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勇者見習いレベル1(1)

 俺がしばらく田んぼの畦道を歩いて行くと、農道と思われる小道に到達した。


「さて、右に行こうか左にしようか。最初の運試しだな」

 俺は道の左右を見比べてみると、右へいく道の方が、若干轍や足跡で乱れているように見える。今は情報がない。どこか人のいるところで、情報を収集しなくては。

 俺は右を選ぶと、『勇者の棍棒』を引き摺りながら、どぼとぼと歩き始めた。


 しばらく歩くと、道の脇に、どこかで見たような、細長い大きな箱型の物体を見つけた。

「これって……、電話ボックス?」

 異世界にも電話が普及しているのかと思いながら、電話ボックスに視線を集中した。


電話ボックス

攻撃力 : 8

防御力 : 892

遠くの人物と会話ができる


 そのまんまじゃねえか。しかし、電話ボックスに防御力は、何となくわかるが、どうして攻撃力が備わってるんだ?

 そのとき、ジリリン、ジリリンと、電話がなった。誰もいないし、俺がとってやろう。

 俺は電話ボックスを開けて中に入ると、受話器をもちあげた。

「はい」

<森脇さん? あんた森脇さんでしょう。今月の原稿出来た。あした〆切だよ、〆切>

「いやぁ、あのちょっと、俺は……」

<言い訳なんか通りませんからね! さっさと原稿を仕上げてくださいよ>

 けたたましいマシンガントークに、俺はしどろもどろになった。

「あの、こっちの話しも聞いて下さい。ここは公衆電話で、俺は森脇なんかじゃない」

<えっ? 違うの。何だよ、急ぎの電話なのに。ちっ>

 相手はそう言うと、ガチャリと、電話をきった。

 なんだよ、マナーの悪いやつだな。俺は、一瞬で嫌な気持ちになった。ふと、自分のパラメータを見ると、


HP : 9/10


 どええええ、HPが減っている! メンタルな面でもダメージを受けると、HPが減るのか。公衆電話、恐るべし。

 その時、俺はあることを思い出して、電話機のおつりの出口を物色した。この手触りは、

「やりぃ、二十円げっとぉぉぉ」

 しかし、たかが二十円で大喜びするとは、我ながら恥ずかしい。

「もしかしたら、その辺にも小銭が落ちているかも知れないぞ」

 俺は、電話ボックスの床や、その回りを探してみた。

「やったー! 百円玉だ。こっちは五円玉か」

 五円玉はいまいち使いでがないな。

 しかし、田んぼ・農道・電話ボックス・十円玉や百円玉。この組み合わせって、現代日本じゃないか。俺はもしかして、誰かに担がれてるんじゃないのか? その辺りから、友達が飛び出してきて、

「ビックリテレビでしたあ~」

 てな具合で、終わるような感じがしてきた。

 だが、十円玉をよく見て、それはないことがわかった。

『神歴三十二年』と、その十円玉には書かれていた。百円玉の方は『神歴二十年』だ。

「少なくとも、現実の現代日本じゃないよな」

 俺は肩を落とすと、また棍棒を引き摺りながら、農道を歩いて行った。



 しばらく農道を歩いていくと、道の端っこに大穴を見つけた。

「危ないなぁ、こんなところに穴なんか掘って。誰かが落ちたらどうするんだ」

 俺は、穴に近づくと、その中を見てみた。はじめは暗くてよく見えなかったが、目がなれてくると、穴の底に誰かが倒れているのに気がついた。もう腐敗しかかっている。

「ああ、間違って落ちちゃったんだね」

 俺は両手を合わせると、「成仏してください」と祈った。

 目を開けて何とはなしに、死体を見ると、例の文字が浮かび上がった。


見習い勇者の死体


 ノオオオオオオオ。まかり間違えば、俺があんな死体になってたかもしれないのか。やはり異世界、恐るべし。


 しかし、いつまで経っても人里に着かないなぁ。それどころか、すれ違う人にさえ会わない。

 長いこと歩き続けた俺は、腹が減ってるのに気がついた。

「クソッ、腹減ったぁ。何か食えるものは落ちてないのか?」

 しばらく歩くと木々の根本に中ぶりのキノコが生えてるのを見つけた。

「もしかしてこれ食えるのかな?」

 俺は期待して、その中の一本をちぎって手にとった。


毒キノコ

食べた者は身体が痺れて動かなくなる


 ドッヒャー、毒キノコかよ。危ない危ない。こういうところは、やっぱRPGっぽいな。

 しかし、腹減った。こんなことなら、夕べの夕食、腹一杯食っとけばよかった。

 俺は、空腹と疲労のせいで、歩くのがやっとという状態になりつつあった。念のためHPを確認する。


HP : 7/10


 HP減ってるやんか。これでは、人に会う以前に餓死してしまう。

 死ぬ前に何か見つけて食わないと……。


 必死の思いで歩き続けると、遠くに見覚えのある金属製の箱が見えた。もしかしてあれは。

 俺は力を振り絞って、箱の前までたどり着いた。


自動販売機

攻撃力 : 0

防御力 :913


 よっしゃぁ、ラッキー! これで何か飲めるぞ! 百二十円で買えるものは、あったコーラだ、コーラ。異世界でもコーラ売ってんだな。

 俺は、なけなしの百二十円を自動販売機に突っ込むと、自販機のコーラのボタンを押した。

 ガコンと音がして、ペットボトル入りのコーラが出てきた。

「ウオ、冷てぇ」

 俺はよく冷えたコーラを、喉に流し込んだ。

「うぃー、ゲップ。ひとごこちついたぜ」

 ついでにHPを確認する。


HP : 8/10


 おお、少し戻ったぞ。

「しかし、色んなドリンクを売ってんな。これは何だ。『栄養ドリンク これであなたのHPも元通り』って、そんなのあったのかよ! こっちは『これ一発でレベル上昇 特製レベルアッパー』。なんて美味しいドリンクがあったのに。どうしてコーラなんが買っちまったんだ。アホな自分が情けない」

 今さら気がついても、持ち金五円じゃ、何も買えない。お釣りもなかったし……。

 いっそのことぶっ壊すか、と思ってみたものの、防御力が913じゃ相手になりゃしない。


 俺は失意に包まれながら、コーラのボトルを持つと、『勇者のこん棒』を引きずって、歩き出した。


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