1 愛の戦士爆誕
新連載です。
毎日12:00に投稿予定です!
「どうしてこんな危険なことをしたんだ!」
大好きな人の悲痛な叫びに、グリンレインは強く胸を締め付けられた。
曇天の空を背負ってグリンレインを庇うその人は、今の空と同じ髪色をしている。鋼石に似た目をつり上げて、精一杯の怖い顔でグリンレインを睨み付けていた。
「魔物の前に飛び出すなんて、一歩間違えたら死んでいたんだぞ!」
片腕でグリンレインを庇い、もう片腕で飛びかかってきた魔物を切り伏せた彼の手は震えている。
自惚れでなければそれは、腕を魔物の長く鋭い爪で裂かれたからではない。彼が飛び出さなければ、グリンレインがその爪で失われそうになったからだ。
抱き寄せていた腕が離れて、血だらけの手がグリンレインの頬に触れた。小柄なグリンレインの顔を覗き込んだ彼は、とても情けない顔をしている。
「あなたを傷つけたくないから、俺は……!」
「メンタル様の方が、大怪我をしているのに」
「俺は慣れている! 戦うために選ばれた一族だ。妖精の加護がある! か弱いあなたとは違う!」
叫んで、グリンレインの大好きな人は……魔物から国を守る為に戦い続けている人は、グリンレインを城壁へと押しやった。
遠い昔、妖精達の力で築き上げた要塞。魔物が現れる辺境で、人の暮らしを魔物から守る為に作られた門は今、固く閉ざされている。
「戦いはまだ続いている。内側に入ることはできない……貴方はここで、じっとしていてくれ」
メンタルの両手は血塗れだ。
剣を握った右手は魔物の返り血。だらりと下がった左手は、グリンレインを庇って負傷した。
魔物が近付かない城壁。そこへ追いやられるのはグリンレインだけ。
怪我を負っても彼は、戦う事をやめない。
戦うために背を向けるメンタルの外套を、グリンレインは力強く掴んだ。
邪魔をしている。わかっているけれど、今しかなかった。
「わかっていました……メンタル様が、わたくしがか弱いから、怪我をさせたくなくて、わたくしを遠ざけていると」
メンタルは振り返らない。
「だから、わたくし……」
彼の視線は仲間達が押し返している魔物の群れに向かっている。
人の営みに、城壁に魔物を近付けない為に戦う人々。彼もその一員で、今は戦いの時。
一刻でも惜しい。時間はない。
グリンレインは俯いて、深呼吸をして……やっとの思いで、告げた。
「わたくし……メンタル様に負けないくらい強くなってきましたの!」
「は?」
虚を突かれたメンタルが思わず振り返る。
振り返った先には、メンタルの胸の位置に頭頂部のある小柄な少女。
艶やかな金髪を青いリボンで編み込んだ少女は、春の空のような青い目をキラキラ輝かせてメンタルを見上げていた。
「……今は冗談を聞いている暇も惜しい」
「冗談ではありませんわ!」
「強さがあっても意味はない。魔物を倒せるのは妖精の加護がある者だけで……」
「わたくし悪徳妖精と契約して参りましたの!」
「……はあ!?」
「怪我人のあなた。そこでご覧になっていて!」
「ちょ……っグリンレイン!」
久しぶりに呼び捨てにされて乙女の部分がときめいたが、グリンレインは細っこい足を必死に動かしてメンタルの前に出た。
そして、懐から流星の描かれた小物入れを取り出す。
「メンタル様は……わたくしがお守り致します! 行きますわよ、悪徳妖精!」
『あ~もうしかたがねぇなぁ~~!』
どこからともなく現れた黒猫がグリンレインの頭に飛び乗る。その黒猫から中年男性のダミ声が響いたので、メンタルは手にした剣を横薙ぎにしそうになった。新手の魔物かと思ったのだ。
それをしなかったのは、その黒猫に見覚えがあったから。
「お、お前は……グリンレインと一緒に怪鳥に連れ去られていた黒猫!」
『その節は助けてくれてありがとうなハガネの旦那ァ』
黒い毛並みに金色の目をした猫は、ぴょんと跳ねて空中で一回転した。
『それゆけ、流れ星は君の願いを待っているゥ~!!』
「変身!」
黒猫とグリンレインが叫ぶと、流星の小物入れが七色に光り輝いた。
きゅらきゅらきらきら~!
自動で蓋が開き、中からリボンのように星屑があふれ出る。
星屑のきらめきがグリンレインを包み込み、身につけていた衣服が形を変えた。
星の軌道が布となり、グリンレインの身体を隠す。身体のラインを強調し、音を立ててドレスに変化した。
パニエたっぷりの白いスカートは傘のように膨れた膝丈。細い足は星屑のタイツで覆われ、足元の薄紫のショートブーツは何故か左右で丈が違う。
きゅっとくびれた腰が露わになり、可愛らしいヘソが露出する。ぐるりと二の腕を覆う星の軌道が膨らんで弾け、胸元に咲いた紫の花を中心に白い布が広がった。
真っ直ぐな金髪が紫に染まり、銀色のメッシュが入る。星の軌道が薄紫のリボンとなり、ツインテールに結われて風に靡いた。毛先がくるりと巻かれている。
耳元で星が弾け、小さな星のピアスになる。ぱちっと開かれた目は、見慣れた若葉色ではなく薄紫色だった。
踊るようにステップを踏む少女が踵を鳴らして立ち止まった瞬間、力強く蓋の閉まる音がする。流星の小物入れはポーチになって細い腰に装着された。
「愛のきらめきが止まらない!」
白い手袋に包まれた手を翻し、両手でハートを作って、メンタルへと振り返りにっこり笑顔。
「わたくしのラブ、あなたにだけの流星群。ラブシャワー! ……あなたにだけ、ですわよ?」
「??」
メンタルの目は点になった。
そんなメンタルを気にせずに、グリンレインは小物入れの形をしたポーチに手を突っ込んで武器を引っ張り出した。
質量の法則を無視して現れたのは、大きな星に流動線。流れ星の形をしたマサカリ。
マサカリだった。
「愛の為! ラブシャワー! 魔物退治に参戦、ですわー!」
「??」
小柄な少女が流星のように駆けていき、巨大なマサカリで倍以上の大きさの魔物を吹き飛ばす様子を、メンタルは宇宙を背負いながら見送った。
(・д・ )
( ・д・ )




