8 すれ違う「守りたい」
「待て! グリンレ――」
「お待ちくださいグリンレイン様! 魔法少女! その辺りについてもっと詳しく!!」
追いかけようとしたメンタルを弾き飛ばし、セラミックがグリンレインを追う。
あっという間に追いついて、並走しながら部屋を出て行った。
追いかけるタイミングを逃したメンタルは、彼女たちの背中を呆然と見送った。
「……待ち続ける程強くないと言われても、待っていてくれとしか言えないのは辛い」
「父上……」
苦い声音に、メンタルはハッと侯爵を振り返った。
戦い続け、生き残っても手足を失った侯爵は苦い顔でグリンレインの背を見送っていた。
「終わりの見えない、生涯続く戦いだ……我々は勿論、待つ者も消耗する。トルフ……お前の母親も、傷だらけで帰還する私への心労が祟って心を病んだ」
騎士の妻は、心が強くなければ病んでしまう。
メンタルの母は、まさしく心を病んだ妻だった。
彼女は、魔物と戦う度に傷だらけになって帰って来る夫の姿に、見送り帰還を待つしかない時間に絶望した。
夫を愛していたからこそ、傷だらけの姿が耐えられなかった。無力な自分に耐えきれなかった。
そのまま衰弱した彼女は、セラミックを産んだ後、体力が回復せずそのまま空へ旅立った。
「それでも妻を、人を、街を、国を守る為に、我々は戦い続けねばならない」
――侯爵が手足を失ったのは、妻を失ってからだ。
騎士もまた、守るべき人を失った時、生き抜く活力が削られるのかもしれない。
待たせるしかできない自分の不甲斐なさが、愛する人を追い詰めたのだとしても……。
それでも、戦い続けねば、愛する人を守れない。
「だから我々は、どんな力でも戦力として、活用していかねばならない」
生きて帰る為に。
魔物より強くならねばならない。
侯爵の言葉に、メンタルもまた歯を食いしばった。
メンタルの為に、共に戦う為に悪徳妖精と契約したグリンレイン。
待ち続ける強さがないと言う、けれど戦う勇気は持ち合わせた戦士としての素質がある娘。
(俺が弱いから、グリンレインが不安になる)
傷を作って帰るから、不安にさせてしまうのだ。
(強くならなくては……彼女が安心して待てるように、強く)
どんな魔物が来ても必ず帰って来ると安心させる事ができるほど強く。
執務室の扉へ目をやる。思い出されるのは、涙目で走り去るグリンレイン。
(……泣かせたいわけでは、ない)
笑っていて欲しいと願う。
彼女のいる場所へ、魔物を通さない。その想いで、メンタルは剣を握り続けてきた。
だから、安全な場所にいて欲しい。それだけなのに。
それが男の身勝手なプライドだとしても、メンタルはグリンレインに安全な場所にいて欲しかった。
沈黙の落ちた執務室。
深く息を吐いた侯爵は、そっとメンタルに語りかけた。
「魔法少女は、お前が思っているより戦力となるだろう」
「……っ」
「お前に恨まれても、私はこの戦い、魔法少女を戦場に出す」
「父上」
「お前もわかっているだろう。この砦に近付く、強大な敵の存在に」
日に日に、予兆は、圧は強くなっている。
それだけの魔物が、近付いてきている。
近いうちに始まる討伐戦を思い、メンタルは拳を握りしめた。
「メンタル」
「……はいっ」
「後悔しないよう、婚姻届けに名前を書きなさい」
「はいぃいえ!!」
ずっと握りしめていた婚姻届けだが、実はとても丁寧に扱われ、皺一つなかった。
もうそれが答えだろうと侯爵は思ったのだが、メンタルは頑なに首を振ってサインをしなかった。
が、廃棄する事もなかった。
そして走り去ったグリンレインは。
「メンタル様の分からず屋! メンタル様の分からず屋!」
抱えたぶちゃいくな猫の顔をこねこねしながらメンタルの悪口を言っていた。
「でも生真面目で頑固な姿勢がストイックで好き! 融通が利かなくてもまず話を聞こうと努力する姿勢がわかり合おうとしていて好き! 圧倒的力量差を感じてわたくしを守ろうとしてくれる姿勢がときめきハートにずっきゅんで大好き! でもでもわたくしを連れて行くと言ってくださらないメンタル様は……わたくしを守ろうと必死で大好きぃいいいいいっ!!」
悪口ではなかった。
大好き過ぎて悪口が言えないグリンレイン。




