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DB一刃異世界奮闘記  作者: 鈴神楽
出会い編
8/14

勇者カズバと真巫女ハジメ

今回の話しもハジメが居る世界。しかし大きな変動がこの世界を襲って

「新たな邪竜の反応です」

 神官がミヤロンの最高位の巫女であるツドイの元に駆け込んでくる。

「場所は何処です」

「南の貿易都市、バドランドです」

 神官の答えに、ツドイの隣に居た、今回の作戦を全面的にバックアップし続けていた大商人カネモが机を叩く。

「あそこが滅びれば、どれだけの損害が出ることか!」

 その時、ハジメと一緒に単独で邪竜を退治していた筈の一刃が入ってくる。

「また新しい邪竜が出たんだな」

 意外な人物に驚くカネモ。

「カズバ君には、東の都市群に襲っていた邪竜達の殲滅を頼んだはずだが。何故ここに」

 一刃は余裕たっぷりに表情で言う。

「終わったからに決まってるだろ」

 言葉を無くすカネモ。

「まー幾ら倒しても報酬が増えないってのが問題だが、そっちにも行ってやるよ」

 一刃は、邪竜騒ぎを解決する事に対して報酬を貰うと契約内容を変更していた。

 ツドイが頭を下げる。

「お頼み申し上げます」

 とっとと歩き出す一刃をハジメが返礼してから慌てて追いかける。

「待ってください」

 そして、多きな溜息を吐くカネモ。

「これだけの邪竜、やはりキリナガレの伝承は合っていたって事か」

 その言葉にツドイは頷く。

「邪神竜の復活の波動を受けて、多くの竜が邪竜に変質しているのでしょう。しかし、我々に出来るのは、暴走する邪竜達を倒す事だけです」

 その言葉にカネモが辛そうに言う。

「せめて邪神竜が封じられている場所が解ればいいのですが」

 苦悩する上層部の人間。



「何なのよこの邪竜の量は」

 頻繁に現れる邪竜対応に追われている邪竜殲滅隊のエースメンバーの一人、ミガキが食堂の机の上に突っ伏す。

「今月だけで四匹は倒したぞ」

 マモルも、もはや使い物にならない槍を見ながら言った。

「カズバ達は、もう三十匹以上倒してるそうだぞ」

 ブンの言葉を聞き、疲れきったミガキが呻く。

「これじゃあ全ての竜が邪竜になって暴れてるみたいじゃない」

 何気ないその言葉に、ブンが頷く。

「それが正解なのかもしれない」

 周りのメンバーの顔が青くなる。

「冗談だろ。もしそうなったら手のうちようが無いぞ」

 マモルの言葉がメンバー全員の心境であった。

「事前に手はうってあるそうだ。ナナカにはそう聞いている」

 意外な名前にミガキが驚く。

「ナナカちゃんと会ってるの?」

 ミガキの問いに頷くブン。

「ああ、休みのたびこっちに来ているみたいだぞ」

 ミガキはマモルと肩を寄せ合う。

「どう思うマモル?」

「どうってどういう意味だよ?」

 状況を読めないマモル。

「ナナカちゃんって、カズバの手伝いで来てるんだから、こっち来る度にブンに会いに来るなんておかしいわよ」

 その時、七華が現れる。

「ブンさん居ますか?」

 そんな七華を見てミガキは確信した。

 以前までの動きやすさ一点張りの格好ではなく、自分の可愛らしさを生かしたミニスカートとブラウスを着た当社比二百%プリティー七華に対してミガキが言う。

「ナナカちゃん凄く可愛いわよ」

 その言葉に七華が嬉しそうに言う。

「本当ですか?」

 ミガキは大きく頷く。

 七華は恥しげにブンを見るとブンは笑顔で言う。

「とても可愛いよナナカ」

 顔を真っ赤にして七華が近づき、大きな包みをブンに差し出す。

「これ貰ってください」

「僕にかい?」

 ブンの言葉に激しく頷く七華。

 その包みの中には一振りの剣があった。

「えーとうちの倉庫に保管されていた万年竜の爪を元にした剣、竜爪剣リュウソウケンです。あちきの竜牙刀やお兄ちゃんの竜角槍みたいに変化したり、術を使えたりしませんが、邪竜相手には十分な効果があると思います」

「貴重な物だろう貰っていいのかい?」

 ブンの言葉に七華は頷いて答える。

「はい。あの時、助けてもらった事を話したら、お父さんがOKしてくれたんです」

 その言葉にマモルが言う。

「俺達には、無いのかよ」

 万年竜の体を使った装備の威力を知る、メンバー達の視線が集まる。

 良い所を邪魔されて不機嫌な七華が口を膨らませて言う。

「万年竜の鱗を粉末状にし、溶解した鉄に含ませて作った武具が外に置いてあります。カネモさんが私財を投げ打って揃えたんだから感謝した方が良いですよ」

 メンバーが外に行く中、武具が必要ないミガキは事の成り行きを見守る。

「あのー。ブンさんは恋人とか居るんですか?」

 七華の質問にブンは頬をかきながら答える。

「ずっと剣士としての修行をしてた性で、女っ気は無いんだよ」

「年下って興味ありませんか?」

 恥かしそうに言う七華の態度に、ブンは何を言いたいのか察知した。

「ナナカ、僕は剣士として邪竜との戦いを続けるつもりだ。ずっと一緒に居られない。それもで良かったら彼女になってくれないかい?」

 その一言に七華が有頂天になる。

「まったく問題ありません」

 そして地に足を着かない状態で帰っていく七華に手を振るブンに対してミガキが言う。

「ナナカちゃんをからかったら、カズバが怖いわよー」

 その言葉にブンがはっきり言う。

「僕は本気だよ。可愛いし、芯が強い子じゃないか。本格的な付き合いを始める頃には立派な女性になってると思うよ」

「詰まり、青田刈りって訳?」

 大きく頷くブン。

「良いだろう。この戦いが終わった時に、あの子がどれだけ素敵な女性になってるかを考えるだけで、生き残る力になるよ」

 そう言って、七華から貰った竜爪剣を握り締めるブン。

 ミガキは大きく溜息を吐く。

「良いわね、そーゆー楽しみがある人は、あたしはハジメのガードが堅くて手が出せないって言うのに」

 そんなミガキに対してブンが言う。

「ミガキにもミガキを大切にしてくれる人が居るよ」

 その時、新品の槍を振り回すマモルが来る。

「ミガキこれをみろ! この槍だったら邪竜なんか何匹来ても倒してやれるぞ!」

 そんなマモルを見てからブンの方に確認の視線を送るとブンは大きく頷く。

「嫌! こんな槍馬鹿となんて」

 ミガキが頭を抱えてしゃがみこむ。

「槍馬鹿とはなんだ!」

 事体をちゃんと理解していないマモルの発言に苦笑するブン。

「先輩も頑張ってください」



『ドラゴンスクライド』

 一刃の必殺の一撃が、邪竜を滅ぼす。

「凄い。邪竜を一撃で倒したぞ!」

「人間でも邪竜に勝てるんだ!」

「邪竜が出たからって、恐れる必要は無いんだ」

 一刃は賞賛の中を悠然を離れるが、人気の無いところまで移動した所でしゃがみこむ。

「だいぶ疲れています。今日はここで宿を取りましょう」

 傍によってハジメが言うと一刃が何時もの笑顔で答える。

「じゃあ今日はゆっくり出来るよな?」

 その言葉に顔を真っ赤にするハジメ。

「馬鹿!」



 聖都ミヤロンでは、この異常なまでの邪竜の増加の対応に追われていた。

 しかし、この異常事態でも、混乱や絶望は無かった。

「カズバからの助言にそって、邪竜以外の竜の状況も事前に調べておいたのが正解だったな」

 カネモはそう言いながらも、自分の資産の大半をつぎ込んだ竜鱗装備の配布に大忙しであった。

「各組織の上のお方にも事前にお伝えしていた為、大きな問題はありません。しかしこれからが問題です」

 ツドイはそう言って、過去の資料を幾ら探っても見つからない邪神竜を封印した場所に頭を悩ませる。

「確かに封印された筈です。それは間違いないのにどうしても場所が解りません」

 その時、一人の笑顔が可愛い少女が現れる。

「この戦いの意味って知ってる?」

 少女の出現に驚くカネモ。

「君は誰だい?」

 返事をしない少女に首を傾げてカネモがツドイを見る。

 ツドイはその少女を見て固まってる。

「ツドイ様この少女を知っているのですか?」

 カネモの言葉に弱弱しく首を横に振るツドイ。

「あちきの事はヤオとでも呼んで。それでどうなんですか?」

 何も答えられないツドイに代わり、カネモが言う。

「自分達の命を守るために戦って居る。それに問題はあると言うのか!」

 首を横に振るヤオと名乗る少女。

「それは正しいよ。でも貴方達が邪神竜と呼んでいる竜は、この世界を真の神の代行として調整する存在だよ」

 意外な回答に驚くカネモ。

「邪神竜の正式の名前は、調和竜チョウワリュウ。破壊と創造の力を他の竜に与える事で世界に一定の秩序を与えるもの。この世界の神だった者が自分の力の衰え感じ、作り出した存在。この世界的には調和竜に滅ぼされるのは自然の摂理だよ」

 ツドイはその言葉に膝を折る。

「人類に滅びろと言うのですか、女神様」

 その言葉に更なる驚きを覚えるカネモ。

「カネモさん、その御方は神です。神の言葉には従わなければいけません」

 辛そうに言うツドイ。

「そんな馬鹿な。我々は滅ぶべき存在だなんて……」

 その時、少女の後ろから声が聞こえる。

「はじめまして、聖獣戦神八百刃様。この世界も貴方様の管轄なんですか?」

 少女、聖獣戦神八百刃が振り返る。

「はじめまして、霧流一刃くん。ええこの世界でも戦いを司ってるわよ」

 駆け出して先行した一刃にようやく追いついたハジメは八百刃を見た途端、震えだす。

 そんなハジメを抱きしめながら一刃が言う。

「この戦いは間違っていると忠告にしにきたんですか?」

 八百刃は首を横に振る。

「それを判断するのは貴方達、あちきは真実を告げに来ただけ」

 そう言って、一刃の横を通り抜けようとした時、一刃が一言。

「因みにこの街には卵料理を出すお店はありませんよ」

 その一言に、今さっきまで落ち着いた表情をしていた八百刃が慌てて一刃にすがりつく。

「嘘! あちき卵料理食べる為に態々体用意したんだよ!」

「宗教的考えで、この街じゃ動物性の食べ物は作る店は無いんですよ」

 一刃の答えに涙を流す八百刃。

「折角、八子さんにバイト料換金して貰ったのに」

 その言葉に一刃が引きつる。

「お袋と繋がって居たんですか?」

 涙を流しながら頷く八百刃。

「あっちの世界は、今比較的平和だから異世界人である八子さんの周り位しか出れないから、買い食いするお金のたかり先に困ってたの。そしたら八子さんが武具を作ってくれたらお金出すって言ってくれたの。そこにある竜眼玉もあちきが作ったの」

 そう言ってハジメが持っている竜眼玉を指差す八百刃。

「こないだなんか、八子さん太っ腹で剣一振りで千円のお仕事くれたの。確か百円あれば豪邸が建つ筈だから、凄い奮発してくれたんだと思うよ」

 一刃は八百刃に聞こえない様に小声で呟く。

「お袋よー、幾ら現代の相場知らないからって八百刃様相手に何暴利貪ってるんだよー」

 涙ぐんでる八百刃はその呟きは届いていない様だ。

「楽しみにしてたのに」

 その時、一匹の白い猫、白牙ビャクガが現れる。

『毎度毎度何遊んでやがる。早く帰って仕事しやがれ!』

 テレパシーでそう言うと、べそかき女神、八百刃を連れて帰っていく白牙であった。

「八百刃様は本気で仕事と趣味を混同してるな」

 そうぼやく一刃に顔を青くしたハジメが言う。

「今の御方は偉大な女神様なんですね?」

 大きく頷く一刃。

「やたら卵料理に拘るが、間違いなく複数の世界の戦いを司る高位の神様だよ」

 ツドイは青い顔をしたまま呟く。

「詰まり我々が滅びる事はそんな女神様も認めた事なんですね」

 一刃は大きく溜息をついてから言う。

「八百刃様が言っていただろ、この戦いが正しいかどうかは自分で考えろと。ただ真実を知らないで戦うのが駄目だから来たんだろう。最初に言っておくけど俺はやめるつもり無いぞ」

 その言葉に驚く一同。

「俺は一度受けた仕事を途中をやめるつもりは無い。それ以上にハジメが生きるこの世界を滅ぼさせてたまるか!」

 その言葉にカネモも頷く。

「そうだな、私達は守りたい人間が居るんだ。それが例え神の意思だとしても私達は大切な人間を失いたくは無い」

 その時、ハジメが驚いた表情をする。

「邪神竜の真実の名前は調和竜って言うのですよね?」

 頷くカネモにハジメが続ける。

「ミヤロンの地下にそう言う名前の竜の神像があります」

 その言葉と同時に、大きな振動が世界を巡った。



 聖都ミヤロンの地面が割れて、巨大なそれが現れた。

 それは、高潔なまでに美しい銀色の鱗を持った竜であった。

『我は調和竜、神より世界の調和を委託されし者なり。この世界は滅び新たな創造を迎える時期に至った。我は神の御名の下にこの世界を滅ぼさん』

 その宣言には一切の邪悪な意思は無く、ただ崇高なる使命感しか存在しなかった。

 信仰心が高い、ミヤロンの住民は逆らう意思を失いその神の代行者に膝を着く。

『まずはこの地を滅ぼさん』

 大きく息を吸い込んだその時、強烈な一撃が、調和竜を襲う。

『ドラゴンスライサー』

 調和竜はその一撃をまともに食らう、しかし傷一つついていなかった。

『この力、我と同じ神の力を授かりしものだな』

 攻撃が来た方向を見るとそこには一刃が居た。

「ああ、俺の力の源は聖獣戦神八百刃様だ。しかし俺は俺の意思でこの力を使ってる」

 その言葉に調和竜が言う。

『愚かな、神のお力は一個人の意思で使うものでは無い。大いなる神の御意思のみを遂行すれば良いのだ』

 睨み合う両者。

「八百刃様は仰った。戦いは相手を否定する行為。それを為す以上常に自分が正しいと思える戦いをしろと。俺は、ここでお前と戦う事を正しい事だと断言して戦える」

『口で言っても無駄の様だな。その小さな体では、幾ら神の力を分け与えられようと私には勝てん。グレートドラゴンフブレス』

 その炎は、邪竜達が使った炎とは一線を引いていた。

 まるで指定された透明なパイプがある様に一切の無駄が無いブレス。

『ドラゴンエア』

 一刃は咄嗟に竜魔法で散らそうとしたが、それの道を変える事は出来なかった。

 最後の足掻きと竜角槍を構える一刃。

『我が最愛なる者を護りたまえ』

 ハジメの言霊に答え、竜眼玉が一刃の周囲に強力な結界を張り、ブレスの威力を激減させる。

「流石に、神の力を得た竜は違うな」

 激減されたとはいえ、ブレスを食らってダメージを受けた一刃は呼吸を整える。

「ちんけな細工が通用する相手じゃない。俺が力を溜め込む間防御を頼む!」

 一刃の言葉に大きく頷き、その横に付くハジメ。

『巫女よお主は、何故我に逆らう? この世界が滅びるのは神の意思だ。神の意思に従う、それが巫女の役目であろう』

 調和竜の言葉にハジメはまっすぐな瞳で調和竜に言う。

「そうかもしれません。カズバに会う前の私でしたら、貴方に従い滅びを受け入れていたでしょう」

 そして一刃と見詰め合い唇を合わせた後、再び調和竜の方を向く。

「私はカズバと生きたいのです。それを邪魔する貴方は私にとって邪神竜です!」

 一刃も得意気な笑みを向けた。

 その言葉に調和竜は少し間を空けてから言う。

『生き物として生きようとする事は正しい行為だろう。よかろう私は自らを邪神竜と名乗ろう。しかし、生きるもの全てに邪神竜と蔑まれ様と私は使命を果たさん。グレードドラゴンブレス』

 先程より強力なブレスが二人を襲う。

『我が最愛なる者を護りたまえ』

 ハジメは全身全霊を込めて言霊を唱える。

 そして二人を結界が覆い、グレードドラゴンブレスから護った。

 しかし、ブレスは一向に治まる気配が無かった。

 ハジメの額から滝の様な汗が流れる。

 一刃も調和竜いや邪神竜を倒すために全力を竜角槍に溜め込んでいるため、何も出来なかった。

 そして、結界がどんどん小さくなる。

 炎が目前に迫りハジメが目をつぶった時、ブレスが止まった。

 ハジメが目を開くと、ミヤロンの守護戦士達が、竜鱗装備で邪神竜に立ち向かっていた。

「私も戦う。私は私の家族を護りたい!」

「俺も戦う。俺はまだ告白をしていない女が居るんだ! 告白するまで、そいつを死なせる訳には行かないのだ!」

「あたしも戦う。ようやく歩き出した息子の立派に成長する姿を見るまで死ねない!」

 邪神竜は翼を羽ばたかせるだけでその者達を排除する。

「俺達は戦う。どんなに理不尽な程の力差があろうとも。自分が大切な者が有る限り!」

 一刃は全身全霊を竜角槍に籠める。

『ドラゴンスクライド』

 一刃最強の回転を入れた突きが邪神竜を貫いた。



「やったのか」

 状況を見守っていたカネモがそう言った時、四方の塔が倒壊する。

 そこから四体の竜が現れる。

 それらの竜が一刃の一撃を食らった邪神竜に向かってブレスを放った。

「何なんだ仲間割れか?」

 カネモの予想は外れた。

 ブレスを食らった邪神竜の傷がまさにあっという間に癒えたのだ。

「そんな馬鹿な、幾ら竜とはいえ、あれほどの傷を瞬時に癒せる訳は無い」

 愕然とするカネモだった。



「そんな、どうしてブレスを受けて傷が癒えるのですか?」

 戸惑うハジメに一刃が苦々しそうに言う。

「あの四体の竜は、邪神竜の分身だ。分身の力を一時的に自分に戻すことで傷を癒したんだ」

『その通り、私はこの四体の分身が居る限り滅びる事は無い』

 それは絶望的な言葉であった。

 邪神竜自体が物凄く強い上、その分身たる竜を先に滅ぼさないといけないのだから。

 そして一刃は先程の一撃に全力を込めていた。

『見事な一撃だったが、もはや力の限界だな』

 その言葉に一刃は竜角槍を構えて言う。

「お前、何か勘違いしてるだろう」

 邪神竜を睨み一刃が言う。

「俺は神の力を使えるから戦ってる訳じゃない。戦う意思と理由があるからだ。お前に通用しないかも知れない力だろうが、関係ない。俺は何としてでもお前を倒すだけだ!」

 邪神竜はその瞳に真実を見た。

『ここでお前を殺す事は容易かろう。しかし、私の使命はお前を殺す事では無い。私も復活直後で、大怪我を負った為力が落ちている。万が一にもここでお前に滅ぼされる事は神の御意思に逆らうことになろう』

 そう言って上空に飛び上がる。

 残る四体の竜もその後に続く。

『しかし、覚えておくが良い。再び我が前に立つ時、それがお前の最後だと』

 飛び去っていく邪神竜。それを見送った後、一刃とハジメは意識を失う。



 その後、聖都ミヤロンは神の代行者たる調和竜を邪神竜とするかで大いに揺れた。

 しかし、ツドイの一言が全てを決めた。

「皆さんに護りたいものは居ますか? 私は、自分一人なら幾らでも命を奉げるつもりです。しかし多くの無垢な子供の命まで奪うものを神の代行者と認めることは出来ません。あれは邪神竜として滅ぼすべき存在です」

 多くの同意を受けて、聖都ミヤロンは邪神竜を倒すために、改めて動き出した。

 そして今日その大きな一歩を刻まれようとしていた。

 多くの観衆の中で、一刃とハジメはツドイの前に立っていた。

「貴殿カズバを聖都ミヤロンの最高位巫女ツドイ=ナサイの名の下に勇者と認め、邪神竜退治の命を与えます」

 一刃は頭を下げる。

「謹んで御請けします」

 ツドイは今度はハジメの方を向く。

「巫女ハジメよ、我等の代表として、勇者に仕えなさい」

「この命に代えましても」

 そして大喝采が二人に送られる。



 こうして、後世に長く語られる勇者カズバが誕生したのであった。

 そして、後世に語られるように、この後勇者カズバ達に前には多くの障害が立ちふさがる事になる。

 勇者カズバの活躍は、これから始まる。

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