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勇者見習いレベル1(3)

「おっさん、俺、もう一度森へ行ってくるよ」

 俺は、行商人のおっさんに、そう言うと、『勇者の棍棒』担いで森への道を走っていった。

「気を付けるんじゃぞ」

 おっさんの声が背後から聞こえてきた。


 俺はしばらく行商人のおっさんのところにいることにした。オオトカゲくらいと、なんべんか戦って、小遣いを稼ぎつつ、レベルも上げようと言う、一石二鳥の手だ。


 森には一度入っている。そっと息を殺し、音をたてないように進んでいく。

 もうすぐ夕方になるから、今日の狩りはこれで最後にしよう。さっき、オオトカゲを倒したところを通り過ぎて、尚も奥に進んでいくと、ガサガサと音がして草むらを這い寄ってくるものがいた。

 俺が棍棒を構えている前に出てきたのは、小ぶりのトカゲのような生き物だった。


 オオイグアナ : Level 2

  HP : 7/7

  攻撃力 : 5

  防御力 : 7

  おとなしくて肉質がよく、食用に養殖されているものもある


 ほう、こりゃ高く売れそうなモノが出てきた。俺は棍棒を構えると、オオイグアナにそろそろと近づいていった。間合いにまで近づくと、イグアナに棍棒を降り下ろした。

「グシャ」という感じと共にイグアナは頭を砕かれて、その場にひっくり返った。

「よし、一匹目」

 と、俺は思ったものの、何だか悪いことをしてるような気になった。でも、元いた世界でも、牛や豚を食ってたんだよなぁ。こういう後味が悪いことを、他人に任せて。命をとったからには、ちゃんと食ってやらないとな。

 そう思いながら、オオイグアナを担ぐと、森の奥へと進んだ。


 途中、オオトカゲやオオイグアナを狩りつつ進んでいると、広場のように開けたところへ出た。

 そこは、薄暗い森の中で珍しく明るい場所だった。上を見上げると、やはり木々が鬱蒼としていた。いったい何を光源としているのだろうと、俺は広場を見渡した。すると、広場の中央がマウンドのように少し盛り上がっており、薄明かりはそこを発光元としているらしかった。


 マウンドを登ってみると、三つの鳥居に囲まれた、祭壇のようなものがあった。中央に二メートルくらいの、石の柱が建っていた。

「何かの神様を祀っているのかな?」

 俺は、鳥居の一つを潜って祭壇に近づいた。すると、頭の中に声が響いた。

<我はアマテラス。汝、我が庇護を求むなら、贄を捧げよ>

 アマテラスか。ますます日本的だな。まぁ、ここで神様に取り入っておけば、何かの時に助けてくれるかも知れないな。

 俺は、担いでいたイグアナとトカゲを、二匹づつ祭壇に置くと、膝まずいて祈った。

(アマテラスの神よ。我をお守り下さい)

 すると祭壇のトカゲやイグアナが、光輝くと、そのまま消えてしまった。

<我アマテラス。汝を庇護するものなり。汝、我が証を受けとるがよい>

 そう、頭の中に声が響くと、祭壇が輝き、中央にドリンク剤くらいの小瓶が現れた。


  祝福されたレベルアップの薬


 おお、レベルアップの薬か。やっぱり神様を信じないといけないなぁ。

 俺は棍棒を床に置くと、薬を手に取った。しかし、その時には、俺の手がイグアナやオオトカゲの粘液でヌルついていることに気がついていなかった。

 俺が『レベルアップの薬』を取ろうとしたその時に悲劇は訪れた。俺が、『レベルアップの薬』を飲もうとしたとき、薬瓶は粘液の為に滑って祭壇に落っこちてしまった。

 俺はあまりの事に何が起こったのか一瞬我を忘れた。薬瓶が落ちていく。まるでスローモーションのように。俺にはその一部始終が見えていた。だが、それを受け止めるだけの判断力も瞬発力も、その時の俺には無かった。瓶は祭壇の上に落ち、割れて、飛沫が周りに散らばった。


 こんな悲劇を誰が予想出来たろう。俺はあっけにとられて、しばらく祭壇の前で動けずにいた。

 だから、この強烈な殺気に気が付くのが遅れてしまっても、仕方なかっただろう。背筋をぞくりとした感覚が走り、俺は反射的に床の棍棒を取ると、振り向き様に打ち下ろしていた。

 『勇者の棍棒』が軟らかいものにグシャリとめり込む感覚。その向こうには、巨大な虎が空中で牙を剥いていた。

 その時、棍棒の表面に無数の亀裂が入り、裂け目からまばゆい輝きを放った。それと同時に俺はいつもと違う感覚が棍棒から伝わって来ているのに気づいた。何か、そう、豆腐を「スカッ」と切るような感触だった。それと同時に目の前の巨虎は、左右に両断され、俺の両脇を通り抜けていった。

「何だ、今の感じは?」

 俺は、手に持っている棍棒を見てみた。それはその姿を木刀に変えていた。


祝福された勇者の木刀:+87

必殺技1 :破砕渦動流 (魔法力を25、HPを20使用)

必殺技2 :天空雷鳴切り (魔法力を15使用)

通常技1 :烈風斬 (魔法力を2使用)

通常技2 :一刀両断斬り (HPを2使用)

通常技3 :一文字崩し (HPを1使用)


 武器がレベルアップしている。薬がかかったからか?

 俺は自分のレベルを確認してみた。


勇者見習い:Level 1

HP : 10/12

攻撃力 : 95

防御力 : 12

魔法力 : 2/2


 レベルこそ上がっていないが、パラメータが上がっている。

 HPが2減ってるってことは、さっきの技は『一刀両断斬り』ってことか。

 しかし、これ、攻撃力が無茶苦茶高くないか。俺は木刀を腰に納めた。すると、攻撃力が一気に8まで減ってしまった。そうか、木刀の攻撃力のせいか。

 俺は、他のアイテムも確認してみた。


祝福された高速のサンダル: +2


祝福された魔法のローブ : +2

  魔法攻撃を100%防御する


祝福されたズボン:+1


 軒並みレベルアップしてやがる。直接飲んでいたら、どれだけレベルアップ出来たろう。くそう。神の加護なんてありゃしない。そう思いながら振り向くと、祭壇の奥に祠が建っていた。

「祭壇までレベルアップしてやがる」

 すると頭の中にまたアマテラスの声が響いた。

<我アマテラス、汝が供物、確かに受け取った。我汝を庇護するものなり>

 要するに、レベルアップの薬を確かにもらったよ、ってことね。

「はぁ~」

 俺はため息をつくと、祭壇の上に転がっている虎を見た。


 セイバータイガーの死体


 もしかして、こいつを使えば……。俺はまたアマテラスに祈った。

(アマテラスの神よ。我をお守り下さい)

 祭壇のセイバータイガーの死体が光輝き、そのまま消えた。

<我アマテラス。汝を庇護するものなり>


「ちきしょう、何も出ないじゃないか! 供物が足りないのか?」

 俺は、残りのイグアナとオオトカゲを、全て祭壇に乗せると、もう一度祈った。

(アマテラスの神よ。我をお守り下さい)

 祭壇のトカゲやイグアナは、光輝いて、そのまま消えた。

<我アマテラス。汝を庇護するものなり>


 ちきしょう、何も出ないじゃないか! 俺は自分のパラメータを確認してみた。


勇者見習い:Level 1

HP : 12/12

攻撃力 : 8

防御力 : 12

魔法力 : 2/2


 HPが回復した。しかし、ただそれだけである。

「くそ~う、何たる失態」

 どこまでも、いけていない展開に、俺は絶望仕掛けた。


「もしかして、ずっとレベル1のままだったらどうしよう」

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