プロローグ
みんな大好き、異世界ファンタジーだよ。
でもM-Waki作品がまっとうなファンタジーなはずがないよね。
異世界と言っても、中世ヨーロッパ風じゃないし、主人公もいきなりチートしないし。その辺に自動販売機や電話ボックスがあったり、本屋やファミレスや牛丼屋がある異世界って……。
一風変わった異世界冒険譚をお楽しみ下さい。
それでは、始まりはじまり~
俺は一条伸一。只の高校生だ。このまま無事に無難に卒業することが夢だ。
クラスメイトの中には若干名の厨二病も少なからずいて、何か訳のわからん設定を四方に撒き散らしていた。ふう、勇者なんていないんだよ。いつかゲームの世界のような異世界に行くことが彼等の夢のようである。
まぁ、俺には関係無いけどね。
勇者になってどうするんだ? ボスキャラを倒してエンドロールじゃないだろう。平和にした異世界を平和のまま管理しなくちゃならないだろうに。
むちゃくちゃ大変だぞ。民衆の指示を落とさないようにしつつ、時には他国と戦い、税金もとらなけりゃならんだろうし、東に揉め事があれば飛んでいってなだめ、西に動乱が起きれば軍隊を送らなけりゃならない。軍隊の維持費だって無料じゃないんだぞ。その上、クーデターが起きないように、適当にガス抜きもしなければならない。
バカバカしい。俺は毎日をそんな思いで過ごしていた。
今日も何事もなく、お袋の作ってくれた晩飯を食い、シャワーを浴びると、パジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。
そして目が覚めたら……、異世界に来て勇者になっていた……。
「そんなバカな! ここは何処だ。俺は一体どうなった。まだ夢を見てるのか? 夢なら早く覚めてくれ」
俺はパジャマを来たまま、小さな小屋に寝ていたのだ。ほっぺたをつねってみる。……イタイ。
「そうだ、ここは冷静にならないと」
たとえ夢だとしても、ここで死んだら、二度と夢から覚めないかもしれない。
まずは現状把握からだ。
ここは何処だ? 堆肥の臭いが充満してるな。農家の物置のようだ。俺はもっと詳しく調べようとしたが、目の前がボンヤリしてハッキリしない。そうだった、俺は近眼だった。ええっと、眼鏡は何処だ? 眼鏡、眼鏡、……あった、俺の眼鏡。
「あれ? 何だこの文字は」
眼鏡の上に文字がぼんやりと浮き上がって見える。
魔法の眼鏡:+1
「魔法の眼鏡だって。どこが魔法なんだ?」
俺は、眼鏡を掛けてみた。さっきよりも視界がハッキリとしている。俺はもう一度小屋の中を見渡した。すると、さっきは気がつかなかった物が部屋の隅に転がっていた。何かと思ったら、ただのぼろ切れである。さっきはそうだった。だが、ぼろ切れに焦点を合わせると、ナントここにも文字が浮き上がって見える。
魔法のローブ:+0
魔法攻撃の効果を50%にする
おお、そう言うことか。この眼鏡は、アイテムの特性や能力を見せてくれるのか。これは良い拾い物をした。忘れずに、ぼろ切れ──じゃなくて魔法のローブを拾っておく。
他に何か役に立ちそうな物は無いかと、辺りを物色したが、小さな小屋には、それ以上、何も見当たらなかった。
俺は、ふと思い付いて、自分を見てみた。
勇者見習い:Level 1
HP : 10
攻撃力 : 5
防御力 : 4
魔法力 : 0
あっそ。あんまり期待していなかったけど、地道にレベルを上げていくしかないのか……。クラスの厨二病たちは、異世界に飛び込んだら、最強の勇者になってた、って設定だが全然違うじゃないか。現実はこんなものかい。
ついでに、パジャマにも焦点を合わせてみる。
普通のパジャマ: +0
くそっ、何の足しにもなりゃせん。どこかで鎧でも拾って着なけりゃ、一発でゲームオーバーだ。
それに武器もないぞ。こういうシチュエーションなら、『勇者の剣』ってゆう強力な武器なんかが、側に置いてあったりするものだが。『魔法の眼鏡』があるから、その辺に落ちているものを、しらみつぶしに調べていくしかないか。
ここにずっといたって、しようがない。取り敢えず俺は小屋から出てみることにした。
小屋の出入り口の引戸を開けると、サンダルが置いてあった。
「そうだ。まだ裸足だったな」
俺はありがたくサンダルを頂戴することにした。その前に『魔法の眼鏡』で調べてみる。
普通のサンダル: +0
まっ、期待はしてなかったけどね。足が痛くないだけましか。
俺はサンダルを履いて、小屋の前に立つと、辺りを見渡した。
人気は全く無く、辺り一面に田んぼが広がっていた。水田農法ということは、ここは日本か? 普通RPGと言ったら中世ヨーロッパ辺りなんだがな。何からなにまでいけてないな。
う~ん、これからどうしたものか。地図も無いし、どこへ行ったらいいものやら、さっぱり分からん。
そう思っていると、俺は小屋に何か立て掛けてあるのに気がついた。近寄ってみると、ただの棒切れであった。ふぅ、棒切れでも何でも、丸腰でいるよりはましか。ついでに『魔法の眼鏡』で調べてみる。
勇者の棍棒 : +50
必殺技 : 天空雷鳴切り(魔法力を25使用)
通常技 : 一文字崩し(HPを4使用)
おおおおおおおおお、勇者来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
何と言うラッキー。これは拾わざるを得ん。俺は棒切れを手に取った。
「お、重いぃ。これが『勇者の棍棒』か。だが、こんなに重いと、振り回すのも一苦労だな」
取り敢えず俺は、どこか人のいるところに行こうと思った。俺は、『勇者の棍棒』を引きずりながら、田んぼのあぜ道を歩き始めた。