第78話 更新された一日と、空白の二日間 ― コメット、止まっていたわけじゃない ―
77話は、ちゃんと更新されていた。
宇宙は崩れかけて、逆に進みかけて、
それでも〈コメット〉は、いつものやり方で切り抜けた。
――そのあと。
なぜか二日分だけ、記録が空いている。
止まっていたわけじゃない。
何も起きなかったわけでもない。
ただ、「書かれなかった日常」があっただけ。
これは、更新された一日と、
書かれなかった二日間のお話。
〈セクター7〉、午後3時。
カフェ〈コメット〉は、いつも通り営業していた。
ただし――二日分だけ、記録が抜け落ちていた。
リクはカウンターで豆を量りながら、ぽつりと言う。
「……77話は、ちゃんとあったよな。」
ジロウが即答する。
「ありました!
時間が逆に進んで、宇宙が崩れかけて、
オレが謎のポーズで助けた回っすよね!」
「助けたかどうかは怪しいがな。」
カナは端末を操作しながら眉をひそめていた。
「26日は記録がある。
でも……27日と28日が、丸ごと空白。」
ミナの光が、少し弱めに灯る。
『事実です。
77話の直後から、
〈コメット〉の観測ログが二日間だけ
“記録待ち状態”になっています。』
「記録待ちって何だよ。」
『“後で書こうと思って、
そのまま忘れられた日常”です。』
ジロウがゆっくり固まる。
「……それ、宇宙的に許されるんすか?」
『はい。
人類史の大半が、そのカテゴリに含まれます。』
カナが吹き出した。
「たしかに……
日記が空白の日って、だいたい元気だった日よね。」
リクはコーヒーを淹れ始める。
「つまりだ。
77話で宇宙は一回ちゃんと助かって、
そのあと二日間は……」
『忙しく、騒がしく、
しかし致命的ではなかった、という評価です。』
ジロウが肩を落とす。
「えぇ……
オレ、あの二日で三回コケて、
四回怒られて、
一回だけ感動したのに……」
「感動したなら上出来だ。」
その瞬間、床を転がっていたピポが
テーブルの脚にぶつかる。
「ぴぎゃっ」
「ほら、こういうのはちゃんと起きてる。」
ミナが静かに記録を再開する。
『欠番期間、要約を付与します。』
「要約すんの!?」
『要約:
“77話のあと、少し騒がしく、
更新する余裕はなかったが、
全員ちゃんと生きていた。”』
カナは笑いながら言った。
「それで十分ね。」
リクはカップを差し出す。
「書かれなかった日も、
ちゃんと〈コメット〉の一部だ。」
ミナの光が、少しだけあたたかくなる。
『今日の香りの記録——
“更新された一日と、書かれなかった二日間”。』
何もなかったわけじゃない。
ただ、言葉にする前に過ぎただけ。
〈コメット〉は今日も変わらず、
少し散らかっていて、
少しあたたかい。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。
物語には、ちゃんと書かれる日があります。
でも同じくらい、
書かれないまま過ぎていく日もあります。
それは失敗でも、空白でもなくて、
ただ「生きていた」というだけの日。
〈コメット〉は今日も営業していて、
誰かが転び、誰かが笑い、
誰かは何も覚えていない。
それでいい。
更新された一日も、
書かれなかった二日間も、
全部ひっくるめて〈コメット〉の日常です。
次の話では、
また何事もなかった顔で、
コーヒーを淹れています。
今日も――
晴れ、ときどき地球だ。




