第98話 昨日の午後、少し遅れて ― コメット、時間に追いつく ―
更新が一日、遅れました。
でも〈コメット〉では、
時間が少しずれることは、よくあります。
昨日の午後が、
今日になってからやって来ることもある。
それでもコーヒーは冷めず、
誰かの一日は、ちゃんと存在していたりします。
これは、
「遅れてきた昨日」を
慌てず迎えた午後の話です。
〈セクター7〉、午後3時(※体感的には昨日)。
カフェ〈コメット〉は、いつも通り開いていた。
……正確に言えば、
「開いていることになっていた」。
リクはカウンターで豆を量りながら、ふと手を止めた。
「なぁ……今日、何日だ?」
カナが端末を見ずに答える。
「17日」
「……昨日は?」
「16日」
「……だよな」
ジロウが嫌な予感を覚えた顔で振り返る。
「まさか……」
ミナの光が、静かに点灯した。
『確認します。
〈コメット〉活動記録――
16日分、未生成』
一瞬、無音。
ジロウが叫んだ。
「やっちゃってるじゃないっすか!!
時間、すっ飛ばしてるじゃないっすか!!」
「落ち着け。宇宙は?」
『現時点では崩壊していません』
「ならセーフだ」
「判断基準それでいいんすか!?」
カナが端末を操作しながら言った。
「でもこれ、
“昨日の午後”が
ログ上、存在してないことになるわよ」
リクは少し考えてから、肩をすくめた。
「じゃあ……作ればいい」
「昨日を?」
「昨日を」
ミナが一瞬だけ処理を止める。
『……提案。
現在時刻から、
“昨日の午後”を再構成します』
「そんなことできるのか?」
『〈コメット〉では、
だいたい可能です』
ジロウが不安そうに聞く。
「副作用とか……」
『特にありません。
ただし――』
「ただし?」
『少しだけ、
遅れてくる香りになります』
「それ、むしろ良くない?」
こうして〈コメット〉は、
昨日の午後三時を、今から始めた。
コーヒーは、昨日の気分で淹れられ、
会話は、少し遅れて噛み合い、
ジロウは昨日転ぶはずだった場所で、
今日、盛大に転んだ。
「うわっ!!」
「昨日やれ」
「無理っすよ!」
ミナが静かに記録する。
『再構成完了。
昨日の午後、無事に存在しました』
カナが笑う。
「遅れても、ちゃんと一日だったわね」
リクはカップを差し出した。
「大事なのは、
飛ばさないことじゃなくて――
戻ってくることだ」
コーヒーの香りが、
時間を一つ、元の位置に戻した。
今日も。
晴れ――ときどき、地球だ。
一日遅れたからといって、
その一日が無くなるわけじゃない。
忘れて、気づいて、戻ってくる。
〈コメット〉では、
それも立派な平常運転です。
時間に追いつけなかった日も、
コーヒーを淹れ直せば、
ちゃんと香りは戻ってきます。
次は――
今日の午後を、今日のまま。
また、ここで。




