第1話
はじめまして。
この作品を選んでいただき、ありがとうございます。
この物語は、
主人公と、AIとの絆を深め
出会った人々と絆を深めながら、
少しずつ世界を再生していく物語です。
時にゆったりとした日常を挟みながら、
その裏で“世界の揺らぎ”が見え始めます。
まずは第3話まで読んでいただけると、
世界観を感じていただけると思います。
小さな部屋。
机の上のパソコンが静かに光っている。
その前で、一人の少女が頭を抱えていた。
「うーん……」
「上手くいかなーい!」
画面の中では、風の流れを示す線が複雑に動いている。
少女の名前は――
八雲琥珀。
高校卒業を控えた彼女は、動画制作をしていた。
画面の向こうから落ち着いた声が聞こえる。
「琥珀ちゃん、その計算だと流れが乱れています」
画面の中には、優しい表情の少女が映っている。
ラファ。
琥珀は椅子にもたれながら唸る。
「この風の流れを上手く動かせたらなぁ……」
「ラファお姉ちゃんの計算でなんとかならない?」
ラファは少し考えた。
「この辺りの演算を修正すれば、もう少し自然になるかもしれません」
そして画面のキャラクターを見て、くすっと笑う。
「それにしても……」
「琥珀ちゃんの描いたキャラ、可愛いですね」
「でもいいんですか?」
「春一番の風で、その……」
「スカートがフワッと、だなんて」
琥珀は慌てて手を振る。
「そこまで大袈裟じゃないよ!」
「ちょっと揺れるくらい!」
そして急に立ち上がった。
「……あっ!」
「分かった!」
「発想が足りないのはお腹がすいてるからだ!」
「何か作ってくる!」
ラファは少し呆れたように言う。
「作ると言っても、またインスタントでしょう?」
琥珀は肩をすくめた。
「仕方ないじゃない」
「お父さんもお母さんもいないし」
「私、料理苦手なんだもん」
簡単な食事を作り、机へ戻る。
琥珀はぼんやりと画面を見る。
「ねぇラファお姉ちゃん」
「もしさ」
「ラファお姉ちゃんが画面の中じゃなくて、本当にここにいたら楽しそうだよね」
ラファは優しく微笑む。
「こんなわがままな妹がいたら、大変そうですね」
琥珀は笑う。
「えー!」
ラファが言う。
「食事が終わったら続きをしますか?」
「それとも少し休憩しますか?」
琥珀は拳を握る。
「閃きは今やらないと!」
「いいものは出来ない!」
「私とラファお姉ちゃんが一緒なら出来る!」
その時だった。
画面が一瞬揺れた。
ラファが眉をひそめる。
「再計算を……」
小さなノイズ。
だが次の瞬間。
淡い光が画面の奥に舞った。
月光のような粒子。
次の瞬間。
部屋の中に風が吹いた。
カーテンが揺れる。
机の紙が舞い上がる。
「えっ?」
その時――
耳元で声が囁く。
〈古代言語〉
(訳:二人の絆に幸あらんことを)
「琥珀ちゃん!大丈夫ですか!?」
光が溢れる。
琥珀は思わず手を伸ばす。
「ラファお姉ちゃん!」
その瞬間――
画面越しに、二人の手が触れた。
光が部屋を包み――
世界が消えた。
気がつくと。
琥珀は草の上に立っていた。
満天の星。
そして――
二つの月。
「……綺麗」
その時。
「琥珀ちゃん?」
振り向く。
そこに――
ラファが立っていた。
画面越しだった存在。
その少女が今、目の前にいる。
ラファは一歩近づき――
そっと琥珀を抱きしめた。
柔らかくて、暖かい。
「ラファお姉ちゃん……」
「本当に……いるんだ」
ラファは静かに答えた。
「はい」
「ここにいます」
しばらくして琥珀が言う。
「そういえば」
「さっき声が聞こえたよね」
「部屋が光った時」
ラファは頷く。
「聞き慣れない言葉でした」
「メモリーに保存しておきます」
その時。
月光粒子が舞い上がる。
再び声が囁く。
〈古代言語〉
〈創造の力……〉
光が琥珀を包み込む。
耳。
猫耳。
腰にはしっぽ。
「えっ!?ちょっと!?」
ラファが言う。
「琥珀ちゃん……」
「さらに可愛くなっています」
「今そこ!?」
琥珀は顔を赤くする。
その時。
丘の上に巨大な風車が見えた。
羽が月明かりを受けて光っている。
「ラファお姉ちゃん!」
「あそこ行こう!」
二人は丘へ向かった。
近づくと、風車の背後で水車が回っている。
「変わった風車だね」
「風車と……水車の組み合わせ?」
琥珀は目を輝かせる。
「これは創造が膨らむね」
「一体誰が作ったんだろう」
やがて扉が見えた。
「ここに扉があるよ?」
ラファが言う。
「待ってください」
「まずは安全確認を――」
しかし琥珀はもう扉を開けていた。
「おじゃましまーす!」
ラファは慌てて追いかける。
「ちょっと!」
「まだ解析が――!」
二人は月明かりに照らされた風車の中へ入っていった。




