真面目子ちゃん、初暴走
放課後前の4時間目。
英語の授業が終わるチャイムが鳴り、
生徒たちは次の準備を始めていた。
だが──
雨宮は机の上のノートを見て固まった。
「……え? なんか俺のノート、文字が増えてない?」
ひなた(増えてるよ……! それも綺麗な字で……!)
雨宮が開いたページは
昨日まで半分しか書かれていなかったはずなのに、
今日見るとノートがびっしり埋まっていた。
しかも完璧に要点だけ押さえた、先生顔負けのまとめ。
「え、これ誰が……?
てか俺、この授業ほぼ寝てたよな……?」
まひるが静かに近づく。
「……雨宮くん、昨日眠そうでしたので。
あの……少しだけ、写しておきました」
「え!? 二階堂が!?」
うれしそうというよりも、
どこかふわふわ幸せそうな笑み。
ひなたは頭を抱えた。
(“少しだけ”ってレベルじゃない……!
一冊丸ごとプロの仕事なんよ……!)
雨宮はノートをめくりながら呟く。
「わぁ……めっちゃわかりやすい……。
二階堂、すごいな……これ、ほんと助かるよ」
まひるの肩がビクッと震えた。
(……また……“助かる”……)
(私……助けられてる……)
彼女の胸の中で、
見えない何かがふくらみ、ほどけ、暴れだす。
「い、いえ……その……雨宮くんのためになるなら……
なんでも……したくて……」
「なんでも!?」
「なんでもはダメーーー!!」
ひなたが全力で遮った。
雨宮は少し照れたように笑う。
「じゃあ……ありがとう。
二階堂がいてくれると、俺ほんと、いろいろ助かるわ」
その瞬間。
まひるの頬が真っ赤に染まり、
目がとろんと潤む。
(……雨宮くん……そんな……)
(もっと……助けたい……)
(もっと……必要としてほしい……)
完全に危険な方向へ気持ちが傾きはじめていた。
ひなたは小声で叫ぶ。
「雨宮……おまえ今、
火にガソリンを注いだって理解して……!!」
しかし鈍感ゆる男子に届くはずもなく。
「二階堂、ほんとありがとなー!」
その言葉は
まひるの“暴走モード”のスイッチを
さらに深く押し込んでしまったのだった。
ひなた(うわぁ……
まひる……もう止まらん……)
今日、まひるが手を出したのは“ノート写し”だけだった。
だが、これはまだ助走。
彼女の暴走劇は
まだ始まったばかりだった。




