表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/38

勇者見習いレベル1(2)

 俺はコーラの空瓶を手に、『勇者の棍棒』を引き摺りながら、のたのたと道を歩いていた。高かった太陽が傾きかけている。早く人のいるところへ行って、何か食べないと。


 HP : 6/10


 うわぁ、またHPが減ってる! このままではマジで死んじまうぞ。しかも、闘いや謎解きをするまでもなく、『餓死』とは。あまりにも、情けなさすぎる。


 やっとの思いで、歩みを進めていると、遠くに人影が見えた。何かに座っているようだ。

 俺は、HPを消費せぬよう、早歩きで人影へ急いだ。


「あんた、どうしたんだい?」

 おお、日本語だ。言葉が通じるぞ。俺は息が上がっていてすぐには答えられなかった。俺が男を見上げると、


 行商人:Level 3

  HP :15/15

  攻撃力 : 8

  防御力 : 9

  魔法力 : 0

  道端で商売をしていて、物を売ったり買ったりできる


「す、すんません。こ、これで食えるもの買えますか?」

 俺はなけなしの五円玉を差し出すとそう言った。

「五円かい。それじゃ、このチョコレート一個だな。そっちの空瓶を売ってくれるのなら、五円と合わせてソーセージ一本だな」

「え、これお金になるんですか?」

「ソーセージ一本分は、かなり勉強してるがね。ん、どうするあんちゃん」

 俺は迷わず、ソーセージをもらった。

「う、うめぇ。ソーセージがこんなうめぇとは」

 俺は、ソーセージをガツガツほおばりながら、涙を流していた。

「そうガツガツせんでもソーセージは逃げないよ。あんた見かけない顔だね。旅行者かい?」

「似たようなもんです」

「ははは、この道は三ヶ月に一度くらいに、あんちゃんみたいのが通るからな。あんちゃんも、『気が付いたらこの世界に来てた』ってやつかい?」

「そ、そうです。気がついたら、この世界に来てて……、ようやっと話せる人と会えたところです」

「そうかい。なら、いいこと教えてやろう。そこの道を少し行くと森があるんだが、そこにオオトカゲやらなんやらが棲んでるんだ。そいつらを狩ってきたら、大きさにもよるが、一匹百円で買ってやるよ」

「一匹百円って、ほ、ほんとっすね!」

「ああ、買ってやるとも。オオトカゲは、生じゃ食えたもんじゃあないが、乾燥すると旅行用の保存食になるからな」


 俺は自分のHPを確認した。


  HP : 8/10


 おお、大分回復したぞ。よし、やってやる。

「その先の森ですね。行ってきますよ。一匹百円、忘れないでくださいね」

「おう、あんちゃんもがんばれよ」


 俺は、大急ぎで森までの道を走った。


 目の前に見えた森は、鬱蒼としていて、昼間というのに薄暗かった。

 俺は周りに注意しながら森へ入ると、獲物を探した。


 五分も歩いただろうか、突然目の前の茂みがガサガサと音を立てると、イグアナのような一メートルくらいの大きさの爬虫類が這い出てきた。こちらを睨んでいる。


  オオトカゲ : Level 1

HP : 4/5

  攻撃力 :4

  防御力 :3

  攻撃的な性格で、口から毒液を吹き付ける


 これなら、やっつけられるかもしれない。気を付けるのは、毒液かぁ。

 俺は、『勇者の棍棒』を構えると、注意しながら、間合いを詰めた。

 オオトカゲは「キシャー」と吠えると、一気に俺に飛び掛かって来た。

 ナムサン、俺は渾身の力を絞って、棍棒を振り下ろした。「ガツン」という音がして、オオトカゲは地面に落ちると動かなくなった。

「やった、やっつけたぞ。さすが『勇者の棍棒』。一発でやっつけるなんて、すごい攻撃力だ。これで百円ゲットだ」

 取りあえず、こいつを持って帰ろうとしたところに、またガサガサという音がして、さらに三匹のオオトカゲが現れた。

 中に、一匹だけ大きいのがいる。俺は注意深く見つめた。


  火トカゲ:Level 3

  HP : 15/20

  攻撃力 : 12

  防御力 : 9

  サラマンドラの幼生体。凶暴で、怒ると口から火を噴く。


 レベル3かよ。これじゃぁこっちもただでは済まんな。ってか、殺されるんじゃないか? ここにきて、ゲームオーバーはたまらん。逃げるか?

 考えているうちに、二匹のオオトカゲが、飛び掛かって来た。

 俺は棍棒を振り下ろすと、また、「ガツン」と音がして、オオトカゲが地面に転がった。一方俺の方も左肩の爪痕から血をにじませてる。HPは7に減っている。

 奴らの素早さから、逃げ切るのは無理のようだ。仕方ない。一発必中を狙うしかない。俺は二匹のトカゲがなるべく一ヵ所にかたまるように、間合いを探りながら移動した。

 俺は棍棒に意識を集中させた。技が出せるのは、一回きり。ハズレは許されない。じりじりと後ずさりながら、細い小道に誘導する。と、突然二匹が俺に飛び掛かって来た。

「今だ、『一文字崩し』」

 俺は『勇者の棍棒』を横なぎに振り回した。「ドゴン」と音がして、二匹がまとめて吹っ飛んだ。二体のトカゲは近くの大木にぶつかって、地面に落ちると、ヒクヒクと痙攣し、そのまま動かなくなった。俺のHPは3まで減っていた。

「あ、危なかったぁ」

 俺はその場にへたり込むと、左肩の傷をおさえた。

「もう出てこないよな……」

 それにしても、さすがは『勇者の棍棒』。レベル 1の俺が使って、レベル 3の火トカゲを倒せるとは。大事に使わなくちゃならないな。


 しばらくへたり込んでいたが、もうトカゲなどの類が出てくる様子がないので、俺はそろそろと、トカゲの死体に近づくと、尻尾をつかんで回収していった。

「結構重いな」

 さすがに、オオトカゲ四体を運ぶのには、荷が重い。

 それでも、一匹百円のために、力を振り絞ってトカゲを担ぐと、さっきの行商人のおっさんのところまで、運んで行った。


「よう、お帰りぃ、あんちゃん。その様子だと、大漁のようだな」

 俺はおっさんのいたところまで、ようやっとたどり着くと、その場にへたり込んだ。左肩の傷が痛む。HPは2まで減っていた。

「おっさん、オオトカゲ三匹に、火トカゲだ。いくらになる?」

「ほお、火トカゲかい。珍しいモンが獲れたな。火トカゲの生血は、精力剤になるんだ。干し肉も高い値で売れる。あんちゃんの奮闘に敬意をこめて、千円でどうだい。火トカゲの生血もおまけに付けるよ。オオトカゲの方も一匹百五十円出そう」

「あ、ありがてぇ。それで頼むよ」

「あんちゃん怪我したのかい。この葉っぱをはっつけとくといいよ。半日もすれば、傷が治る。この葉っぱは何回も繰り返し使えるから重宝だよ。これもサービスでつけといてやるよ」

「す、すまねぇ」

 おれは、葉っぱを受け取ると、着ていたパジャマを脱いで、左肩に葉っぱを貼り付けると、パジャマを割いて包袋にしてぐるぐる巻きにした。少し、痛みが引いた気がする。

「おう、採れたぞ、火トカゲの生血だ。どうだ、飲めるか?」

 俺はおっさんから、生血の入ったグラスを受け取ると、口に流し込んだ。ドロドロしていて、生臭い。それでも、無理をして喉に流し込むと、なんだか身体が回復してくるような気がした。HPを調べると、10/11になっている。

「おっさん、助かったよ。あと少しで死ぬところだった。ありがとな」

「なぁに、わしゃ、あんちゃんみたいなのを何人も見てきたからな。トカゲに返り討ちになったのか、帰ってこなかったやつも少なくねぇ。本当にあんちゃんはラッキーだよ」

「ああ、本当にそうだ」

 取りあえず、俺は当面の危機を乗り越えたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ