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新解釈・アリとキリギリス

ラブコメ☆アリとキリギリス

作者: 地野千塩
掲載日:2026/08/30

「うっわ、時給1200円のバイトとかありえない〜!」


 コンビニの入り口に求人のポスターが貼ってあった。時給はほぼ最賃。しかも深夜帯もあるし、いくら働きアリ族の仕事だからってねぇ……。


 わたしはキリギリス族。しかも今は華の女子大生だし、今のうちにパパ活して、それで貯金貯めたら普通に就活するか早いうちに婚活して旦那を捕まえる予定だった。


「いらっしゃいませー」


 しかもコンビニの店員の声、鬱陶しい。さすが働きアリって感じ。客の爺さんにクレームつけられてるし、あんな風にはなりたくないな。セルフレジでメイク落としとカップスープを買ったら帰った。


 翌日、大学へ向かう。同じキリギリス族の友達と合う。彼女もパパ活しているみたい。配信者もやっているらしく、際どいポーズでファンも多いらしい。


「結局、若さって資産だからね。今のうちにこの資産使うのが一番いいのよ」


 友達の意見、首がもげるほど同意。


「アリとキリギリスって童話あるけどさー、若いうちに稼ぐキリギリス族が一番賢くない?」

「だよね! 歳食ったらパパ活もなんもできないし!」

「コンビニバイトなんてババアになってもできるしね!」


 なんてキャッキャと騒いでいたが、友達、配信者のファンの中に資産家がいるらしく、付き合ってもいるらしい。


「え、マジで? すごくない?」

「うん。もしかしたら結婚するかも。あぁ、これで老後は安泰かも。やっぱり金持ってるキリギリス族が一番勝ち組!」


 幸せそうな友達見ていたら、わたしもやる気になって来た。パパ活頑張ろう!


 ということで、マッチングアプリを使い倒し、経営者、医者、大学教授、パイロットのパパたちと食事しまくった。優しいパパが多いし、わたしの貯金額もかなりの額だ。もしかしたらFIREできるかもしれない。


「でもなぁ……。なんかつまらなんな」


 部屋で一人、銀行口座をチェックしていた。確かに数字は増えてる。FIREはともかく数年遊んで暮らしても余裕があるぐらいなのに、やりたいことがない。遊びといっても美味しいものはパパたちと食べ尽くしたし、旅行もあんまり好きじゃない。かといって他に趣味もないし、お金の使い道がわからない。


「推しでも作るか?」


 それもあんまり興味がないし、ホストも悪い噂を散々聞いてしまい、夢がない。そもそも変なパパにも当たったこともあり、ちょっと男性不信。


「てか、お腹すいたな。コンビニにでも行くか」


 シャツとハーフパンツ、しかもノーメイクでコンビニへ。もう夜だしいいか。


「あれ?」


 そんな格好なのに、なぜか背後から視線を感じる。コツコツ。足音が響く。わたしが止まると同時にその足音が消えるのって何?


 近所の道、もう寝静まっているので、誰もいない。でも視線は感じるし、足音も響く。


「ど、どうしよう……」


 今まで出会った変なパパ達の顔が浮かぶ。彼らが逆恨みして追いかけてきても不思議じゃない?


 急に汗が出てきた。心臓もバクバクいってる。やっぱりパパ活って危険だった?


「だ、誰か……」


 駆け込んだ先はコンビニ。もう夜開いてる店はそこしかないし、あそこに行けば誰かいる!


「だ、大丈夫ですか?」


 そこには働きアリ族の店員が一人。わたしの様子に何かを察したらしい。


「大丈夫。誰もいませんよ」


 しかも周囲を確認してくれて、誰もいないことまで伝えてくれた。


「何か普段、罪悪感もつことでもしてるんじゃないですか」

「え?」

「そういう心理や思い込みってあるから。ちゃんと生きた方が良いですよ」


 店長の目、何かを見抜いているみたい。重たい前髪で隠れているが、目自体は真っ直ぐでキラっとしているじゃないか。働きアリのくせに。いや、働きアリだからか。パパ達やキリギリス族にはこんな目をしている人はいない。


「わ、わかった……」


 なんか親に叱られた子供みたいだけど、働きアリの言うことにも一理ある。それにもうパパ活辞めよっかなぁ。別に貯金額が増えるの、思ったより楽しくないし。こんな風に怯えながら道を歩くのって何か嫌。


 次の日もコンビニへ行ってみた。あの働きアリはわたしに気づいていないようだけど、品出しはテキパキとしているし、レジ打ちも早い。それに迷子の子供には視線を合わせて語っているし、足が不自由なおばあちゃんには一緒に荷物を持ってあげてる。


 きゅん。あれ、おかしいな。気づいたら働きアリをぼーっと見てしまい、胸も変な音をたててる。きゅん。


 次の日も、その次の日もコンビニにいってる。メイク落としもあるし、お菓子も飲み物も、インスタ食品だって家にあるにに。


「ねえ、こっちのホットスナックでおすすめある? 思いっきりジャンキーなやつを食べたいわ」

「かしこまりました。おススメは、このチキンですね。あとこっちのハッシュポテトは地味におすすめな一品で、本社の開発部が厳選したジャガイモを使い……」


 饒舌に商品を紹介する働きアリ。その目は生き生きとしてる。おかしくてたまらない。キリギリス族なのに、働きアリが気になって仕方ないから。彼のこと、もっと知りたくて堪らないから。


 そしてパパ活からすっかり足を洗い、キリギリス族の友達はゼロになった。陰で色々悪口を言われているらしいが、友達の一人、配信者のファンに刺されて大怪訝を負ったと聞いた。顔に傷跡も残ったそうだ。治療代も相当かかっているらしい。


 わたしは例の働きアリくんと同じコンビニでバイト中。深夜はあの働きアリと一緒に働いてる。お客さんの笑顔を見るのがけっこう楽しい。他に家族がいなくてコンビニだけが頼りにっていうお爺ちゃんもいるし。


「働きアリくん、わたしパパ活辞めてよかったぁ」


 チルドの麺やおにぎりを品出ししながら、呟いてしまう。


「おぉ、そうか。それに今日も綺麗に並べられてるな」


 少し遠くから棚をチェックし、働きアリくんは満足そうに頷いていた。


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