勇者見習いレベル1(6)
三輪スクーターに引かれた荷車は、曲がりくねった荒野の小道を疾走していたよ。未舗装の道を時速六十キロで走ってる荷車にしがみついているだけで、HPを消費するんじゃないかと思ったくらいだった。
「お、おっさん! もうちょっとスピード落として、落としてってててて、」
(し、舌噛んだ、痛っててて。し、死ぬ! マジでヤバい。は、吐きそう、って吐く前に死ぬ。死ぬって、死にたくねぇ。誰かたすけてぇぇぇぇ)
俺の境遇を知ってか知らずか、行商人のおっさんは、スピードを落とすつもりはないらしい。
「バリバリバリ、全開じゃぁ! ひゃっほう、最高だっぜい!」
三時間も走ったろうか。ようやく回りの景色が変わってきた。木々や川が見え、そうするうちに、小屋なんかが建っているのが目につくようになった。時々、公衆電話ボックスや自動販売機も見つかる。人里が近くなってきたのかな?
もう三十分くらい走ると、おっさんはやっとスピードをおとしてくれた。
「あんちゃん、もうすぐ着くぞ。ひゃあっはっはっは、最高の走りだったっぜいぃ!」
俺はの方は、荷車の上でぐったりしてて、なんの応えようもなかった。
(た、助かったぁ。やぁっと着いたのかぁ。……ああ、死ぬとこだった)
俺は自分のHPを確かめた。
HP:10/15
うおぉぉぉ、5ポイントも減っとる。おっさんの攻撃力、ハンパないわぁ。
(HPが10しかないからなぁ。あまり戦いになるようなことは避けて、今のうちに回復しとかないと)
俺は、ごとごと揺れる荷車の上で、大の字になっていた。
「あんちゃん、着いたぞ」
俺はおっさんの声で、我に返った。やっと着いたのか。俺は起き上がると、荷車の上から、おっさんを眺めた。
おっさんは、店の従業員と話をしてるようだった。
「おう、わしじゃ。女将はおるかい」
「はい、ただいま呼んで来ますので、しばしお待ちを」
しばらくするると、和服を来たやや年配の女性が現れた。
料亭の女将 (元勇者):Levl 6
HP : 35/35
攻撃力: 22
防御力: 8
魔法力: 15/15
異世界で料亭を開いている。
(曲がった事が大嫌いで、相手が政治家でも張り倒すが、弱いものには親切)
えっ? 女将も元勇者なのか。変わった世界だなぁ。
「よう女将、久し振りだな。元気してたか」
「ほんまにお久し振りでんなぁ。今日は何かよろしゅうモンがおましたか?」
「おう、オオイグアナの天然ものよ。昨日採れたばっかりのモンよ。一匹二千円でどうだい」
「あれあれ、オオイグアナですの。最近は天然の物が少ないから、助かりますわ。ええでしょう。一匹二千五百円出しましょう」
「他にも火トカゲが一匹、オオトカゲもあるぞ」
「火トカゲも、昨日採れた分ですの?」
「おおとも。あのあんちゃんが頑張ってくれてのう。昨日は大漁じゃったぞ」
そう紹介されて、俺は女将に会釈をした。
「まあま、まだ若いのに。この世界には来たばっかりのようでおすな」
「ええ、そうです。なので、レベル1の見習いからです」
「ほんまかいな。それは苦労しまっせ。あんじょう頑張りな」
「はい、ありがとうございます」
俺はおっさんの荷車から降りると、町を散策しようと思った。そうおっさんに告げると、
「そっか。まあ、いろんな人に聞いて、まずは状況把握からだな。気を付けな」
「今までありがとう、おっさん。俺、頑張るよ」
「じゃぁな」
「お世話になりました」
俺は、おっさん達に別れを告げると、取り敢えずどっかで飯でも食おうと思っていた。
先ず目についたのは、牛丼屋だった。よし、ここで飯でも食うか。
店に入ると、中途半端な時間だったためか、客は二人しかいなかった。
雑貨屋の主人 (元勇者):Level 2
HP : 10/10
攻撃力: 11
防御力: 8
魔法力: 1/2
こっちは?
八百屋の主人 (元勇者);Level 3
HP : 15/15
攻撃力 : 14
防御力 : 12
魔法力 : 0
何だ? みんな元勇者じゃないかい。
俺が驚いていると、そこに、店の店員が、注文を訊きに来た。
牛丼屋のアルバイト (元勇者):Lvel 1
HP : 7/7
攻撃力: 8
防御力: 9
(……店員まで元勇者なのかぁ)
「ご注文は決まりましたか?」
「ああ、ええっと、牛丼大盛り、半熟卵ひとつお願いします」
「わかりました、少々お待ちください」
異世界で勇者やるのは、やっぱりしんどいのかな? 勇者からジョブチェンジしたってことは、クリア出来てないってことだよな。てか、この世界って、どうなったらクリアなの?
普通は、誰かに訊いて情報を集めるもんだけど……。情報屋とかあるのかな?
「牛丼大盛りと半熟卵です」
「あ、どうも」
俺は取り敢えず、牛丼を食って落ち着くことにした。
あ、ここの牛丼、うめぇ。何の肉使ってるのかな。牛丼だから、牛? 普通はそうだが、異世界だもんな。意外に、イグアナの肉だったりして。ハハハ。
何て笑えないことを考えながら、俺は牛丼を食っていた。まぁ、何とかなるだろう。アマテラスの庇護もあることだし。これ食ったら、今日の宿でも探すかぁ。
俺は、初めての異世界だというのに、遠足に来たような気分で、適当に考えていた。それが甘かったと知るのは、もっと後になってからだった。