突然の距離ZERO女子♥
2時間目が終わり、休み時間。
教室には雑談と笑い声が広がっている。
雨宮はいつも通り、のんびりと教科書を机に積み上げ……
あ、いや、積み上げようとした。
……が。
(なんか、後ろが……近い。)
気配。
めっちゃ近い。
「雨宮くん、次の授業、数学ですよね?」
後ろから、ふわりと優しい声。
距離は約15センチ。
いや、もうほぼ背後霊の距離。
振り返ると、まひるが
にこーっと清楚な微笑みのまま立っていた。
「えっ、二階堂!? 近っ……」
「近いですか?」
「いや、めっちゃ近いよ!?」
ひなたが遠くから見ていて肩を震わせる。
(まひる……! お前、昨日までこんな距離感じゃなかっただろ……!)
まひるは全く気にしていない様子で続ける。
「雨宮くん、いつも教科書お忘れになるので……今日こそはと思って。
えっと……ほら、貸しますね」
まひるは自分の教科書を差し出した。
「え、いや、今日は持ってきたよ? ほら!」
雨宮が鞄から取り出すと──
中には二冊の数学教科書。
「……え? なんで二冊?」
ひなた「わぁ……もう始まってる……」
まひるは首をかしげて微笑む。
「念のために、です。
ひとつは自分の、ひとつは……雨宮くんの、かもしれないなって」
「かもしれないで教科書2冊持ってくんの!? 重くない!?!?」
「慣れました♡」
ほんの少し語尾がやわらかい。
でもまひるは気づいていない。
クラスメイトたちはひそひそ話を始める。
「二階堂、雨宮にめっちゃ距離近くない?」
「なんか今日やたら優しくね?」
「優しいのは前からだけど……今日のは“重さ”あるな……」
そんな声もお構いなしに、
まひるは雨宮の席をさりげなく(さりげなくない)整える。
机の端に置かれたプリントを揃え、
少し傾いていた椅子を直し、
消しゴムの汚れまで指で軽くこすって取る。
「え、二階堂……なんで俺の席だけ整備すんの……?」
「雨宮くんが快適に授業を受けられるように、です」
清楚に、品よく、真顔で言われると
反論できない。
しかしひなたは心の中で叫んだ。
(いや反論しろ雨宮!! これ絶対普通じゃない!!)
雨宮は少し照れて笑う。
「なんか……ありがとな、いろいろ。助かる」
その瞬間。
まひるの頬が、ぽっ……と赤くなる。
(……また……“助かる”って……言って……くれた……)
胸の奥で、何かがさらに大きく膨らむ。
(やっぱり……私、役に立ててる……
だったら……もっと……助けたい……)
そんな彼女の思考は
まだ誰も知らない。
ただ、ひなただけが
友達として、震えながら呟いた。
「……完全に恋落ちした真面目子の顔だこれ……
でも恋の仕方が、すでに重い……」
チャイムが鳴る。
距離ゼロ女子・二階堂まひるの
メンヘラ開花は
まだまだ序章にすぎなかった。




