中級勇者レベル3(5)
俺たちは、次の遺跡のある森まであと半日という距離のところまで来ていた。
俺たちはサンダーが飛ばした探査機のデータを基に作戦をたてるために、ブレイブ・ローダーの居住区に集まって、フロントモニターを眺めていた。
「これが、森とその周辺の詳細図でござる」
「思ってた通り、森の中心にマウンドと遺跡のようなものが映っているっす。ここが攻略ポイントっすね」
「ああ、そうだ。だが、探査機の撮った写真には、機械魔獣やラプトル・タイプの魔獣が映っているよ。特に機械魔獣は、ボクの攻撃魔法も勇者くんの技もあまり効かない厄介な相手だ」
ミドリちゃんの分析の通り、確かにこいつらは厄介だな。
「それともう一つ。探査機が破壊される前に撮った最後の写真でござる。飛行タイプの魔獣のようなものが隅に映っているでござる」
「サンダー、拡大してもらえないっすか」
「心得た」
俺は、何が映っているのか確かめたかった。考えられる危険は、出来得る限り洗い出しておかないと。
「うーん……、これはワイバーン・タイプの魔獣だね。上空から火炎攻撃をしてくる厄介なヤツだよ」
未確認物体を特定したのは、ミドリちゃんだった。
「魔獣の火炎や火球攻撃は、魔法じゃないからね。勇者くんの『魔法のローブ』では防げないんだ。まぁ、かくいうボクも、防御魔法は得意分野じゃないから厄介だね」
向こうも守りを万全にしてくるようになったな。これからは、本当に「ラッキー」だけでは勝てないかも知れない。
「アマテラス様の祭壇への入口は、西側のようですね。わたくしたちが通っていけるのは……、南東の広い道だけになりますね」
「そうでござるなぁ」
俺とサンダーが考えあぐねていると、ミドリちゃんが戦法の提案をした。
「と言うことは、戦法は二つ考えられるね。一つは、ブレイブ・ローダーの飛行機能で空から遺跡に強襲する方法。もう一つは、サンダーたちを囮にして、ボクと勇者くんとで西の崖から森へ侵入する方法だね」
「そおっすねぇ……。でも、どっちにしても、遺跡のゾンビ集団を避けては通れないっす。あのゾンビ達は、火炎攻撃で焼くぐらいしか有効な攻撃方法が無いんすよぉ」
「勇者殿、探査機の地底探査レーダーでスキャンをしてみたでござる。その結果を見るに、遺跡周辺には200近い数のゾンビが隠れているようでござる」
フロントモニタに遺跡周辺が拡大された画面が映ると、ゾンビらしき物体が大量にマーキングされた。
「それと、気になることが……。ゾンビに似てはいるでござるが、反応がはるかに大きなものが一つあるのでござる」
サンダーが気になる発言をした。
「この前の遺跡みたいな、邪鬼かな?」
俺が思ったことを口にしたら、ミドリちゃんから待ったがかかった。
「いや、勇者くん。それは多分『ゾンビ・ヘッド』だね。強力な魔法使いがゾンビになった奴だよ。ゾンビ集団を統率したり、魔法攻撃をしてきたりするんだ。こいつも強敵だな」
彼女の解説よりも、その表情が強敵であることをうかがわせた。
「どの戦法をとるにしても、上空のワイバーンが厄介っすね。こっちの持ち駒で、ワイバーンに対抗できるのは、空中戦が可能なブレイブ・ローダーくらいっす。結局、どうやっても戦力は二分、三分されてしまうっすねぇ。う~む、難儀だなぁ」
「拙者が直接コントロールできれば良いのでござるが……。完全自動操縦でワイバーンと戦闘するには、精度が下がってしまうでござる」
俺は両腕を胸の前で組むと、他に方法がないかを考えた。
「そうだ。最初っからブレイブ・サンダーに合体して戦うって言うのはどおっすか?」
「合体は勇気のエネルギーが高まらないと出来ないでござる。それに、合体時には急速にエネルギーを消耗するでござる。長期戦になるとエネルギー切れの心配が出てくるのでござるよ」
これも、ダメか。
「どっちにしても、ブレイブ・ローダーが『戦力の鍵』ってことか……。巫女くん、射撃の精度は上がったかい?」
ミドリちゃんが、コックピットシートに座ってこちらを向いている巫女ちゃんに話しかけた。
「練習は続けているのですが、なかなか上手くなりません。……バルカン砲のような、弾を乱れ打ちにする武器は大分当たるようになってきましたが、プラズマ・アローのような一撃必殺の武器は、まだ五十パーセントの命中率までしか当たらないのです……」
「地上には機械魔獣もいるから、サンダーをブレイブ・ローダーに貼り付けておくわけにもいかないっすからねぇ。……やっぱり、巫女ちゃんにブレイブ・ローダーを操縦してもらうしかないっすかぁ。ミドリちゃんは、対ゾンビ用の爆炎魔法が使えるから、俺と一緒に森へ入ってもらうとして、残りの戦力で、地上と空の魔獣軍団に立ち向かってもらうしか、打つ手はなさそうっすね」
「となると……、囮作戦の方でござるな」
「そのようだね。ボクは明日までに『スケルーフ(隠密魔法)』の練習をしといた方がよさそうだ。ふぅ……」
「わたくしも、射撃の練習をしなくてはなりませんわね……」
ミドリちゃんに続いて巫女ちゃんも溜息めいた吐息を吐き出していた。自分が勝敗の鍵になると思って、無理をしなければいいのだけれど。
「まっ、どう転んでも明日が決戦す。練習も大事っすが、今夜はゆっくり寝て次の日に備えるのも大事な事っすよ」
俺は、なんとかチームの雰囲気が暗くならないように、わざと明るく声をかけた。
「分かったでござる。拙者は、幾通りかの戦闘パターンをシミュレーションして、ブレイブ・ローダーの戦術コンピュータに書き込んでおくでござる。そうすれば、巫女殿の負担もかなり軽くなるはずでござる」
「ありがとうございます、サンダー」
「じゃあ、今夜はここで野営することにして、夕食までは自由行動っす。くれぐれも無理な練習なんかして、怪我なんかをしないように。では、解散」
「オッケイ」
「分かったでござる」
「分かりました。……あのう、夕食は簡単なものになってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「構わないっす。巫女ちゃんも肩の力を抜いて、十分休みを取った方がいいっすよ」
「勇者様がそう言ってくれて、助かります。ありがとうございます」
こうして作戦会議は一応の終わりを告げた。
俺は夕食までの間を使って、近くの草原で素振りをやっていた。これまでだって、アマテラスの加護もあったけど、仲間の力を借りて、皆で力を合わせて、勝って来たんじゃないか。せっかくここまで来たんだ。こんなところで挫折して、次の勇者を召喚させるような事にはなりたくなかった。
(俺がこの異世界の最後の勇者になるんだ)
俺は、今まで以上に緊張していたのかも知れない。
「よう、へっぽこ勇者。今更付け焼刃かい?」
「ミドリちゃんすか。……その通りっす。明日、筋肉痛にならない程度にするつもりっすけど。何だか落ち着かなくって……。何せ、今まで「成り行き」と「出たとこ勝負」しかやってきて無かったっすから。ハハハ……」
「いや、勇者くんは凄いよ。今まで誰も気が付かなかった、アマテラスの祭壇を見つけ、この異世界の浄化の仕方を発見したんだから。……なぁ、勇者くん。君は、ボクの目の前で死んだりしないよな」
そう言うミドリちゃんは、今まで見せたことが無いような顔をしていた。
「ミドリちゃん? どうしたんすか」
俺がミドリちゃんを振り返ると、軟らかくてしなやかなその身体が、俺の腕の中にふわりと飛び込んできた。
「嘘でもいい。自信が無くてもいい。だから……『死なない』って言ってくれ。ボクは、……ボクはもう、大事な人が目の前で死ぬのを見たくないんだ」
「ミドリちゃん……」
俺は、どうしてミドリちゃんが勇者を辞めたのか、分かったような気がした。
「大丈夫っす。俺は絶対死なないっす。何せ、『ラッキー』と『アマテラスの加護』があるんすから。ミドリちゃんこそ、自分の心配をした方がいいっすよぉ。こんな風にされたら、俺、ミドリちゃんを押し倒しちゃうかも知れないっす」
俺は、わざと強がって見せた。
「……いいよ」
ミドリちゃんが囁くように言った。聞き違いかも知れない。
「いいよ、君なら」
今度は、はっきり聞こえた。
「ミドリちゃん……」
勝気な魔法師は、今、俺の腕の中でただのか弱い女の子になっていた。俺が、思わず抱きしめようとしたところ、
「勇者様ぁー、魔法師様ぁー、夕食のご用意が出来ましたよぉー」
と、巫女ちゃんが叫ぶ声が聞こえた。
俺とミドリちゃんは慌てて、身体を離すと同時に後ろ向きになった。
「お、おい、ヘボ勇者。い、今の無しだぞ。誰にも言うなよ。絶対だぞ」
「ミ、ミドリちゃんこそ、黙ってるっすよ。でないと、俺が皆に獣扱いされるっす」
俺は震える声でミドリちゃんに応えていた。
「さぁ、晩飯っす。今夜はいっぱい食って、明日に備えるっす」
「その通りだな。じゃあ、ボクはさっさと飛んでいくよ。おっさきにぃー」
「あ、空飛んでくのはズルいっす。待つっす、このイジワル魔女っ娘ぉーーー」
皆様々な想いを胸に秘め、決戦の前夜が暮れていった。




