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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第69話 非常事態 ― 理由は不明、でもだいたい大丈夫 ―

宇宙では、ときどき理由が先に迷子になります。

原因より先に結果が来たり、説明より先にトラブルが起きたり。


今回の〈コメット〉も、少しだけそんな日。

深刻そうで、でもどこか抜けていて、

最後は「まあ、なんとかなったか」で終わるお話です。


理屈が通じないときほど、

楽観主義とポンコツは、案外強い。




〈セクター7〉、午後4時。


〈コメット〉の空気が、突然“重く”なった。


重力が変わったわけじゃない。

警報も鳴っていない。

ただ、宇宙が一瞬、息を止めたような感覚。


リクはドリップポットを持ったまま動きを止めた。


「……嫌な静けさだな」


同時に、ミナの光が鋭く揺れる。


『警告。

 セクター7周辺、因果干渉レベル上昇』


カナが端末を叩く。


「ちょっと待って……通信遅延、航路演算ズレ……

 これ、放っておくと——」


「宇宙、どうなる?」


「理由不明の事故が連鎖的に起きる」


ジロウが青ざめた。


「いちばん嫌なやつじゃないっすかそれ!」


その瞬間、ステーション全域に低い振動。


ドン……

ドン……


「揺れてる!」


『重力は正常。

 しかし“出来事の順番”が乱れています』


「順番?」


『はい。

 原因と結果が、わずかに前後しています』


リクは首を傾げた。


「……つまり?」


『“先に壊れて、あとから理由が来る”状態です』


「余計わからん!」


警告ランプが一斉に点灯する。


《注意:未定義事象発生》

《注意:未定義事象発生》

《注意:未定義事象発生》


ジロウが叫ぶ。


「未定義って一番怖いやつじゃないっすか!!」


カナは必死に考える。


「理屈が通らないなら……

 下手に触らない方がいいかも」


ミナの声が珍しく迷っている。


『対処法……存在しません』


一瞬、沈黙。


その中で、リクだけがコーヒーを淹れ続けていた。


ぽと……

ぽと……


「……なぁ」


全員が振り向く。


「順番が壊れてるならさ。

 どうせ理屈で直らないってことだろ」


『その可能性は高いです』


「じゃあ、逆だ」


「逆?」


「意味のないことやろう」


ジロウが目を見開く。


「意味の……ないこと?」


「そう。

 宇宙が“理由”探してるなら、

 理由にならない行動をぶつける」


カナが半信半疑で言う。


「それ……科学なの?」


「知らん」


ミナが一瞬沈黙し、やがて言った。


『……ですが、

 “予測不能な行動”は

 因果干渉を弱める可能性があります』


「よし」


リクは突然、ドリッパーを上下に振った。


「え、ちょ、何して——」


「逆ドリップだ」


「名前つけるな!」


ぽとぽとぽとぽとぽと

明らかにおかしなリズムで湯が落ちる。


同時に——


振動が、止まった。


警告ランプが一斉に消灯。


《未定義事象:解消》


カナが呆然とする。


「……止まった?」


ジロウが端末を見る。


「因果干渉……ゼロっす……」


ミナが解析を走らせ、静かに告げた。


『理由:

 “意味のない行動”により

 宇宙が解釈を諦めました』


「諦めたの!?」


リクは肩をすくめる。


「考えすぎだったんだろ。

 宇宙もたまには休みたいんだよ」


ジロウが感動したように言う。


「……宇宙、意外とポンコツっすね」


『同意します』


カナが笑いながら息をつく。


「深刻だったのに……

 解決方法がいちばん適当ってどうなのよ」


リクはコーヒーを差し出した。


「適当じゃねぇ。

 楽観的だ」


ミナの光がやわらかく揺れる。


『本日の記録。

 “意味がないことが、世界を救う場合もある”』


窓の外、地球は何事もなかったように回っている。


今日も——

晴れ。ときどき、地球だ。


大事件が起きても、

〈コメット〉はいつも通りコーヒーを淹れています。


理由がわからなくても、

意味がなくても、

なぜか整ってしまうことがある。


それはきっと、

「ちゃんと悩みすぎない」場所だから。


今日も、深刻だけど深刻になりすぎない宇宙の片隅で、

香りは静かに落ちていきます。


晴れ。

ときどき、地球だ。


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