その名は一刃
今回の話しは、まさにファンタジーな剣と魔法の世界が舞台です。
少女は燃え上がる炎の中に居た。
周囲の建物は激しい炎の海に飲み込まれ、人々は必死に逃げ惑う。
少女はその中で、その地獄を生み出した存在を見上げていた。
そしてその存在、生物の王者、ドラゴンの口から灼熱の炎が燃え上がる。
それは少女を包み込んだ。
少女は目を覚ました。
寝汗を拭い呟く。
「またあの夢……」
少女の名はハジメ=ミーラ十三歳、ある村の巫女であった。
少女はそこそこの大きさがあったルートの村で暮していたが、先程の夢にあった様な竜の襲撃に因って村は壊滅し、村の生き残りと一緒に近くの村に避難して来ていたのだ。
しかし、その村にも竜の脅威は迫っていた。
ハジメは外に出てある決意をした。
「勇者を召喚しよう」
勇者の召喚それは、一か八かの賭けであった。
正しき心を持った勇者を召喚出来れば良いが、まかり間違い邪悪な存在を召喚した時にはこの世界を滅ぼす事すらある。
しかし、この村にはそれを危惧する以前に、竜による滅びが目前に迫っていたのだ。
「巫女ハジメよ見事勇者を召喚しろ」
本来、巫女は敬われる存在だが、外から来た巫女でもあり、この村の人間には邪険に扱われていた。
そしてハジメは強い意志を持ってその儀式に当った。
ルートの村の敵を取ってくれる強い勇者が来ることを祈って。
「勇者よここに在れ!」
ハジメの呪文に答えるように、空間が歪んだ。
「おー、成功か?」
「まだじゃ、どんな勇者が呼ばれるかが問題なのじゃ!」
空間の歪みより一人のハジメと同じ年頃の少年が現れた。
「あのクソ親父、今は駄目だけど、何時か殺してやる!」
その言葉にハジメは儀式の失敗を確信し、その場に崩れ落ちた。
「所詮、余所者の巫女が呼んだ勇者、こんなガキを呼び出してどうするというのじゃ!」
長老が言った時、その少年が唱えた。
『血の盟約の元、一刃が求める、戦いの角をここに表せ、竜角槍』
そしてその手の中に一本の槍が現れて、少年とは思えない槍さばきで、長老に突きつける。
「舐めるなよ、俺は、竜退治の専門家、ドラゴンバスター一刃だ!」
ハジメはその様子に希望を見た。
しかしその希望は長くは続かなかった。
「解ってると思うが、竜退治の報酬は決して安いもんじゃないぞ」
その言葉に村の人間たちは怯む。
「如何程で?」
すると一刃は懐から一塊の金塊を取り出して見せる。
「これと同じ物を百個だな、まー多少の大きさの違いは目を瞑ってやるが、騙そう何て真似はするなよ」
槍が振るわれ、近場にあった大岩が簡単に両断される。
村の人間の話し合いは夜遅くまで行われた。
「金塊を百個など到底払えんぞ!」
「しかし、意外と頼りに成りそうだぞ」
「無い物は、払えん。これが結論だ」
そんな長老達の会話を、ハジメは脱力の中で聞いていた。
自分が召喚した勇者の、強欲ぶりに深い反省をしていた。
『私はあの時、どんな人でも良いから村の人達の敵を取ってくれる、強い人を望んだからあんな勇者が召喚されてしまったのだ』
そんな自責の念に囚われるハジメに村の長老が言う。
「全てはあんな勇者を召喚した巫女の責任じゃ。その責任は巫女自身にとってもらおう」
「それで、足らない分はその巫女の体で払うってか?」
一刃が長老からの申し出にハジメを上から下まで舐める様に見る。
「正直俺は胸が大きい方が好きだが、巫女って言う商業の人間とやれるんだったら、お前達の言っていた量で手を打とう」
傲慢に言う一刃に長老が苛立ちながらも注文をつける。
「報酬は竜を倒してからだ!」
一刃は余裕の笑みで答える。
「金塊についてはそれで良い。だけど巫女の方は竜が来るまでの間に楽しませて貰っても構わないだろ?」
その言葉にこの村の長老はあっさり頷く。
そして、一刃にあてがわれた部屋に、ハジメ一人が残された。
『こんな獣の様な男に私は抱かれるんだ。でも全ては私がいけないこと』
諦めの極地に居たハジメに一刃が言う。
「とりあえずこれを着ろ!」
そう言って差し出されたのは一着の日本の巫女の服だった。
ハジメが言われるままにその服を着ると、一刃はデジカメでその姿をとる。
「何やってるんですか?」
一刃はとった画像を見せるとハジメは自分の姿に驚くが一刃は平然と続ける。
「これで奴等に自慢できる。夏休みしか稼げないから、異世界に出たっきりに成るんでいけない、コミケでのコスプレ写真の代わりに自慢してやるんだ」
本当に嬉しそうに言う一刃に、ハジメは毒気を抜かれた。
『何時か無くなるものだし、竜を倒して貰うんだから良いかな』
思ってしまうほど、一刃の笑顔には不思議な魅力があった。
そんな時、一刃の顔が急に鋭くなる。
「このタイミングで来るかよ! おいハジメって言ったな!」
「はい」
ハジメが返事をすると一刃は、出口に向いながら言う。
「お前の村の敵は、きっちりとってやるから見てろ」
その強い意志を篭った瞳にハジメは無意識に頷いて居た。
そして二人が出ると、そこに人に絶望を与える存在が居た。
そこに存在するだけで人を圧倒する存在感、
絶対的な年月を下地に存在する、絶対の意思。
人の魔法など児戯に思える魔力。
そして全てを焼き尽くすブレス。
生物の王者、ドラゴンがそこに居た。
ハジメの足が震えて動かなくなる。
『愚かな人間よ、我が贄とかせ!』
ドラゴンのその一言だけで、ハジメの足から力が抜けてしゃがみ込んでしまう。
しかし、一刃は違った。平然とその前に立ち塞がる。
『貴様は何者だ!』
その言葉に一刃は微笑みで答える。
「俺かい、一刃だよ」
そう言って後、首から提げたアクセサリーを掴み唱える。
『血の盟約の元、一刃が求める、戦いの角をここに表せ、竜角槍』
手に握られる竜角槍を見てドラゴンが驚く。
『それは、我等竜族の角を元に作られた武具。竜の死体を何処で手に入れた!』
怒りと共にドラゴンが凄まじいプレッシャーを与えてくるが、一刃は微動だにしない。
「小学校の頃、親父に誕生日プレゼントで貰ったんだよ。子供の誕生日プレゼントに武器渡すかよ。俺としては魔法少女のプレミアムDVDセットの方が良かったんだがな」
『ふざけおって!』
ドラゴンは鉄でも溶かす炎のブレスを放つ。
ハジメが死を覚悟したその時、一刃の竜角槍が天に振り上げられる。
『ドラゴンエア』
槍の動きと共に発生した風は、ドラゴンブレスの力を全て上空に逃がした。
驚愕するドラゴン。
『馬鹿な人が竜魔法を使うなどありえん! ドラゴンファイアーボール』
常人なら一瞬で焼け死ぬ無数の火炎球が、一斉に襲い掛かってくるが、一刃はそれを全て切り落し言う。
「お前の芸は、これでお終いか?」
ドラゴンは生まれて初めて、人に恐怖を感じた。
『お前本当に人か?』
一刃はゆっくり歩き出しながら告げる。
「俺は霧流、竜を滅ぼす為に、竜と交わり、その血と魔力を磨き続ける一族。俺達は竜を倒す為に存在する、人も、竜も超えた者!」
ドラゴンがその言葉に青褪める。
『竜の天敵、霧流!』
そう叫ぶと背中の翼を羽ばたかせ天に逃げようとする。
「逃がすかよ!」
一刃は大きく竜角槍を振り上げる一刃。
『ドラゴンスライサー』
物凄い勢いで振り下ろされた竜角槍から放たれた力はルートの村を滅ぼしたドラゴンを真っ二つにした。
地面に落ちるドラゴンの死体を見て、村人達は、初めて理解した。
自分達がとんでもない存在を呼び出した事を。
そして一刃はハジメの方を向いて言う。
「しっかり見たか、お前の村の敵はきっちり取ったぞ」
その言葉にハジメが涙を流し始める。
一刃は、頭をかきながら、その横に座って言う。
「嫌がる相手を無理やりと言うのは、燃える展開らしいが、泣く女抱くのは流石に流行らないな」
そう言ってハジメの頭を撫でる。
「忘れろ何て言わないぞ。これで良かったとも」
その言葉にハジメが一刃の方を向く。
「お前は生き残ったんだ、死んだ奴等の事を、一生覚え続ける義務がある」
ハジメは無言で頷く。
「そして幸せになれよ、死んだ奴等も生きていたら幸せになれた事を証明する為に」
そう言って微笑む一刃の胸の中でハジメは思う存分泣いた。
次の日の朝ハジメの部屋に一刃が入ってきた。
「おはようございます」
そう普通に頭を下げるハジメに、一刃が近づき確認する。
「もう泣いてないな!」
勢いについ頷くハジメに襲い掛かる一刃。
「頂きまーす!」
「キャー!」
当然叫ぶ、ハジメ。
「最初っからの約束だろうが。安心しろ、これでも予習はきっちり漫画でしてあるぞ」
「いきなりは駄目です」
涙目で嫌がるハジメに、詰め寄る一刃。
「観念しろ」
「誰か!」
その時、後からハリセンが飛んでくる。
「お兄ちゃん、女の人にエッチするのはいけないよ!」
ランドセルを背負った一人の少女が居た。
「七華なんでお前がここに居るんだ!」
一刃が良い所邪魔され不機嫌な態度で言うと、七華が鞄を差し出して言う。
「今日から学校始まるよ。お兄ちゃん、ただでさえ出席危ないんだから、あちきが迎えに来たの。仕事終ってるんだから、帰るの」
「報酬がまだだ!」
そう宣言する一刃に七華はランドセルを開けて、報酬の金塊を見せる。
「あちきがもう貰ってあるよ、それと母さんが言ってたよ、ちゃんと学校に行かない悪い子には、部屋は要らないから、こないだ拾ったヤギのメーくんの部屋にするって」
その言葉に、固まる一刃。
「あの部屋には、先輩から譲ってもらった、近くの中学校の女子生徒の水着写真も有るんだぞ!」
「あちきは関係ないもん。あちきはミミと約束してるんだから、早く来る」
深い躊躇の後、一刃が言う。
「報酬は、今度来る時まで、待っただからな! 次来るまで、大切に守ってろよ!」
そう言って一刃は妹と二人、自分達の世界に帰って行った。
そしてハジメが呟く。
「今度会うときまでか……」
その時、ハジメは知らなかった、自分とこの少年との間には深い縁が有る事を。
クーパがかなり人気なのでこれを上げる事になりました。
これとクーパがどう繋がるのかは、かなり先になります。