第83話 正月、だいたい全部リセット ― コメット、年が変わる ―
年が変わる瞬間は、
いつも思ったより静かだ。
大きな音も、派手な合図もなく、
ただ「さっきまで」と「今」の境目が
すっと入れ替わるだけ。
〈コメット〉でも同じ。
宇宙でも、正月は案外あっさり始まる。
これは、
そんな“特別じゃない新年”を迎えた
いつものメンバーの話。
〈セクター7〉、午前0時すぎ。
年は、静かに変わった。
ドン、と音がするわけでもなく、
宇宙が光るわけでもなく、
〈コメット〉のカウンターの時計が
「23:59」から「00:00」に変わっただけだった。
「……あ、変わったな。」
リクがコーヒー豆の袋を閉じながら言う。
ミナの光が一瞬だけ明るくなる。
『時刻更新を確認。
本日より、新しい年です』
「言われると急に実感なくなるな。」
カナは端末を置き、椅子の背にもたれた。
「去年、何してたかもう思い出せないんだけど。」
「それ、年末にも言ってたっすよ。」
ジロウは紙袋を抱えて、そわそわしている。
「リクさん、正月っすよ?
なんかそれっぽいことしないんすか?」
「宇宙で正月っぽいことって何だよ。」
「えー……餅とか?」
「ここ無重力対応カフェだぞ。」
ミナが静かに提案する。
『提案。
“区切り”として、特別な一杯を淹れますか?』
リクは少し考えてから、頷いた。
「まぁ、区切りくらいはあってもいいか。」
豆を挽く音が、いつもよりゆっくり響く。
ぽと……
ぽと……
湯が落ちるたび、
何かがリセットされていくような気がする。
ジロウが小声で言う。
「去年、オレ……結構やらかしましたよね。」
「今年もやるだろ。」
「即断っすか!?」
カナが笑う。
「でもまあ、続いてるってことは、
致命的じゃなかったってことよ。」
ミナが記録する。
『前年の総括:
失敗多数。
致命的事故なし。
継続可能』
「それ褒めてるのか?」
『はい。最大級に』
リクはカップを並べた。
「ほら。
新年一杯目だ。」
全員がカップを手に取る。
特別な味はしない。
でも、いつもより少しだけ、静かだった。
ジロウがぽつりと言う。
「……なんか、
今年も何とかなる気がしてきました。」
「それで十分だ。」
ミナの光が、柔らかく灯る。
『今日の香りの記録――
“何も変わらないけど、ちゃんと新年”。』
窓の外では、
青い惑星が変わらず回っている。
去年も回っていたし、
今日も回っている。
だからきっと、
今年も回る。
〈コメット〉は正月も通常営業。
楽観的で、少しポンコツで。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。
新しい年になっても、
劇的に何かが変わるわけじゃない。
忘れるし、
やらかすし、
たぶん今年もポンコツだ。
でも、
コーヒーが香って、
笑えて、
「まぁ何とかなるか」と思えたら、
それだけで十分なのかもしれない。
〈コメット〉は今日も通常営業。
今年も、
晴れ、ときどき地球だ。




