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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第74話 順番待ちの宇宙 ― 先に並んだのは誰だ ―

宇宙では、たいていのことが急ぎ足で進みます。

航路、通信、補給、計算、判断。


でも、ときどき

「別に急がなくてもいい時間」が

どこからともなく生まれることがあります。


今回の〈コメット〉は、

そんな“理由のない待ち時間”のお話です。


並んだ理由も、目的も、

はっきりしないまま。

それでも、なぜか落ち着いてしまう午後。


今日もゆるく、

ポンコツで、楽観的にお届けします。

〈セクター7〉、午後5時。


カフェ〈コメット〉の前に、

なぜか――行列ができていた。


「……なあ」


リクが窓の外を見て、首をかしげる。


「うちは今、“行列ができるほどの店”だったか?」


カナも振り返って確認する。


「口コミは見てないけど……

 少なくとも、今日セールはしてないわ。」


ジロウはカウンターから身を乗り出した。


「え、え、見てください!

 あの人たち、ちゃんと“一列”で並んでますよ!?」


外では、

作業服の技師、研究者、配送員、

さらには小型ドローンまでが、

妙にきちんと順番を守って並んでいた。


ミナの光が、少し戸惑うように揺れる。


『解析中……。

 現在、〈コメット〉前に

 “待機行動”が自然発生しています。』


「自然発生って何だよ。」


『理由は不明ですが、

 誰も割り込もうとしていません。』


ジロウが感心したように言う。


「宇宙なのに、マナー良すぎません?」


そのとき、

先頭に並んでいた年配の整備士が、

遠慮がちにドアをノックした。


「……あの……」


リクが出る。


「いらっしゃい。

 どうした?」


整備士は申し訳なさそうに言った。


「いや、その……

 “急ぎじゃないけど、なんとなく来てしまって”」


「なんとなく?」


「はい。

 さっき通ったら、香りがして……

 順番待ってたら、落ち着いたんです。」


後ろの研究者も頷く。


「私もです。

 用事は別にないんですが……先に並んでしまって。」


ドローンが電子音で補足する。


『充電不要。

 しかし待機継続を希望。』


「ドローンまで!?」


ミナが静かに言った。


『推測。

 〈コメット〉前の空間に、

 “急がなくていい”という情報が

 拡散している可能性があります。』


カナが笑う。


「なにそれ。すごく平和。」


リクは肩をすくめた。


「じゃあ、並んでるなら出すか。」


「何を?」


「コーヒーだろ。」


そう言って、

リクは店の外に簡易カウンターを出した。


順番に、

一杯ずつ、

特別な説明もなく。


ぽと……

ぽと……


列は不思議と伸びもせず、縮みもせず、

飲んだ人から静かに去っていく。


ジロウは首をかしげる。


「売上、微妙じゃないっすか?」


「まぁな。」


ミナが記録する。


『本日の観測メモ。

 “順番を待つだけで、少し整う現象”。』


最後に、

ドローンがコーヒーの香りをスキャンして言った。


『結論。

 ここは“急がない場所”です。』


全員が一瞬、黙った。


リクが笑う。


「……それ、悪くねぇな。」


カナも頷く。


「うん。たまには順番待ちも。」


ジロウは腕を伸ばした。


「じゃあ次、誰が並びます?」


ミナが少し考えてから言った。


『……わたしも。

 抽出の順番、待ってみます。』


〈コメット〉の前には、

いつの間にか行列は消えていた。


でも、

“急がなくていい空気”だけが、

しばらく残っていた。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。


行列ができた理由は、

結局よく分かりません。


でも〈コメット〉では、

そういうことがよく起きます。


意味がなくても、

効率が悪くても、

急がなくてもいい時間。


それだけで、

少しだけ整うことがある。


宇宙のどこかに、

「急がないでいい場所」があるなら、

それは案外、平和なのかもしれません。


次回もまた、

理由のわからない日常と、

香りと、ちょっとしたポンコツを。


今日も――

晴れ、ときどき地球だ。

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