表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/109

第81話 午後三時、なぜか全員ちょっと遅刻 ― 集まらないのに営業中 ―

午後三時。

きっちり始まる日もあれば、

なぜか全員そろってズレる日もあります。


遅刻は良くない。

でも、遅れたからこそ見える景色もある。


今回は、

何も起きていないようで、

ちゃんとドタバタしている〈コメット〉の午後。


特別な事件はありません。

でも、いつも通りではあります。


〈セクター7〉、午後3時。


カフェ〈コメット〉の照明はついている。

看板も「OPEN」だ。

コーヒーミルも、なぜか回っている。


――が。


誰もいない。


正確には、

誰もカウンターにいない。


店内には、

淹れかけのドリッパー、

半分量られた豆、

書きかけのメモ、

途中で止まったBGM。


そして、

ピポだけが床の真ん中で転がっていた。


「……ぴ」


小さく鳴いて、天井を見上げる。


 


数分後。


リクが奥の倉庫から出てくる。

エプロンをつけながら、首をかしげた。


「……あれ? もう三時か?」


時計を見る。

きっちり15:03。


「なんで誰もいねぇんだ……」


 


同時に、反対側の扉からジロウが入ってくる。


「リクさん! 聞いてください!

 さっき廊下で、完全に自分の靴じゃない靴履いてて——」


リクが遮る。


「今、何時だと思う?」


ジロウ、固まる。


「……あ」


 


その直後、

通信端末を抱えたカナが慌てて入ってくる。


「ごめん! 時間感覚が……

 ちょっとだけ“未来寄り”だった!」


「未来寄りって何だよ。」


 


最後に、

ミナの光がふわっと点灯する。


『全員そろいました。

 ただし、全員“三分ずつ遅刻”しています』


「そんな揃い方ある?」


 


店内を見回して、

四人同時に気づく。


ドリッパー、止まっている。

お湯、冷めている。

BGM、途中でフェードアウト。


ピポが誇らしげに鳴く。


「ぴー」


「……もしかして、お前が回してたのか?」


「ぴ」


 


リクは一度、深く息を吸った。


「……まぁ、いいか。」


全員、その言葉を待っていたように力を抜く。


 


リクは豆を挽き直す。

ジロウはフィルターを広げ直す。

カナはメモを破って丸める。

ミナは静かにログを初期化する。


『午後三時の記録、修正。

 “開始が三分遅れただけ”』


「それ、優しい解釈だな。」


『楽観主義は、安定化に寄与します』


 


ぽと……

ぽと……


ようやく落ち始める一滴。


さっきまでの慌ただしさが、

嘘みたいに静かになる。


ジロウがぽつりと言う。


「……オレら、集まるの下手っすね。」


リクは笑う。


「下手でも、来るだろ。」


カナも笑った。


「来ちゃうのよね、結局。」


ミナの光が、少しだけ明るくなる。


『それを“日常”と定義します』


 


カップが並ぶ。

香りが広がる。


三分遅れの午後三時は、

なぜかちょうどいい温度だった。


 


ミナが静かに記録する。


『今日の香りの記録——

 “集まるのが遅れても、ちゃんと始まる午後”。』


リクはカップを持ち上げる。


「……よし。営業開始だ。」


誰も拍手しない。

誰も感動しない。


でも、

コーヒーはちゃんと美味かった。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。

三分遅れても、

コーヒーはちゃんと落ちるし、

集まれば、店は始まります。


完璧じゃなくていい。

むしろ、少しズレているくらいがちょうどいい。


〈コメット〉は今日も、

広い心と楽観主義で営業中。


明日もまた、

晴れ、ときどき地球です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ