王太子様の婚約者です。彼が義妹の魅了魔法にかかった結果、国が平和になりました
「お義姉様ったら、こんな粗末な屋敷で、一人っきりなんてかわいそう〜」
私はマリー・カストリアーナ。この国の侯爵令嬢だ。
三年前、大好きだった母が亡くなってしまった。
そして、遊びコケて滅多に帰ってこない父と、その不倫相手だった継母、それに義妹のマゼリンが我が物顔で侯爵家にやってきた。
そしてあれよあれよという間に、私の部屋はマゼリンに取り上げられて、やがて物置小屋に閉じ込められてしまった。
その時に言われたのが、冒頭の言葉である。
いやいや、「かわいそう」って思うのなら閉じ込めないで下さいませんか……?
そんな心の叫びも余儀なく、物置小屋暮らしがスタートした私。
私をかばった使用人達は全員解雇されてしまったらしい。
ごはんは一日二食。かびっぽいパンとよくわからない草の入ったうす~いスープだ。
あっという間に手入れされた金髪は枯れ葉のようにぱさぱさになり、もちもちだった肌は栄養不足でカサカサになってしまった。
父も継母も執務をしないので物置小屋で隙間風が入る中、ずっと書類仕事をしていた私。腹いせに、たいした書類をチェックもされないので、父の名前ではなくて全て私の名前でサインしてやりました。自分の無能さを後悔するがよい!
ところが、なんとそれが功を奏して、ずっと憧れていたこの国の王太子様の婚約者に私が選ばれてしまった。
なんでも、「王太子妃としての執務能力を十分に兼ね備えている」と見られたらしい。単なる父への嫌がらせが、このような縁に繋がるとは本当に人生はわからないものである。
とりあえず、すっごく嬉しいっ!
なぜなら、王太子様といえば黒髪黒目の整った容姿もそうだが、理性的でとてもお優しいと昔から評判だったのである。
憧れていた人がこれから私のことを愛してくれるだなんて夢のようだ。突然降って湧いてきた幸運に、私は感謝した。
人生ってつらいと思っていたけれど、頑張って生きていたらいいことがあるのね……!
早速王太子様と顔合わせをすることになった私だが、慌てた様子の家族がなんと顔合わせに立ち会いたいと言い出した。
えー……。今更家族ヅラしないでほしい。
それともまさか、私が虐げられていたことを王太子様にチクるとでも思っているのかしら?
本当は断りたかったが物置小屋に暮らしている私のいうことなど誰も聞くことはなく、家族もついてくることになってしまった。
そして顔合わせ当日。
私たちは馬車に揺られて王宮に向かった。
思い返せば、母が亡くなってから家族(だと私も思っていない人達だが)と一緒に馬車に乗るのは初めてかもしれない。
ちなみにドレスはマゼリンのお下がりを無理やり着せられた。彼女は私より貧乳なので、胸のあたりが苦しい。
マゼリンはというと新品のドレスを購入して、ウキウキしている。
胸には紫色の豪華なネックレスが輝いていた。
……これではまるで私ではなくてマゼリンが主役のようね。
そう感じて思わず顔がゆがむ。
そういえば、王宮に行くのも母が生きていた時以来かもしれない。
「王太子様がいらっしゃいました」
その言葉で私たちは顔を上げる。
そこには、ずっと憧れていた王太子様がにこやかに笑っていた。
まあ! 数年前お目にかかったときよりもさらに素敵になっているわ。
時が止まったかのように動けなくなる私の横で、なぜかマゼリンが王太子様に駆け寄って手を握った。
「はじめまして、マゼリンです~。お会いできて嬉しいですっ」
その瞬間、気のせいかネックレスがキラリと光った気がした。
護衛が慌てて止めに入る。
「何をしている! いくらマリー様のご家族とはいえど、急に王太子様に駆け寄るなど……」
すると、王太子様は驚いた顔をした。
「……てっきり最初に駈け寄ってきたこの子がマリー嬢なのかと思った」
ですよね……。ドレスといい、態度といい、まるでマゼリンの顔合わせに私が同行したかのようだ。
「いえ、間違いなくあちらの令嬢がマリー様です。この方は義妹様だとか」
文官が鋭い目でマゼリンを一瞥する。
だが、その視線にもおかまいなく、私以外の侯爵家の三人は満足そうな顔をしている。
……王宮で文官に叱責されたのに一体なぜ?
「そうか。君がマリー嬢か。これから婚約者としてよろしく頼む」
王太子様が事務的な笑顔でほほ笑んだ。
まあ、会っていきなり好意を持って頂くのも難しい話だろう。
ましてや、ずっと物置小屋に閉じ込められていた私だ。
取り繕ってはいるが、どうしても肌や髪の毛には艶がないし、美しいとは言えないだろう。
事務的ではあっても彼は歩み寄ろうとしてくれた。
本来ならば「こんな令嬢は嫌だ」と遠回しにでも言うことはできたはずなのに。
やっぱり彼は優しい人だ。
「はい。王太子様。これからよろしくお願いします」
私が挨拶をすると、文官が今後の予定について説明をはじめた。
どうやら明日から物置小屋を脱出して王宮に住めそうだ。
私は唯一のお母さまの形見のロザリオにそっと手をかざした。
──どうか幸せになれますように。
そんな願いを込めて。
◇◇
その半年後、私がやっと王宮での仕事や生活に慣れ始めた頃だった。
王太子様に「君と、ご家族に話したいことがある」と言われた。
なんだか嫌な予感がする。
「マリー。本当に申し訳ない。せっかく君が婚約者に選ばれたというのに……。実は僕にはどうしようもなく心惹かれる女性がいる。君の、義妹のマゼリン嬢だ」
義妹が私に用がある、と称して何度も王宮に出入りしていたのは知っていた。
だが、王太子妃としての資質には教師にも太鼓判を押してもらっていたし、担当の侍女には「最近のマリー様はとても美しくなりました!」と褒めてもらっていた。
それに王太子様とも良好な関係を築けていたと思っていた。
彼はとても誠実な人で、マゼリンが顔を出すたびに顔はほころんではいたものの、浮気などもしていなかったはずなのに……。
「そんな……」
目の前が真っ暗になってしまった。
私はこれから一体どうなってしまうのだろう。
「まあ! ではマリーとの婚約はなかったことにしてマゼリンを娶る、ということでしょうか」
父の嬉々とした声を聴きながらぎゅっと目をつぶる。
……ところが、王太子様が言い出したのは全く予想外のことだった。
「いや、そういうことが言いたいわけではない。マリーは王宮に来てからとても努力し、立派に僕の婚約者としての務めを果たしてくれている」
その言葉に思わず顔を上げる。
……では彼は何が言いたいのだろうか。
「だが、どうしてもマゼリン嬢が来るたびになぜか目を奪われてしまう自分がいる。そんな自分がとてもあさましく、頑張ってくれているマリーに失礼だと思った」
「え、えーと……。では王太子様は何をされたいのでしょうか」
困惑顔の父に王太子様はパンパンと手をたたいた。
すると、文官が何枚か魔道具で模写された何やら島のような絵を持ってきた。
「この島は美しいと思わないか?」
シーン。
突然そんなことを言い出した王太子様にさらに困惑してしまう。すると、きゃぴっとした声でマゼリンがこう言った。
「え~! まさかお姉さまの目の前で私を旅行にお誘いですか?! 行ってみたいです~」
え? 王太子様はさすがにそこまでデリカシーのない方ではないと思うけれど。
私たちは固唾を呑んで次の言葉を待った。
「そうか。気に入ってくれたか。ならよかった。王都に君が住んでいるとこれからも、きっと王宮に顔を出す機会があるだろう? そのたびに君に心奪われるのは僕の本意ではない。そして僕はどうすれば解決できるのか考えた」
それとこの島がどうつながるだろうか……?
「そして結論に至った。きっと距離が離れれば、君に心惹かれることもなくなるだろうと。……だから申し訳ないがこの島に行ってほしい。ここにマリーも呼んだのは、一応家族の問題だから伝えたほうがいいと考えたからだ」
水を打ったかのように室内が静まり返る。すると、マゼリンが泣き叫びだした。
「いやよっ! なんで私がこんな島に一人で行かなければいけないのよ!」
「ああ、申し訳ないと思っている。だから、君の家族も連れて行っていい。侯爵領は私達の方で問題なく管理するから安心してほしい。大丈夫だ。金は出そう」
王太子様の言葉に焦ったのは父だ。
「そんなっ! 領民たちはきっと私達を必要としていますっ」
おい。どの口が言うよ、どの口が! あんた何にもしないで私に仕事を押し付けていたじゃないっ!
「いや、大丈夫だ。領民にも聞き取りしたところ、マリーがいなくなった今、むしろ国営になった方がありがたいと口をそろえて言われた。だから安心して一生バカンスしてほしい。南の島は暖かくていいところだ。人生を満喫してほしい」
こうして、侯爵家の三人は全員南の島に行くことが本当に決定してしまった。
その過程でなんと侯爵家からは魅了のネックレスが発見された。
どうやら、マゼリンが顔合わせの日につけていたあのネックレスがそうだったらしい。
「なんか、顔を見なくなったら急にマゼリン嬢のことを思い出しもしなくなったな。今度からこういうことがあったら皆、南の島に行ってもらおう」
王太子様は嬉しそうに私に報告してきた。
……この人、すごく優しいと思っていたけれど、実は結構やばい人なんじゃないだろうか。
そして、王太子様は、甘言を吐いてくる腹黒い臣下、そしてハニートラップをしかけてこようとするスパイなど、まとめて南の島に送るようになってしまった。
もちろん、南の島に送った後、犯罪が判明した場合仕送りも打ち切っている。
父や義母、そして、マゼリンは今頃どうしているのだろうか。
風の噂によると、ウニ漁で一発当てようと目論んでいるらしい。
国内にはおかしな人がいなくなり、めっきり平和になってしまった。
「こうやって見ると、君ってすごく綺麗になったね。なぜか僕に話しかけてくる女性が南の島に行ってから急に気づいたよ」
彼は屈託ない笑顔で笑った。
うん、それってただ魅了が切れただけですよね?!
そう思いつつ、私は「綺麗になった」と言われてまんざらでもないのだった。
FIN.
アップルをずっと使ってたのですが、Windowsパソコンを中古で買いました!
今回初めてなろうに直接ではなくワードで打ってみました。ちゃんと、音読機能を使ってみました←
誤字が少なくなっていますように(笑)




