真の勇者レベル10(10)
俺とサンダーは、盗賊団の注意を引き付けるために派手に暴れ回っていた。
その頃、ミドリちゃんは、シノブちゃんや自警団員たちと、人質救出のための隠密行動をとっていた。
潅木が繁る小さな林の入口を、二人の盗賊が見張っていた。
すると、急に一方の男が、後ろから首を捻られて悶絶した。
「おい、どうしたんだ!」
もう一人が近づこうとした時、
「エレバウム」
と呪文が唱えられると、ソイツは身体から火花を放ってそこに倒れた。ミドリちゃんの魔法である。
「電撃の魔法だよ。君はしばらくそこで眠ってるといい」
「あんたは、一生眠ったまんまやなぁ。アハハハハ」
平気で恐ろしいことを言っているのは、勿論くノ一のシノブちゃん。
「殺したのか? 物騒なやつだなぁ」
「盗賊に情けなんか要らへんって。さぁ、行くでぇ」
シノブちゃんが腕まくりをしながらそう言うと、自警団の別班が後に続く。
「ふぅ、オーケイ。行くよ」
さすがのミドリちゃんも呆れたようだが、彼女に続いて林の中へと入って行った。
林の奥には、人質の捕まったバスが二台停まっていた。情報通りである。回りには、盗賊らしき男たちが、ライフルや山刀で武装して見張っていた。
「シノブさん。ざっと、十人くらいですかね?」
自警団の一人が、小声で尋ねた。
「そのようやな。皆、準備はええか? 突入するで」
「大丈夫っす」
「よし、行くで。うちの忍術殺法を見してやる」
その声を合図に、シノブちゃんを先頭にして、ミドリちゃんと自警団員が突入した。
「喰らわんかい。『くの一 ドロップキィーック』」
シノブちゃんの豪快な飛び蹴りで、盗賊の一人が吹っ飛んだ。
「まだまだ行くでぇ。『くの一 卍固め』」
バベキという音がして、さらにもう一人の盗賊が倒れる。
「『くの一 チョークスリーパーホールド』」
『ボキ』
「『くの一 コブラツイスト』」
『メキャ』
「『くの一 延髄切り』」
『ボクッ』
「あ、あれって忍術かぁ。間違っているぞ。プロレス技じゃないかぁ」
ミドリちゃんは呆気にとられて、思わず隣の自警団員に訊いた。
「いやぁ、シノブさんは、いつもああだから。ホント、強いっすよねぇ。ハッハッハ。でも、本人に言っちゃダメですよ」
「あっ、そう……。それじゃ、ボクも攻撃魔法を披露するかな」
ミドリちゃんはそう応えると、右手を挙げて呪文を唱えた。
「フレア・バルン」
魔法師の手から無数の火の玉が現れ、空宇宙を飛翔して盗賊たちを襲った。
「ギャア」
「あ、あちちつ。助けヘバ」
「フッフッフ。必殺『くの一 空手チョップ』。見たか、うちの忍術攻撃」
「俺たちも行くぞぉ」
自警団員たちも、拳銃やアサルトライフルで盗賊を撃ち倒していった。
「こんのぉ、メスブタがぁ」
そんな時、盗賊の一人が至近距離からミドリちゃんに山刀で切りかかった。この距離とタイミングでは、防御魔法は間に合わない。
ところが、分厚い刃はミドリちゃんの両腕で「ガッキ」と受け止められていた。
「勇者くんのくれた小手、早速役に立ったよ。喰らえ「インパクター」」
ミドリちゃんの右手が盗賊の腹を強打すると、凄まじい衝撃魔法の威力で、その男は彼方に吹き飛んでいった。
「シノブさん、あらかた片付きました」
「よっしゃ。万が一息のあるやつがおったら、ふんじばっといてんか。ほな、魔法師さん。バスの鍵、開けてくれへんか」
「任せて。「クラヒ」」
段取り道りに作戦が進んだので、ミドリちゃんはバスの扉に呪文を唱えるた。すぐに、「カチリ」と音がして、ロックが解除される。もう一台の方のバスにも、同様にして解錠魔法で鍵を開ける。
「皆、助けに来たぞ! 外の見張りは倒した。落ち着いて、順番にバスを出てくれ。脱出するぞ」
バスに乗り込んできた自警団の言葉に、捕まっていた人々は、
「おお、助かるのか」
「ありがとうございます」
「やった、助かった」
と口々にそう言うと、立ち上がった。
彼らは、自警団たちに誘導されて、次々とバスから降りてきた。
「向こうは戦場になっている。こっちに来て隠れるんだ」
開放した人質たちを安全な場所まで誘導すると、ミドリちゃんは作戦成功の報を、俺たちに知らせてくれた。
<勇者くん、ボクだ。捕らえられた人たちの救出に成功したよ>
俺の左手のレシーバーが、鳴った。
「本当っすか、ミドリちゃん。了解。なら、こっちも〆るっす」
<頼んだよ、勇者クン>
「サンダー、聞いたっすか。こっちも、そろそろ本気で行くっすよ」
「心得たでござる。おおおお、サンダー・チャージ」
サンダーは、盗賊たちの密集しているところに踏み込むと、強烈な電撃を放出した。何人もの盗賊が、もんどりうって倒れる。
俺も負けてはいない。
「吹き飛べ、一文字崩し、連続切り!」
こうして、盗賊たちの企みを阻むのは、後もう少しとなっていた。
「お、お頭ぁ、全然歯がたちません。どうすりゃいいんすか」
手下の報告に、盗賊団の首領はニヤリと口の端で笑うと、
「仕方がねぇなぁ。おい、『あれ』を使うぞ」
「お頭、『あれ』って、……まさか例のやつですかい。『あれ』は、未だ調整が出来てないすよ」
「じゃぁ、お前が行って、何とかしてくれるのかよ。ええ」
そう言うと、ボスは手下を踏みつけにした。
「わ、分かりやした。『あれ』を出します」
「最初っからそうすりゃいいんだよ。フフフ、勇者だかロボットだか知らねぇが、『あれ』にかかったら最後、イチコロよ。ゲハハハハハ」
俺とサンダーとで、盗賊たちはほとんど壊滅状態だった。するとそこに、壊れた野戦砲の残骸を踏み潰しながら、唸り声をあげて現れたモノがあった。
「ゆ、勇者殿。あれは、確か……」
「何だぁ、あれは機械魔獣じゃないか。あんなもの、人間が手懐けられるのか」
盗賊の死体や負傷者の転がる戦場に現れたのは、二体の機械魔獣だった。それぞれに盗賊が手綱をつけて乗っている。
「あんなこけ脅し、拙者がやっつけてやるでござる」
サンダーはそう言って、マグナムを構えようとした。
だが、それを俺は止めた。
「待てよ、サンダー。こけ脅しには、こけ脅しで返そうじゃないか。なっ」
そう言って、俺はサンダーを見上げると、ニッと笑った。
「勇者殿、では『あれ』をやるのでござるな」
サンダーも分かっているのだろう、輝く瞳を俺に向けた。
「当然さ! やるぞ、サンダー」
「おうっ」
フフフ、盗賊団め。見せてやるぞ、真の勇者の力を。
「カム・ヒヤー、ブレイブ・ローダー」
俺のコールで地平線の彼方に黄金の光が差し込むと、そこからゴゴゴゴゴと唸りをあげて、巨大な何かが近づく気配があった。
「な、何だぁ、ありゃ」
盗賊団も自警団たちも目を疑った。地響きを立てて疾走してくるそれは、信じられないほど巨大なトレーラーであった。
俺は、サンダーに目配せすると、命令を出した。
「サンダー、ブレイブ・ローダー、合体だっ」
「おう」
サンダーが応えると、ブレイブ・ローダーはその主翼を広げ空高く舞い上がった。空中で車体の角度を垂直に傾けると、みるみるうちに巨大ロボットの姿に変形して行く。最後に胸部装甲が開くと、巨大な頭部が持ち上がった。
「とう」
掛け声と共にサンダーが飛び上がると、空中でビークルモードに変形し、胸部装甲内にセットされる。
そして、胸部が閉まった時、巨大な鉄巨人の目が輝きを放った。
「あ、あれは……、あれは何だ」
「何なんだ、あれは」
「あ、あれが……そうなのか」
盗賊たちも、保安官も、自警団たちも、ミドリちゃんでさえ驚愕した。その場にいるものは、俺を除いて全員が目を見張った。
「勇者合体、ブレイブ・サンダー!」
地面に降り立った巨大勇者ロボットは、数十メートル近い巨体を機械魔獣に向けた。
「お、お頭。あ、あれは……」
「あ、あんなモノ、こけ脅しだ。あんなブリキ野郎なんか、俺たちの機械魔獣でぶっ潰してやれ」
盗賊団のボスは、機械魔獣の乗り手にそう命令した。二体の機械魔獣が、ブレイブ・サンダーに迫る。
「ブレイブ・サンダー、機械魔獣なんか、やっつけてしまうっす」
俺は、巨大な勇者ロボに命令を下した。
「おぉぉう」
と応えて、ブレイブ・サンダーはその巨大な拳を奮った。
「ハイパー・ライトニング・ナックル」
電撃を帯びた右拳が、機械魔獣の一体を正面から殴りつけた。
グシャグシャに潰れた機械魔獣が電撃を帯びて、数百メートルも吹き飛ばされると、空の彼方で大爆発を起こした。
「怯むな、やっつけろ」
盗賊団のボスの激が飛ぶ。だが、それもブレイブ・サンダーの前では、虚しい響きにすぎなかった。
足に噛みつこうとした機械魔獣を、巨大勇者ロボは両腕で掴んで軽々と持ち上げた。それを、頭上でいとも容易く鯖降りにすると、盗賊団の首領の乗る装甲車の方へ投げつけた。地面に叩きつけられた魔獣が火花を散らせてもがいていたが、それもすぐに動かなくなった。
「バ、バカな。俺の機械魔獣を、あ、あっという間に、潰すなんて。そ、それも、二体も」
呆気にとられている盗賊団の頭の姿に、巨人の影が覆いかぶさった。ヤツは目を見開いたまま、動くことも出来なかった。ブレイブ・サンダーの右肩の上から、俺はその様子を見下ろしていた。
「さぁ、残りはお前たちだけっすよ。降伏するなら、今しかないっすよ。それとも、ペシャンコに踏み潰されたいっすか」
「く、くうぅぅぅ。この俺様が降伏だとうぅ」
盗賊団のボスは、怨めしそうに俺を見上げていた。
「そんなに嫌か? どうしても降伏しとうないんなら、ジブン、ここでイッペン死んどく?」
気がつくと、シノブちゃんがボスの背後をとって、彼の喉元にナイフの刃を当てていた。
「い、いつの間に」
「くの一舐めとったらあかんで。捕まってた人たちも解放した。白旗挙げるんなら、今しかないで。それとも、ここでジブンの首、はねたろか。……ま、それもええなぁ~」
シノブちゃんは容赦がなかった。
盗賊団のボスは、万策尽きたと思ったのか、
「わ、分かった。俺たちの、敗けだ。こ、降伏する」
と、脂汗を流しながら、そう言うしかなかった。
「やったぞぅ。俺たちの勝利だ!」
保安官と自警団たちが歓声を挙げて、走ってきた。
「皆、息のあるやつは武装解除してふんじばれ。一人も逃がすな。さ、お前も観念するんだな」
保安官は、盗賊団のボスにそう言うと、彼に手錠をかけた。
こうして、俺たちは盗賊団に勝利し、町を守ったのだった。




