちを見るんじゃねぇ! 何度言ったら分かるんだ。オレは情報で食ってるからな。ちゃちな事でも、情報は情報だ。兄ちゃんは、まだ初心者らしいから、安くしとくよ。千円寄越しな」
こんな事で千円も取られるとは。でも、この状況では仕方がない。
「わ、分かりました。千円払います。千円ですね」
俺は懐から、五百円玉を二枚取り出すと、後ろ手に、情報屋に渡した。
「おう、素直にそうすりゃいいんだよ。サンキュー、兄ちゃん。さて、これで牛丼でも食いに行くかぁ」
そう言うと、情報屋はどこかに消えてしまった。
さすがに、まだレベル1の俺が、レベル7の情報屋に接触するのは無茶だったかも知れない。
しかし、本屋があると分かって良かった。うまくすると、異世界の地図やら何やら買えるかも知れないな。俺は、情報屋に言われた通りに、大通りへ出ると、右への道を歩いて行った。
しばらく行くと、情報屋の言っていた通りに、本屋があった。
『ブックストア 勇者屋書店』
目立つところに掲げられていた看板には、そう書いてあった。
「…………」
これは、いけてないだろう。何から何までダメだな、この異世界。
そう思いながらも、折角だからと、俺は本屋に立ち寄ることにした。
(あ、自動ドアだ。異世界の科学力、思ったよりも進んでるなぁ。お、これは、『少年シャンプウ』じゃないか。異世界でも『シャンプウ』売ってんだ。凄ぇ、異世界、侮れないな)
俺は、店頭で平積みになっている、漫画雑誌を手に取ると、ページをパラパラとめくった。
(おお、最新号だ。『オン・ピース』、どうなってるかな? 続きが気になってたんだ)
俺は、最初の目的も忘れて、漫画の立ち読みに夢中になっていた。すると、
「お客さん、困りますよ立ち読みは。他のお客さんの迷惑になりますから」
と、店の人に言われてしまった。
本屋の主 (元勇者):Lebel 4
HP : 18/18
攻撃力 : 12
防御力 : 13
魔法力 : 8/8
異世界で本屋を開いている
おおっと、怒られてしまった。
「す、すんません」
俺は、漫画を元のところに返すと、情報屋に教えてもらった本を探しに行った。