中級勇者レベル3(2)
俺たちはブレイブ・サンダーの並外れたパワーのおかげて、巨人ゴーレムに勝利した。
俺は改めて、ブレイブ・サンダーのパラメータを調べてみた。
合体勇者ロボ : Level 30
HP : 520
攻撃力 : 615
防御力 : 580
魔法力 : 100
勇者ロボと支援戦闘トレーラーが合体した最強勇者ロボ
勇者と共にアマテラスの祭壇を浄化する
なんて物凄いパラメータだ。まさに無敵。
「勇者殿、どうなされた?」
「え、ああ。ブレイブ・サンダーのパラメータを見て驚いていたところっす。すごい数値っすねぇ」
ブレイブ・サンダーは、俺たちを自分の掌から地上に下ろすと、合体・変形を解いた。
胸からサンダーが飛び出すと、ブレイブ・ローダーはその形をトレーラーへと戻し、そのまま倒れこむように地面に横たわった。
「すげぇっす。これがブレイブ・ローダーか」
俺は、サンダーを支援する巨大トレーラーを前にして、呆気にとられていた。
「このブレイブ・ローダー単体でも、戦車やヘリに負けないくらいの戦闘力と機動力を持っているでござる。しかも、中はキャンピングカーのように、居住施設が組み込まれているでござる」
サンダーがそう言うと、ブレイブ・ローダーの側面が開いて入口になった。
縦長の隙間から車内を覗いてみて、俺と巫女ちゃんは驚いてしまった。
「うわぁ、広いですね。お料理を作る所や、眠るところもついています。あ、勇者様、これは何でしょう?」
巫女ちゃんは、キッチンの一角を指差して訊いた。
「あ、これは冷蔵庫っす。食物が痛まないように、低温で長期間保存する機械っす。それから、この四角い箱みたいなのは電子レンジっす。冷たい物も、この中に入れてスイッチを押せば、温かくなるっす」
俺の説明に、
「わぁ、なんて素晴らしい機械でしょう。こんな物を見るのは初めてですわ。勇者様の世界には、進んだ機器があるのですね」
と言って、驚嘆の眼差しを俺に送った。
「ま、まぁ、詳しい原理は、俺にもよく分からないんすけどね」
巫女ちゃんには初めてのキッチン用品に興味があるようで、台所のあちこちを覗いたり、手を触れたりしていた。
「あ、大型のモニターテレビもついてるんすね」
俺は、居住区の前方方向にセットされている薄型モニターの事を訊いた。
「それは、車外を映し出すモニター画面でござる。ガラス窓などは、敵から見れば恰好の弱点や侵入口になります故。戦闘装甲車でもあるブレイブ・ローダーには、窓が無い設計になっているでござる」
「ふ~ん、なかなか考えられて出来ているんすね」
「もう一つ、ブレイブ・ローダーには重要な機能があるでござる。それは、拙者の整備工場の機能でござる」
「そうか、サンダーが戦闘で傷ついても、俺たちじゃぁちゃんと修理できないっすからね」
「今回の戦闘では、かなり手ひどくやられもうした。拙者もまだまだ修行が足りませぬ。しばらくこの辺に留まって、修理をしないとならないでござる」
そうだな。サンダーは今回の戦闘でかなり傷ついている。やはり修理は必要だな。
「勇者様、あちらの方に川が見えますわ。草原や灌木もあるようです。あちらに移動してはどうでしょうかしら」
巫女ちゃんがいい場所を見つけてくれたようだ。
「サンダー、この辺りに、他に敵のいる反応は?」
「取りあえず、レーダーに反応は無いでござる。巫女殿の言う通り、あの川の近くで修理をしても良いでござるか?」
「そうっすね。川があるなら、魚か何かが獲れるかも知れないっす。俺たちが食料やなんかを集めている間に、サンダーはゆっくりと修理をすればいいっす」
「かたじけない」
そうして、俺たちは川の側の木立の近くに、ブレイブ・ローダーごと移動をした。
「さて、巫女ちゃん、俺は川で魚でも釣ろうと思ってるっす。巫女ちゃんはどうするっすか?」
「そうですねぇ、折角きれいな水があるので、わたくしは沐浴でもしていましょうか?」
突然の巫女ちゃんの言葉に、俺は驚いて真っ赤になった。
「も、沐浴って、水浴びをするんすか? か、川で」
「そうですよ」
「ふ、服はどうするんすか?」
「もちろん、全部脱ぎますよ。濡れてしまいますから」
ああぁー、思った通りだぁ。生粋の異世界人である巫女ちゃんには、俺たちの世界の常識が通用しない。男の人に裸を見られて、恥ずかしいってことがよく分からないんだ。
「それは、俺っちが恥ずかしいから、勘弁して欲しいっす」
巫女ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
「沐浴が、そんなにいけないことなのでしょうか?」
「いや、水浴びするのは構わないんすが、裸を見せるのはよくないっす。俺っちの世界では、凄く恥ずかしいことなんす」
「そうなのですか? 残念ですが、諦めますわ……」
巫女ちゃんは心底残念そうにしていた。そりゃあ女の子だから、キレイにしておきたいだろうけど、こっちが参ってしまう。
巫女ちゃんの常識外れも、旅の間は何とかフォローできても、町中じゃぁこの前の服屋さんみたいなことになってしまう。まぁ、時間がかかるかも知れないが、ちょっとずつ教えていかないとならないな。でなきゃ、こっちがもたない。
「うーん……、それでは、わたくしは何か食べられそうな野草が無いか、この辺を探してみますわ」
「わ、分かったっす。あんまり遠くに行っちゃダメっすよ」
「承知いたしました」
そう言って巫女ちゃんは、片手にバスケットを持って草原の方に歩いて行った。
「さて、俺っちは釣りでもするか」
俺はリュックから釣竿を取り出して伸ばすと、釣り糸を結んだ。エサはその辺で捕まえた虫である。こんなので魚が釣れるのかな? まぁ、何事もまずは挑戦からだ。
こんな川でも、二時間くらい釣り糸を垂れていると、結構、魚が釣れるものだ。名前はわからないが、コイのような大ぶりの魚が三匹ほど釣れた。他にも小さいのが釣れたが、それは逃がしてやった。大きく育って、美味しいお魚になってね。
「さて、これぐらいでいいっすかね。思ってたよりたくさん釣れたっす。後は巫女ちゃんにお料理してもらうっす」
そうして、俺が川べりから立ち上がろうとしたところ、
「誰だい。ボクの釣り場を荒らすのは!」
と、甲高い声がした。
振り返ると、やや長身の女の子が立っていた。白いゆったりしたブラウスに、膝丈の緑のスカート。その上には、グレーのフードつきのジャンパーを羽織っている。
「あのぉ、俺っちのことっすか?」
「他に誰がいるって言うんだい。しかもあんなでっかいのを持ち込んで。ボクのお気に入りの草原に、轍の後が残るだろう」
「ああ、それは済まなかったっす。俺たち、ここが君のものだって知らなかったんすよ」
「知らなかったで済むかい。ふむん。少し痛い目に合わないと分からないみたいだね。「フレア」!」
そう言うと、女の子は左手を俺の方に向けた。すると、掌から突然火球が現れ、俺に襲いかかった。
「うわぁ」
俺は思わず羽織っていた、『魔法のローブ』で防御した。百パーセント魔法攻撃を防ぐローブに守られて、俺にダメージは無かった。
「何! ボクの魔法攻撃が効かない? 何者だ、お前」
そう訊かれて、俺は応えた。
「俺っちは、通りがかりの旅の勇者っす」
俺はそう応えながら、女の子のパラメータを読み取ろうとした。
魔法師 (元勇者) : Level 5
HP : 52
攻撃力 : 18
防御力 : 20
魔法力 : 120
各種の攻撃魔法を操る
(強面だが、心根は優しいボクっ娘)
「何、ボクのことじろじろ見てんだよ。さては変態だなぁ」
「違うっすよ。俺のこの『魔法の眼鏡』は、見た対象のパラメータが読み取れるんす。あなたは、魔法師っすね。ついでに元勇者」
「うっ、た、確かにその通りだが……」
「何でか、魔法力だけが異様に高いっすね」
「ふふん、ボクは元の世界ではエスパーだったんだ。この異世界に来た最初は、思う通りに超能力が使えなくって心底焦ったよ。まあ、そのせいかも知れないが、強い超能力の変わりに大きな魔法力を授かったんだ。レベル1の頃から、敵は盗賊だろうが魔獣だろうが、魔法で一捻りだったよ」
魔法使いは、胸をそらして少し上から目線で、自慢気に俺にそう話した。
「そうなんすか。すごい人なんすね、あんた」
「あんたじゃない。『ミドリさん』と呼べ」
俺の話し方が気に入らなかったのかな。ミドリと名乗った少女は、少し強い口調で俺に突っかかって来た。こんな時には、こちらが冷静にならなきゃな。
「ああ、それでミドリちゃんは、どうして勇者を辞めちゃったんすか?」
「ミドリさんと呼べ、このカス勇者。何でそんなことを、ボクがお前に教えなきゃなんないんだよ」
「あ、ミドリちゃんが話したくないなら別にいいっす」
「いいのかよ。聴きたくないのか! それから、ミドリ・『さん』だ!」
「人それぞれっすからねぇ〜。ミドリちゃんにはミドリちゃんの事情があるだろうし」
見かけによらず男勝りの魔法少女に対し、俺はのんべんだらりと応えていた。こんなところで、いらぬ諍いを始めてもしようがない。
それに、そろそろサンダーのところに戻ろうかと考えていたので、結局、彼女の事情なんてどうでもよくなっていた。
「勇者殿、どうなされたのでござるか?」
俺がミドリちゃんと話をしている間に、サンダーは修理を終えたのだろう。ファイターモードに変形して、川べりまで歩いてやって来たらしい。
「ああ、サンダー。修理はもう終わったっすか」
「うわぁぁぁ。何だ、このでかぶつは」
「サンダーだよ。勇者ロボで、ビークルにも変形できるんす。サンダー、この娘はミドリちゃん。魔法師なんだって。色んな魔法が使えるんだそうっすよ」
俺がサンダーにミドリちゃんを紹介すると、勇者ロボは片膝をついて彼女に話しかけた。
「お初にお目にかかる、魔法師殿。拙者、サンダーと申す。勇者殿と共にアマテラスの祭壇の浄化をする旅をしているでござる」
見たこともない金属の巨人から丁寧な挨拶をされて、ミドリちゃんは少しばかり動揺したようだった。
「あ、ああ。これはご丁寧に。ボクは魔法師のミドリだ。よろしくな。……て、何でこんな展開になるんだぁ」
「勇者様、どうかなされましたか?」
そうこうするうちに、散策に行っていた巫女ちゃんも帰って来た。
「あ、巫女ちゃん。帰って来てたんすか。何かいいものは見つかったっすか?」
「ええ。野草とハーブの良いものがありました。果物もあったのですが、……高くて手が届かなくって」
「そうっすか。こっちも魚の大きいのが三匹釣れたっす。丁度三人分だから、ミドリちゃんも一緒に食べるっすか?」
「ミ・ド・リ・『さん』だ。人の話はちゃんと聞けよ」
「勇者様、こちらの方はどなたでしょうか?」
「ああ、この娘はミドリちゃん。魔法師なんすよ」
「まぁ、そうなんですか。魔法師様、初めまして。わたくし、アマテラス様の巫女をしています。名前は……特にありません。勇者様からは『巫女ちゃん』と呼ばれてます。魔法師様も、お好きにお呼びください」
「それじゃあ、巫女くん、ボクは魔法師のミドリだ。よろしくな。……て、違うだろうが! なんで、こんなほのぼのな雰囲気になるんだよ‼」
『別に』
俺たちは声を揃えてそう言った。そう、理由なんて特にない。
こうして、俺たちとミドリちゃんは、一緒に焼き魚をかじり、ハーブのスープをすすり、仲間になったのだった。




