第99話 午後三時(※当社比)、ちゃんと今日 ― コメット、ギリギリ現在形 ―
予定は、だいたい予定通りにいかない。
時計は正確でも、生活はそうじゃない。
少し遅れて、少し焦って、
それでも「今日」はちゃんと今日として存在している。
〈コメット〉の午後三時(※当社比)は、
そんな曖昧さを抱えたまま、今日も静かに回っています。
〈セクター7〉、午後3時(と、表示されている)。
カフェ〈コメット〉の時計は、
今日もきちんと午後三時を指していた。
……本当に午後三時かどうかは、
もう誰も深く考えないことにしている。
リクは豆を挽き、
ミナは抽出温度を確認し、
カナは端末を閉じ、
ジロウはなぜか小走りで店内を一周して戻ってきた。
「……今日、出したよな?」
リクが、豆を挽きながらぼそっと言う。
「何を?」
「今日を」
一瞬の沈黙。
ミナの光が、
ほんの少しだけ遅れて点滅した。
『確認します。
本日の更新ログ……』
ジロウが身構える。
「……あります?
ありますよね?」
『……あります。
ただし、想定時刻から——』
「何時間?」
ミナは一拍置いてから、静かに答えた。
『……気にしない方が、
この店らしいと思います』
カナが即座に手を振る。
「いいのいいの!
まだ今日だから!」
「そうだ。まだ今日だ」
リクはあっさり言った。
「宇宙的には誤差だろ」
「その理屈、雑すぎません?」
「雑だが強い」
ミナは少し考えたあと、記録を続ける。
『本日の状態:
“ギリギリだが、未超過”』
ジロウが胸をなで下ろす。
「セーフ判定っすね……」
「完全アウトより百倍いいわ」
ドリップが始まる。
ぽと……
ぽと……
そのリズムは、
朝でも夕方でもなく、
ただ「今」の速度だった。
ミナが静かに付け足す。
『時間は正確ではありませんが、
現在は存在しています』
「十分だな」
リクはそう言って、カップを差し出した。
午後三時(※当社比)。
朝七時のはずだった時間は過ぎ、
夜になりかけている。
それでも今日は、
ちゃんと今日のままだ。
ミナが記録を確定する。
『今日の香りの記録——
“遅れたけれど、今日だった一杯”。』
窓の外で、地球が回っている。
日付が変わる直前でも、
まだ同じ一日として。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。
遅れても、忘れかけても、
完全に過ぎてしまわなければ「今日」は今日。
この回は、
更新ギリギリ、判断雑め、でも不思議と成立してしまう
〈コメット〉らしい一日を、そのまま記録しました。
時間に追いつくより、
コーヒーが冷めない方が大事な日もある。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。




