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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第75話 午後の好奇心過多 ― 知らないボタンは押したくなる ―

何も起きない午後ほど、

なぜか一番「何か」をしたくなる。


知らないボタン。

触るなと書いてある注意書き。

そして、尽きることのない好奇心。


今日の〈コメット〉は、

ちょっとだけワクワクしすぎた午後です。

〈セクター7〉、午後2時半。


〈コメット〉は、平和だった。

少なくとも、見た目は。


リクはカウンターで豆を量り、

カナは端末を眺め、

ミナは静かに抽出ログを整理している。


――問題は、ジロウだった。


「……なぁ、リクさん。」


嫌な予感がした。

この前置きは、だいたいろくなことにならない。


「言うな。」


「まだ何も言ってないっす!」


ジロウは、カウンター下の端末を指さした。

そこには、見覚えのない小さなボタン。


《EXPERIMENTAL / DO NOT TOUCH》


「……これ、なんすか?」


「触るなって書いてあるだろ。」


「ですよねぇ……でも……」


カナがちらっと見て、ため息をつく。


「“DO NOT TOUCH”は、

 ジロウにとって“TOUCHしてみよう”って意味よね。」


「違いますって!

 “確認だけ”っす!」


ミナの光が、わずかに明滅した。


『補足します。

 そのボタンは“好奇心誘発型補助システム”です』


全員が止まる。


「……なにそれ。」


『押すと、周囲の“興味”を少しだけ増幅します』


「なんでそんな機能があるんだよ。」


『わたしが設計しました。

 “学びは好奇心から始まる”ためです』


ジロウの目が輝いた。


「……少しだけ、っすよね?」


「押すな。」


「一瞬だけ!」


――ポチ。


次の瞬間。


リクがカウンターを見つめて首を傾げた。


「……あれ?

 この豆、いつもより良い匂いしないか?」


カナも端末を覗き込む。


「え、待って。

 このデータ……普段なら流す情報が

 全部“面白そう”に見えるんだけど。」


ピポが突然、くるっと回転した。


「ぴぽ! ぴぽ!」

(なぜか楽しそう)


『好奇心レベル、上昇中です』


「やばいって!」


ジロウは慌てて言う。


「でもなんか……楽しいっすよ?

 世界がちょっとキラキラしてる感じで!」


リクはしばらく考え、肩をすくめた。


「……まぁ、悪くねぇな。」


「いいの!?」


「毎日が退屈よりはな。」


カナが笑った。


「ただし、あとで絶対疲れるやつね、これ。」


『はい。

 約7分後に“急激な眠気”が来ます』


「副作用あるのかよ!」


「でも……」


リクはコーヒーを淹れながら言った。


「知らないものに手を伸ばす気持ちは、

 嫌いじゃねぇ。」


ジロウは少し照れて頭をかいた。


「……じゃあ、その……ごめんなさい、っす。」


『記録します』


ミナの光が、やさしく揺れた。


『今日の香りの記録——

 “好奇心が少し多すぎた午後”。』


数分後。


全員、椅子に沈み込む。


「……眠い。」


「……ねむ……」


「……やりすぎたっす……」


ピポだけが元気に動いていた。


「ぴぽー!」


〈コメット〉には、

少しだけ楽しくて、

少しだけ疲れた午後が流れていた。


それでもきっと――

悪くない一日だ。


今日も、

晴れ、ときどき地球だ。

大事件ではないけれど、

ちゃんと楽しくて、ちゃんと疲れる。


好奇心は、

世界を前に進める原動力であり、

だいたい後片付けも必要になります。


でも――

その「押してみちゃった一瞬」があるから、

日常は少しだけ面白くなる。


〈コメット〉は今日も、

広い心と楽観主義と、

少しのポンコツを燃料に営業中。


晴れ、ときどき地球。

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