2 魔法少女とは!
――突然だが、世界観の説明をさせて頂こう。
その昔、妖精と人はよき隣人同士だった。
妖精の主食は魔力。世界中に溢れた鱗粉のような魔力を吸って生きる妖精は寿命が長く、不思議な力を扱えた。
世界には魔力が満ちていて、妖精は空気中を漂う魔力を食べて生活できた。
しかし生き物が生まれたときから内に秘める魔力の方が濃厚で美味しかった。美味しかったが、人の魔力をつまみ食いするのはとてもお行儀の悪い行為だ。
妖精は知性を持つ人間と交渉して、人間から魔力を貰う事にした。
代わりに、人間にはできない不思議な力……魔法を貸し出した。
それから人間は身に宿した魔力を妖精に分け与えることで魔法を使い、生活や戦闘に役立てた。
瘴気から生まれる魔物を倒すには、魔力を宿していても扱えない人では荷が重すぎた。妖精と協力することで、自然属性の魔法を操ったり怪我の治りを早めたりしていた。弱肉強食な世界を生き抜く為には妖精の力が必要で、妖精にとっても人に宿る魔力は最上の甘露だった。
しかし、一人の魔法使いが妖精の女王を怒らせた。
女王の怒りから、多くの妖精が妖精界に引きこもってしまった。
ちなみにこの魔法使いが一体何をしたのか、詳細は不明である。
女王と恋仲で浮気をして怒られたとか、魔法の研究で妖精を大量虐殺したとか、あほらしい理由から残虐な物まで諸説ある。真実は未だ解明されていない。
何せ、事情を知る妖精達は口を噤んで何も零さず、妖精界に引きこもって出てこない。
怒らせた魔法使いもそれから一向に姿を現わさず、責任から逃げたとも殺されたとも言われている。
とにかく、妖精と良き隣人であった人々はこれに大混乱。生活も戦闘も立ちゆかなくなった。
弱肉強食の理に翻弄される人間を憐れに思った妖精の一部が戻って来てくれるまで、人間は数を大きく減らした。
魔物と共存できない人間が生活を、戦いを続けられるのは、隣人として人に好意的な妖精が力を貸してくれるから。
しかしそれはほんの一部。
女王を怒らせた人間達に愛想が尽きた妖精は、引きこもるだけでなく……嘲笑うように、人間に対して洒落にならない悪戯をするようになった。
『というわけで、現在この世界には厚意で人間に力を貸しているラブリーキュートな妖精と、人間を騙くらかして甘い汁を吸おうとするデンジャラスダークな妖精の二種類がいるってわけさァ。簡単に表現するなら天使と悪魔。わかりやすいだろォ』
「そんなお前は」
『甘い汁が吸いたくて世間知らずのお嬢ちゃんに近付いた悪徳妖精でさァ』
「成敗」
『ア――――ッ!! そりゃねぇぜハガネの旦那ァ!! ちゃんと悪徳妖精について説明したじゃないですかァーッ!!』
「俺が知りたかったのは、その悪徳妖精が、グリンレインに何をしたのかだ!」
太々しい黒猫の姿をした妖精の後ろ足を掴んで逆さ吊りにしたメンタルは、厳しい顔つきのまま顔を上げた。
妖精は、それぞれ異なった姿をしている。
光の粒子のような姿から、小人のような姿。蝶や鳥から猫の姿まで多種多様だ。
ただし、美しい姿をしているから善性というわけではない。自称悪徳妖精が言うとおり、人間を揶揄うのを生きがいとしている妖精もいる。人間に忌避されがちな虫の姿をしていても、手助けしてくれる心優しい妖精だっている。姿形で判断できないのは、人と同じだ。
一方魔物は、共通して黒い鱗粉を纏っている。
人と妖精は、それを瘴気と呼んでいた。
それは、創世の神が世界誕生という一仕事を負え、身を清めた際に零れ落ちた汚れから生まれたと言われている。
ちなみに一仕事終えた油断から生まれる失敗を暗喩しているとされ、仕事終わりこそ気を引き締めろと教訓にもなっている。
それはさておき、黒い鱗粉を纏う魔物は、人の手では対処しきれない存在だった。
身体は石より固く、四肢を断ち切ってもすぐには倒れぬ生命力を持ち、複数の獣を掛け合わせたような姿をしている。
熊と蛇、鶏と鰐。狼とトカゲ、鳩と土竜。蜘蛛と蝶と蛙と兎が混ざったモノもいた。
魔法による肉体強化や補助がなければ、どれだけ鍛えても命を散らすことになるほどの脅威。
その脅威相手に立ち向かう、マサカリ担いだ可愛い女の子。
「メンタル様ぁ~大好きアタック! 大好きアタックアタック!! ラブラブになりたいバスター! お近付きクイッククイックメロメロウインククリティカル!!」
マサカリが魔物に叩き込まれるたびに散る星屑エフェクト、ハート乱舞。
熊とカバとカマキリが混ざったような姿をした魔物と戦う、愛らしい格好の美少女。
妖精の加護がある一族に産まれ、魔物と戦う宿命を背負ったメンタルの仲間達は、一体何が起きているのかわからないという顔で美少女の活躍をぽかんと眺めていた。
なんとも現実味のない光景だ。さりげなく傷だらけの彼らにファンシーなエフェクトが飛び、傷が癒えていくのも現実味がない。
「愛情チャージ完了……全力アタック、ラブシャワーパワー!!」
頭上でぐるぐる振り回した流星の形をしたマサカリを、巨大な魔物に向かって振り下ろす美少女。
「これがわたくしの、愛ですわー!!」
振り下ろしたマサカリからハートズッキューンッという謎の効果音が響き、魔物が断末魔をあげて四散する。
「わたくしの愛は流星群! 魔法少女ラブシャワー、可憐に勝利、ですわ!」
魔物を一掃した魔法少女ラブシャワー……いいや、グリンレインは、くるくる回って決めポーズをとり、メンタルに向かってばちこんとウインクした。
謎のエフェクトが飛んだ。
メンタルは頭を抱えた。
こんな時でも婚約者からのウインクにときめいた胸ではなく、情報過多で爆発しそうな頭を抱えた。
何が起きたのかわからず、この情報をどう処理したらいいのかもわからない。何より一番わけがわからないのは……。
「魔法少女って、何だ……!?」
『考えるな。感じろ』
メンタルは無言で、キリッとした顔で断言した悪徳妖精をシェイクした。
魔法少女がなんなのかわからない、が。
グリンレインがメンタルの為に代償を支払い、力を得たのは、理解した。
魔法とは、代償なしでは使えないものなのだ。
キリッ!!




