3 魔法少女とは……?
「まさか魔法少女が現れるとは……」
そう言ったのは、メンタルの父親、オリコンハル・クラッシャ侯爵だった。
メンタルと同じ鋼色の髪に緑の目をした彼は、力なく椅子に腰掛けている。投げ出された左足と、投げ出された右腕には先がない。
数年前に魔物との戦いで右腕、左足を失った彼は、戦士として戦場に立てないだけでなく、日常生活も満足にこなせなくなっていた。
喪失した手足だけでなく、長年身体を酷使した影響が一気に出ているのだ。
最近では常に疲れた顔をしている侯爵が、感慨深い顔で対面する少女を見やった。
「そしてそれが、まさかあなただとは。プラナー伯爵令嬢」
「お騒がせして申し訳ありません、お義父様……クラッシャ侯爵様」
テーブルを挟んだ向かい側にちょこんと座ったグリンレインが、膝にぶちゃいくな猫を乗せて応える。
その隣に座ったメンタルが、驚愕の視線を父親に向けていた。
いつもの防衛戦がいつもと違う終わりを迎え、報告と知恵を求めて上司である父親の元へ赴いた結果……まさか、父親から魔法少女という言葉が飛び出してくるなんて。
「父上は、魔法少女をご存じなのですか?」
衝撃の戦闘を終えたラブシャワー……グリンレインは、瞬く間に元の令嬢姿になっていた。
呆然とするメンタルに向かって満点の笑顔で駆け寄ってきたグリンレイン。
その背後には乱暴に切り刻まれた魔物達。
人物と背景が合致しなくてメンタルの脳は処理を拒否した。
魔法少女問題も何一つ解決していない。
そんなメンタルが知らない魔法少女を、父親は知っているようだった。
「私も実物を確認したのははじめてだが、昔は多数存在していたらしい。そうだな……妖精達との交流が途絶えてから、魔法少女も現われなくなった。そういえば、どのような存在かわかるだろう」
「……妖精の協力が必要な魔法的存在、という事ですね。魔法騎士と似た立ち位置でしょうか」
『もっと正確に言うと、血筋で存続可能な魔法騎士と違って、妖精と信頼関係のある人間でないとなれない存在でさァ』
グリンレインの膝で寛いでいたぶちゃいくな猫が、ごろりと腹を出しながらそう言った。
『妖精が残した要塞を守る魔法騎士は、妖精達が引きこもった後に顔を出した妖精が、魔物達に蹂躙される人間を憐れんで【とある一族の血筋】に与えた加護でさァ。人間って、親の仕事を子供が継ぐ習慣があるでしょォ? それに倣ったんでさァ。だから【とある一族の血筋】は必然として、人間達にとっての最後の砦であるこの要塞を生涯にわたって守る宿命を課せられている……そうでしょォ、クラッシャ侯爵様ァ』
「……ああ、そうだ。それが魔法騎士、我ら侯爵家の宿命だ」
重々しく頷く侯爵だが、対する猫はグリンレインの膝で、くっちゃくちゃと音を立てながら小魚を噛んでいた。
この悪徳妖精、とっても太々しい。
どういうつもりで契約したのか聞き出したいのに、猫のふりをして誤魔化そうとする。
グリンレインのスカートに涎が落ちるのでやめさせたいが、メンタルが手を出す度に器用に身体をくねらせて逃げる。ぐねぐねと暴れてもグリンレインの膝上をキープし続けた。
苛立ったメンタルの手が、うっかり勢い余ってグリンレインの太ももに触れた。
途端に火が付いたようにびゃっと手を上げたメンタルは、あらまあと頬を染めるグリンレインに無言で無罪を主張するが、グリンレインはもっと触ってくれて良いのに……とハートを飛ばしている。
うちの息子は何をしているのだと侯爵は呆れた顔をしたが、こうして戯れる事のできる相手がいるのはいい事だと見なかった事にした。
クラッシャ侯爵家に産まれた者は、皆騎士である。
得意不得意関係なく、魔物を倒せる特殊な加護を得ている為、物心つく前から訓練して防衛の為に鍛えられる。
メンタルもそうだったし、妹もそうだ。この家に生まれたからには、性別など関係ない。
そんなクラッシャ家を支えるのは分家の者達で、こちらも血の繋がりから加護を持つ者が大半だ。遠縁になりすぎると加護が薄れるのか、中にはどれだけ鍛えても魔物を倒せない者もいる。妖精の判定は割とシビアだった。
よって、現在魔物と戦える人間はこの国に百人前後。そして直系はメンタルと、その妹の二人だけ。
圧倒的に人手が足りない。
そこに現われた、ラブシャワーと名乗る魔法少女、グリンレインだった。
真面目な話をしているのにいちゃついている若い二人。
尚メンタルにそのつもりはない。




