第81話 午後三時、なぜか全員ちょっと遅刻 ― 集まらないのに営業中 ―
午後三時。
きっちり始まる日もあれば、
なぜか全員そろってズレる日もあります。
遅刻は良くない。
でも、遅れたからこそ見える景色もある。
今回は、
何も起きていないようで、
ちゃんとドタバタしている〈コメット〉の午後。
特別な事件はありません。
でも、いつも通りではあります。
〈セクター7〉、午後3時。
カフェ〈コメット〉の照明はついている。
看板も「OPEN」だ。
コーヒーミルも、なぜか回っている。
――が。
誰もいない。
正確には、
誰もカウンターにいない。
店内には、
淹れかけのドリッパー、
半分量られた豆、
書きかけのメモ、
途中で止まったBGM。
そして、
ピポだけが床の真ん中で転がっていた。
「……ぴ」
小さく鳴いて、天井を見上げる。
数分後。
リクが奥の倉庫から出てくる。
エプロンをつけながら、首をかしげた。
「……あれ? もう三時か?」
時計を見る。
きっちり15:03。
「なんで誰もいねぇんだ……」
同時に、反対側の扉からジロウが入ってくる。
「リクさん! 聞いてください!
さっき廊下で、完全に自分の靴じゃない靴履いてて——」
リクが遮る。
「今、何時だと思う?」
ジロウ、固まる。
「……あ」
その直後、
通信端末を抱えたカナが慌てて入ってくる。
「ごめん! 時間感覚が……
ちょっとだけ“未来寄り”だった!」
「未来寄りって何だよ。」
最後に、
ミナの光がふわっと点灯する。
『全員そろいました。
ただし、全員“三分ずつ遅刻”しています』
「そんな揃い方ある?」
店内を見回して、
四人同時に気づく。
ドリッパー、止まっている。
お湯、冷めている。
BGM、途中でフェードアウト。
ピポが誇らしげに鳴く。
「ぴー」
「……もしかして、お前が回してたのか?」
「ぴ」
リクは一度、深く息を吸った。
「……まぁ、いいか。」
全員、その言葉を待っていたように力を抜く。
リクは豆を挽き直す。
ジロウはフィルターを広げ直す。
カナはメモを破って丸める。
ミナは静かにログを初期化する。
『午後三時の記録、修正。
“開始が三分遅れただけ”』
「それ、優しい解釈だな。」
『楽観主義は、安定化に寄与します』
ぽと……
ぽと……
ようやく落ち始める一滴。
さっきまでの慌ただしさが、
嘘みたいに静かになる。
ジロウがぽつりと言う。
「……オレら、集まるの下手っすね。」
リクは笑う。
「下手でも、来るだろ。」
カナも笑った。
「来ちゃうのよね、結局。」
ミナの光が、少しだけ明るくなる。
『それを“日常”と定義します』
カップが並ぶ。
香りが広がる。
三分遅れの午後三時は、
なぜかちょうどいい温度だった。
ミナが静かに記録する。
『今日の香りの記録——
“集まるのが遅れても、ちゃんと始まる午後”。』
リクはカップを持ち上げる。
「……よし。営業開始だ。」
誰も拍手しない。
誰も感動しない。
でも、
コーヒーはちゃんと美味かった。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。
三分遅れても、
コーヒーはちゃんと落ちるし、
集まれば、店は始まります。
完璧じゃなくていい。
むしろ、少しズレているくらいがちょうどいい。
〈コメット〉は今日も、
広い心と楽観主義で営業中。
明日もまた、
晴れ、ときどき地球です。




