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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第98話 昨日の午後、少し遅れて ― コメット、時間に追いつく ―

更新が一日、遅れました。

でも〈コメット〉では、

時間が少しずれることは、よくあります。


昨日の午後が、

今日になってからやって来ることもある。

それでもコーヒーは冷めず、

誰かの一日は、ちゃんと存在していたりします。


これは、

「遅れてきた昨日」を

慌てず迎えた午後の話です。

〈セクター7〉、午後3時(※体感的には昨日)。


カフェ〈コメット〉は、いつも通り開いていた。


……正確に言えば、

「開いていることになっていた」。


リクはカウンターで豆を量りながら、ふと手を止めた。


「なぁ……今日、何日だ?」


カナが端末を見ずに答える。


「17日」


「……昨日は?」


「16日」


「……だよな」


ジロウが嫌な予感を覚えた顔で振り返る。


「まさか……」


ミナの光が、静かに点灯した。


『確認します。

 〈コメット〉活動記録――

 16日分、未生成』


一瞬、無音。


ジロウが叫んだ。


「やっちゃってるじゃないっすか!!

 時間、すっ飛ばしてるじゃないっすか!!」


「落ち着け。宇宙は?」


『現時点では崩壊していません』


「ならセーフだ」


「判断基準それでいいんすか!?」


カナが端末を操作しながら言った。


「でもこれ、

 “昨日の午後”が

 ログ上、存在してないことになるわよ」


リクは少し考えてから、肩をすくめた。


「じゃあ……作ればいい」


「昨日を?」


「昨日を」


ミナが一瞬だけ処理を止める。


『……提案。

 現在時刻から、

 “昨日の午後”を再構成します』


「そんなことできるのか?」


『〈コメット〉では、

 だいたい可能です』


ジロウが不安そうに聞く。


「副作用とか……」


『特にありません。

 ただし――』


「ただし?」


『少しだけ、

 遅れてくる香りになります』


「それ、むしろ良くない?」


こうして〈コメット〉は、

昨日の午後三時を、今から始めた。


コーヒーは、昨日の気分で淹れられ、

会話は、少し遅れて噛み合い、

ジロウは昨日転ぶはずだった場所で、

今日、盛大に転んだ。


「うわっ!!」


「昨日やれ」


「無理っすよ!」


ミナが静かに記録する。


『再構成完了。

 昨日の午後、無事に存在しました』


カナが笑う。


「遅れても、ちゃんと一日だったわね」


リクはカップを差し出した。


「大事なのは、

 飛ばさないことじゃなくて――

 戻ってくることだ」


コーヒーの香りが、

時間を一つ、元の位置に戻した。


今日も。

晴れ――ときどき、地球だ。


一日遅れたからといって、

その一日が無くなるわけじゃない。


忘れて、気づいて、戻ってくる。

〈コメット〉では、

それも立派な平常運転です。


時間に追いつけなかった日も、

コーヒーを淹れ直せば、

ちゃんと香りは戻ってきます。


次は――

今日の午後を、今日のまま。


また、ここで。

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