友達ひなたの違和感
放課後、教室は次第に静かになり、机や椅子も整っていく。
しかしひなたの視線だけは、ある一点に釘付けだった。
「……やっぱり、まひるおかしい……」
クラスの隅で、まひるは雨宮の机をじっと見つめ、手に持ったハンカチで指紋や鉛筆カスを丁寧に拭き取っている。
その表情は真剣そのもの。
でも、笑顔だ。ふわっと楽しそうに。
ひなたは思わず目を見開く。
(いやいや、もう普通じゃないでしょ……なんであんなに嬉しそうに掃除してるの……?)
雨宮は机の上でうつらうつらしており、まひるの異常なまでの気遣いには全く気づいていない。
「うわ……またやってる……」ひなたは心の中で小声で呟く。
(完全に重い……でも、なんであんな幸せそうなんだ……!?)
まひるは微笑みながら、消しゴムの細かい汚れも見逃さずに拭き取り、
鉛筆をまるで整列させるかのようにそろえる。
「うん……これで完璧。雨宮くんが困らないように……」
そこへ、加賀美つばさが通りかかる。
「え、二階堂? また俺の席掃除……じゃなくて、雨宮の机!?」
「あ、いや、つばさ……それは……」ひなたも慌てて説明する。
(まひるの暴走を誰か止めてくれ……!)
雨宮がやっと半目を開け、ぼんやりとつぶやいた。
「……二階堂、また俺の机いじってたの?」
「うん。少しだけ整えておきました。気になったので……」
真剣な笑顔と小声の語尾がふわっと柔らかくなるその瞬間、雨宮はぽかんとする。
「え、ありがとう……いや、助かるよ」
その言葉が、まひるの胸にグサッと刺さる。
(……助かったって……言ってくれた……)
(だったら……もっと助けたい……!)
ひなたは横で震えながら呟く。
「危険……これ、やばい予感しかしない……」
さらに教室の隅では、後輩女子が小さくつぶやく。
「二階堂先輩……最近、雨宮くんに近づきすぎじゃないですか?」
副委員長も半泣きで机を整理している。
(まひるが何かすると、こっちまで巻き込まれる……!)
まひるは無自覚に、雨宮の筆箱の向きを直し、プリントを軽く揃え、
少しずつ机の上を「完璧空間」にしていく。
教室全体が、まひるの微妙な暴走エネルギーに飲み込まれかけている。
ひなたは思わず息を呑む。
(今日だけでもう何回目……!?
まひる、完全に恋に落ちてる……しかも重すぎる……!!)
雨宮はその異変に全く気づかず、机の上のノートをちらっと見て、
「ふーん、また整ってるな……ありがとな」と、軽くお礼を言う。
その一言で、まひるの胸の奥で何かがさらに膨れ上がる。
放課後の教室。
ただの風紀委員だったまひるが、
小さな“助けたい”から、
ゆっくりと、しかし確実に暴走への第一歩を踏み出していた。




