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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第90話 午後六時、定義 ― コメットは性能が落ちる ―

世界は、

救われた直後がいちばん不安定になる。


英雄が帰り、

緊張がほどけ、

「大丈夫だったはずのもの」が

急に音を立て始める。


〈コメット〉の一日は、

だいたいそういうところから始まる。


〈セクター7〉、午後6時。


営業終了後の〈コメット〉は、

静かで、少し散らかっていた。


ジロウはまだ床に落ちたネジを拾っている。


「……さっきの、なんだったんすかね」


カナが椅子にもたれながら言う。


「何が?」


「外だと、普通にできるのに。

 ここ戻ると、途端にダメになる感じ」


ミナが静かに応答する。


『解析します』


光がゆっくり回る。


『結論。

 〈コメット〉では、

 緊張維持アルゴリズムが自動解除されます』


「そんな機能つけた覚えねぇぞ」


リクが言う。


『立地、香り、会話密度、

 視線の圧力が極端に低い。

 結果――』


ミナは少しだけ間を置いた。


『人は“頑張らなくていい状態”になります』


ジロウは手を止めた。


「……性能、落ちてません?」


『はい』


即答だった。


カナが笑う。


「はっきり言うわね」


『ただし』

ミナは続ける。


『故障率は上がりますが、

 再起動率も上昇します』


リクは頷いた。


「そういう店だ」


ジロウは、拾った最後のネジを見つめてから、

ポケットに入れた。


「……外じゃ、

 “失敗しないように”動いてました」


誰も口を挟まない。


「でもここだと……

 失敗しても、

 怒られない気がする」


リクはカウンターを拭きながら言う。


「怒らねぇよ。

 直せばいい」


ミナが静かに記録する。


『定義を更新します。

 〈コメット〉とは――』


一拍。


『能力が下がる代わりに、

 人が戻る場所』


ジロウは小さく笑った。


「……それ、好きっす」


外では地球が静かに回っている。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


うまくいった理由は、

最後までよく分からない。


でも、

笑ってコーヒーを飲めているなら、

それで十分だった。


〈コメット〉は、

結果よりも、

「戻ってこられたかどうか」を

大事にする場所だ。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。

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