勇者たる資格を試す試練
水の調和竜が住む、河の河辺に一刃達が来ていた。
「この河の下に水の調和竜が居るのか?」
一刃の質問にキキが答える。
『そうだ。しかし、おかしい』
「どうしたのですか?」
ハジメの質問にキキが難しそうに言う。
『力を使っている波動を感じる。本体の復活を最優先にしている分身達がどうしてだ?』
『それは、お前達に与える試練の為だ』
河の中から水の調和竜が首を出した。
「どんな試練だ? 今度こそ力を使った物を頼むぜ」
一刃の軽口に水の調和竜が頷く。
『望み通り、戦いの試練だ。私の力でここから少し離れた場所より十六体の邪竜を解き放ち、十六の町を襲わせる。それを防げ』
「待ってください、私達への試練の為に罪の無い人達を襲わせないで下さい!」
ハジメの真剣な訴えに水の調和竜が答える。
『安心しろ、お前達の試練の為に襲わせるのを抑制させていたのだ。逆にお前達の試練のおかげでその町の住人達は、短い間だけだが生きながらえられた。もし死んでもお前達が責任に感じる事では、無い』
「そんなことありません!」
ハジメの言葉に水の調和竜が冷たく告げる。
『お前達が試練をせずに邪竜と戦っていたらどれだけの被害が出さずに済んだと思うのだ?』
「それは……」
言葉を無くすハジメだったが一刃が正々堂々と答える。
「俺は、邪神竜を倒す仕事を請けている。全ての邪竜を倒すのが俺の仕事じゃ無い。八刃の教えには、力の義務というのは、無い。力があるから何でも出来るわけじゃ無い。自分がやる事を常に考え、それ以外を切り捨てる覚悟を持てと言われている」
『それも今回の試練の解答の一つだ。出来るだけの範囲の邪竜を退治し、それ以外は、切り捨てる。己の分と領域を考えた調和の一つの形だ』
『詰り、今回の試練は、どの様に対応するかが試されるという事だな?』
キキの言葉に水の調和竜が頷く。
『その通りだ。お前の考えを戦いの中で示せ。考える時間も必要だろう。十分だけやろう』
それだけ言って沈黙する水の調和竜。
一刃は、地図を取り出し思案した後、提案する。
「こういう風に回れば、被害が少なくて済む。最悪でも十二の町は、救える。残り四つも半壊する前にどうにか出来る筈だ」
ドラゴンバスターとしての経験から割り出した冷静で冷徹な言葉にハジメが言う。
「全部救うことは、出来ませんか?」
「物理的に不可能だ。距離が開きすぎてる」
一刃があっさり答えるがハジメが食い下がった。
「私がフォローします。ですから……」
その必死な顔を見て一刃が頭をかきながら答える。
「何とかやってみるか」
笑顔に戻るハジメ。
「精一杯がんばります!」
そして、一刃が新たなルート設定をする。
『もう良いのだな?』
水の調和竜の言葉に一刃が頷く。
「始めてくれ」
そして、水の調和竜が力を放つと、少し上流の水面が弾け、中から十六体の邪竜が解き放たれた。
「行くぞ!」
「はい!」
ハジメを抱き上げ、空間を飛ぶ一刃。
現れると同時に竜角槍を構えて必殺の一撃を放つ。
『ドラゴンスクライド』
強烈な一撃が一体目の邪竜を粉砕した。
「まずは、一匹、次だ!」
そのまま次の地点に飛ぶ一刃。
一刃は、近場の町を襲おうとしている邪竜から倒していった。
「二体目!」
二体目の前に現れた時、邪竜のブレスが迫る。
『我が最愛なる者を護りたまえ』
竜眼玉の力で結界を張るハジメ。
そしてブレスが途切れた所で接近した一刃が竜角槍を乱打する。
『ドラゴンプリズム』
閃光の様な連続攻撃で邪竜を倒す。
「もう攻撃が始まっています」
ハジメが言うように空間を飛んだ一刃達の前では、邪竜がブレスを吐き始めていた。
「町の守りは、任せた!」
一刃は、町の直前でハジメを離す。
「はい!」
ハジメが町に向かって駆け出すのを見ながら一刃は、竜角槍を振るう。
『ドラゴンスライド』
横切りが邪竜にダメージを与える。
邪竜の気が一刃に向く。
連続してブレスを放つ邪竜。
一刃は、紙一重の所で回避を続けると、邪竜は、苛立ち、力を高め始めた。
一刃は、その瞬間を逃さなかった。
『ドラゴンフレア』
相手の力を使った爆炎が一気に邪竜を打ち倒す。
爆風から町を守ったハジメが一刃の所に行くと一刃は、肩で息をしていた。
「次、行くぞ!」
そして再び空間を飛ぶ。
「まだ別れていない、ここで全部を蹴散らす。すまないが時間を稼いでくれ」
五体の邪竜の前に出て気合を高める一刃。
「解りました」
邪竜達は、ブレスや強力な竜魔法を使ってくる。
『我が最愛なる者を護りたまえ』
ハジメは、竜眼玉の力で結界を張りそれらを防ぐ。
そして、一刃は竜角槍を振り下ろす。
『ドラゴンフィニッシュ』
一振りで五体の邪竜を打ち倒す。
荒い息をしながら一刃は、ハジメを抱き抱え、空間を飛ぶ。
次の邪竜は、今にも町に踏み入れようとしていた。
「大技も使えやしねえ!」
愚痴を言いながらも一刃は、邪竜に取り付く。
『ドラゴンアイス』
冷気の魔法で動きを封じられ、もがく邪竜。
一刃は、竜角槍を天にかかげる。
『ドラゴンサンダー』
周りで術の影響を防いでいたハジメが不安そうな顔をする。
「何かおかしい? いつもの一刃の戦い方とは、違う気がする」
そんな事を呟きながら一刃の元に駆け寄る。
一刃は、汗を拭いながら言う。
「……次だ」
「ドジッタ……」
一刃が現れたのは、邪竜の直ぐ傍であった。
邪竜の尻尾が一刃達に迫った。
思わず目を閉じるハジメ。
一刃は、ハジメの盾になり、尻尾の直撃を食らって吹き飛ぶ。
「カズバ!」
駆け寄ったハジメにカズバが怒鳴る。
「直ぐに結界を張れ!」
ハジメも慌てて結界を張ると同時に邪竜のブレスが二人を襲った。
一刃は、竜角槍を杖代わりに立ち上がると深呼吸をして、集中すると構えを取る。
『ドラゴンスクライド!』
必殺の回転突きが邪竜を一撃で倒した。
竜角槍に寄りかかる一刃。
「今、治療するわ」
「移動しながら頼む」
そう言う一刃に抱き抱えられながらハジメが言う。
「そんなの無茶よ、ちゃんと治療してからじゃ無いと」
「無茶しなければ、間に合わないんだよ」
一刃の言葉にハジメが何時もと違う理由にようやく気付くのであった。
次の邪竜の攻撃を掻い潜り一刃は、目を貫く。
『ドラゴンボルト』
強烈な電撃が邪竜を襲う。
しかし、まだ動く邪竜に一刃は、とどめの一撃を放つために気合を高め始める。
「私が、あんな事を言ったからなの?」
ハジメの言葉にキキが答える。
『一刃も、好き好んで犠牲を算出していた訳じゃ無い。全てを守るなど不可能だから、最低限の犠牲で済む方法を提案していた筈だ。不可能な事を可能にする為に、自分の安全性を犠牲にし、消耗を無視して、最短で倒せる方法を取り続けた。多分、お前が以前に見ていた戦いでは、常に次の戦いを想定した余裕を持った戦いをしていたのだろうな』
ハジメは、泣きそうな顔をして言う。
「そんな自分を犠牲にしてまで、どうして……」
『八刃は、そんな生き物なんだろう。ああいう馬鹿な奴らを八百刃様は、好み、力を貸すのだ』
キキの解答に困惑するハジメ。
『ドラゴンスライド』
邪竜に止めをさした一刃が片膝を着く。
「カズバ!」
慌てて駆け寄ったハジメ。
「次は、ちょっと遠いぞ」
ハジメが涙を流して言う。
「もう良いです! これ以上無理をしないで下さい! きっとここまでやれば十分です。だから、少し休みましょう!」
一刃が苦笑して言う。
「バーカ、もう無理だよ。ここまで消耗したら、回復なんて待ってたら残りの町を見捨てる事になる。お前は、本当にそれでいいのか?」
ハジメが返答できないでいる間に一刃は、ハジメを抱き寄せて言う。
「安心しろ、俺は、死なない、まだお前を護りきってないからな」
『ドラゴンスクライド!』
必殺の筈の一刃の攻撃、それを食らっても邪竜の突進が止まらない。
「急所を外したぜ」
『我が最愛なる者を護りたまえ』
ハジメが必死に結界を張るが、直接攻撃に結界が破られ、邪竜の角が一刃の胴を抉る。
そんな状態でも一刃は、角の付け根に竜角槍を突きつける。
『ドラゴンボルト!』
元々大ダメージを食らっていた邪竜が倒れる。
「……次」
一刃がヨロヨロになりながらもハジメを抱き寄せて飛ぶ。
次の場所では、邪竜は、もう町の直前まで来ていた。
「手間をかけられないな、一撃で倒す」
一刃がドラゴンスクライドの構えをとった時、膝が崩れた。
「まちやがれ!」
怒鳴り、再び立ち上がろうとするが、逆に地面に倒れていく一刃。
『我が最愛なる者を護りたまえ』
ハジメは、必死に邪竜の攻撃から一刃を守る。
『限界だ。もうこれ以上は、無理だ』
キキの言葉に、一刃が反論する。
「それじゃ駄目なんだ! ハジメが後悔する結果なんて残してたまるか!」
震える足で一刃が立ち上がる。
必死に構えを取る一刃だったが、力は、高まっていかない。
「頼む、後、たった四匹なんだ、高まれ!」
ハジメは、何も言えない。
そして、邪竜がどんどん一刃達に近づいてくる。
「クソ!」
二人が覚悟を決めた時、邪竜が悲鳴を上げた。
二人の前に数人の男性が立つ。
「お前が攻撃の力を溜めるまでの時間くらい稼いでやる」
「ウヘイさん、どうしてここに?」
ハジメがその男性、邪竜退治の中心人物、ウヘイ=ヨに聞き返す。
ウヘイは、淡々と答える。
「事情は、お前達が守った町の人間から聞いた。残りの三箇所には、ミガキとブンそしてクーパ殿が行っている。これが終ったら、お前達は、回復に専念しろ」
「あのな、これは、俺達の試練なんだぞ!」
一刃の言葉にウヘイが睨む。
「お前とハジメだけで戦っていると思っていたのか?」
「でも、これは、カズバの為の試練ですから」
ハジメの答えにウヘイが言う。
「お前達がその試練を受ける為の時間を稼いでいたのは、間違いなく俺達だ。そうでなければ、とっくの昔に、邪竜に滅ぼされている」
一刃は、ようやく溜まった力で必殺の一撃を放つ。
『ドラゴンスクライド』
そして邪竜を倒した事を確認してから言う。
「確かにあんた達が居なければ俺達が試練を受けていられなかった。俺がそれを認めた所で、水の調和竜が認めるとは、思えないぞ」
ウヘイは、不敵な笑みを浮かべて言う。
「その時は、こういってやれ、俺達は、無理にでも全ての町を守ろうとするお前達の勇気と優しさで動いた。先頭に立ち、道を切り開く、勇者の力でこの試練を乗り切ったと」
暫く唖然とした後、一刃が笑いながら言う。
「さすがだね。やっぱ年長者は、違うね」
「伊達に年をとってない」
ウヘイの言葉に一刃が倒れて言う。
「それじゃ遠慮なく休ませて貰う」
「直ぐに回復の呪文をかけます」
ハジメが竜眼玉で一刃を回復させる。
その後、ミガキとブンとクーパが足止めをした邪竜を回復した一刃が倒し、再び水の調和竜の元に戻ってきた。
「どうせ全部を見ていたんだろう? 他人の力を借りた。だが文句を言われるつもりは、無い。もしもこれに文句があるんだったら、もう俺は、お前達の力なんて必要ない!」
一刃の啖呵にミガキが驚きハジメに小声で聞く。
「あんな事を言わせて良いの?」
ハジメが頷き答える。
「私も同じ気持ちですから、構いません」
しかし、水の調和竜があっさり答える。
『大正解だ。もしも、お前が独力でこの試練にあたり続けたら、失格だった。調和とは、他人と力を合わせて始めて可能なのだからな』
意外な答えに驚く一刃達。
そんなかクーパだけは、ペンダントのキキの方を向きながら言う。
「あなたは、気付いていたんでしょ?」
『ヒントを出したら、いけなかったからな』
キキの答えに水の調和竜が苦笑する。
『無茶をするのを止めなかった事が助言だった気もするがな』
接近戦が出来ないミガキの盾になっていたマモルが言う。
「年食った奴らってやっぱ食えねえ」
そして、水の調和竜が言う。
『お前は、全ての試練をクリアした。しかし、今のままでは、我等力を使うことは、出来ない。本体が、完全に復活していない今、我等の契約が正しく働かないからだ』
一刃が怒鳴る。
「ちょっと待て、それじゃあ俺がやったことは、無駄だったのか!」
水の調和竜が言う。
『どう思うかは、お前次第だ。しかし、私は、十分に新しい力を手に入れたと思うぞ』
ハジメが一刃に笑顔を向ける。
一刃は、周りを見回して言う。
「そうだな、今だったらあの化け物にも勝てる気がする」
そして、キキが言う。
『あいつは、復活の為に、調和竜となった神殿に戻っている。そこが決戦の場所になるだろう』
強く頷き一刃が言う。
「絶対に勝つぞ!」
一刃が突き出した拳に全員の拳が合わせられるのであった。




