第一音 ヴィジュアル
ヴィジュアル系バンドをご存知だろうか。
今回はヴィジュアル系バンドについての小説を書いてみることにした。
是非見て気に入ったらお気に入り・評価お願いします。
――港には、昔漁業で使われていた古い倉庫がある。そこは今、未来を夢見る少年達が自分の腕を磨くための場所となっていた。
その場所に足を踏み入れると……倉庫内には200人ほどの若者達がいた。彼等は古い窓ガラスが割れてしまうのではないかというほどの叫び声を上げている。
若者達の声援は、お世辞にもキレイとはいえないステージで音を奏でる4人組に向けられていた。
4人組はそれぞれが特徴的な服装と化粧をしている……ライブも終盤に差し掛かったころ突然ボーカルが喉を押さえながらステージを降り舞台袖へと消えていった……
「結構期待してたんだけどな……」
私は倉庫を後にした……雑誌の記者として彼等を追いかけてきたが……ここまでのようだ。
「声の調子が悪いとは聞いていたが……ライブ中にステージを降りるとは……」
倉庫までの並木道を引き返す……港から潮の匂いが香ってくる。足を止め海を見つめ、あのグループを思い返していた。
「せっかくイイ物持ってたのになぁ……あのボーカル……」
記者は再び歩き始め駐車場へと向かっていった……
――た……たき……滝川……。
誰かが俺を呼んでる……。何だよせっかく良い気持ちで寝てるのによ……。
「何だよ……うるせぇなぁ……」
「ほう……うるさいとは……私に言ってるのか?」
目を覚ますとそこは見慣れた教室だった。クラス全員が俺を見ている……。
「何見てやがる……」
舌打ちをし睨みつけると全員が目を背けた。このクラスで彼に歯向かえるような生徒はいない。彼はワックスで固められた頭をボリボリと掻くと教室のドアを足で開け廊下に出た。
教師が教室に戻るよう叫ぶが彼は無視して長い廊下を渡り図書室へと向かう。
授業中ということもあり廊下を歩いている生徒はいない。他の教師に見つかることもなく彼は図書室にたどり着きドアを開ける。別に彼は読書をしに来たわけではない。図書室は静かで日当たりがよく昼寝に最適だったからだ。
日当たりの良い場所に移動し椅子を並べ大きな体を横にする……その時。
「あれ? 鍵閉め忘れたかな?」
透き通るようなハイトーンボイスが聞こえた……寝る体勢に入っていた彼は体を起こし声の主を確認する……。
そこには黒ブチ眼鏡を掛けた少年が立っていた……彼は一目で少年に瞳を奪われた……。眼鏡の奥の瞳は大きく少女のようで肌は白く透き通り、腕は強く握れば折れてしまうのではと思えるほど細い……。
「お前、名前は?」
少年は目の前にいる男に怯えていた……身長は少年と頭2つ分程は違い、鋭い目つき……。彼はこの高校でも有名な不良だった。少年は唇を震えさせ名前を呟く。
「北……雅美……です……」
「きた……まさみ……」
彼は聞き覚えのある名前に首を傾げる……
「滝川栄喜さんですよね?」
「何で俺の名前を……?」
雅美は怯えた表情で「有名ですから……」と告げた。
考えごとをしながら栄喜は窓の外に目を向ける……グラウンドでは体育の授業でサッカーが行われている。しばらくサッカーを見ているフリをして思い出すのを待つ……
「あの……ここで何を……?」
恐る恐る雅美が尋ねると栄喜が「昼寝」と答えた。そういえば……今は授業中のはず……なぜ彼はここにいるのか……?
「あれ……北……お前授業は?」
「今の時間は外でサッカーなんですが……病院から激しい運動は止められてるので……」
雅美は寂しそうに微笑んだ。
考え事をしていた栄喜は何か決心をつけたのか「よし」と言うと椅子から立ち上がり雅美に詰め寄り力強く腕を掴み図書室を出る。
「ちょっと来い」
「えっ何ですか? ちょっと!?」
いくら抵抗しようとも雅美の力ではまったく歯が立たなかった。栄喜は長い廊下を渡り玄関にたどり着くと雅美に靴を履くように指示する。断ったものならば何をされるかわからないと感じた雅美は指示に従い黙って靴を履き栄喜の顔を見つめた。
「ついて来い」
それだけ言うと校門の外へと向かっていく、雅美にとって授業中に学校を抜け出すなど初めての経験だった。心臓の鼓動が止まらない……怒られるのではないかという緊張感が体を支配する。
栄喜が振り返ると雅美の足は校門の前で止まっていた。
「何してんだ行くぞ」
「……っ!?」
腕を掴まれ無理矢理に栄喜に引っ張られ視界からどんどんと学校が遠ざかっていく……
栄喜はどこへ自分を連れて行こうとしているのか……学校は完全に見えなくなり少しずつ不安が芽生える……。
「あ、あの……どこに……」
「着いたぞ」
連れて来られた場所は広い武家屋敷だった。敷地は一軒家が4軒は入るのではないだろうかというほど広い。ここは栄喜の家なのだろうか……? そんなことを思いながら雅美は黙って栄喜に促されるがまま屋敷の引き戸を開け中へと入っていく。屋敷の中は薄暗く壁や床からは木の匂いがした。
「ヒデ、もう学校終わったのか?」
2人が玄関に入ると茶髪の大男が出迎えた。
栄喜も大きいがそれ以上に大きい……190センチ近くあるのではないだろうか。大男は雅美にきずき栄喜の顔を見つめる。
「おい……ヒデ……誰だこの子?」
「学校の奴だよ……あのさぁ、こいつ化粧したら映えるとおもわねぇ?」
黙って雅美の顔を見つめた大男は「確かに……」とだけ言ってしばらく沈黙する。
「あの……化粧って? 一体何をやらされるんですか?」
雅美が栄喜に尋ねると満面の笑みで答えた。
「北。俺たちとヴィジュアル系バンドとして活動してくれ」
ここから雅美は音楽への道を歩み始めることになる……
とりあえず書いたけど正直見切り発車だったかも……