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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第68話 ポンコツ警報発令中 ― なにもしてないのに直った ―

午後の〈コメット〉は、だいたい平和です。

……だいたい、ですが。


今回は

「何か起きた気がする」

「でも実際には何も起きていない」

そんな、非常にコメットらしい一日のお話。


理由はよくわかりません。

でも、コーヒーはおいしい。

それだけで十分な午後もあるのです。


〈セクター7〉、午後4時。


カフェ〈コメット〉の奥で、

ピコン、ピコン、ピコン

と、聞き慣れない警報音が鳴り始めた。


ジロウが即座に立ち上がる。


「やばいっす!

 この音、“何かが起きてるけど、原因不明”のやつっす!」


「それ一番やばいやつじゃねぇか。」


リクはコーヒーを淹れたまま、まったく慌てない。


カナは端末を叩きながら眉をひそめた。


「異常ログ……なし。

 エラーコード……なし。

 なのに警報だけ出てる。」


ミナの光が少し戸惑ったように揺れる。


『解析結果:

 “特に問題はありませんが、

 なぜか不安です”という状態です。』


「AIが不安になるな。」


ジロウが装置を覗き込む。


「これ、オレ昨日触ったかもしれないっす。」


「“かもしれない”はやめろ。」


「いや、掃除した記憶はあるんすよ!

 ちゃんと丁寧に!」


「その前に“ちゃんと丁寧に”で何回事故起きた?」


警報音が少し大きくなる。


ピコーン! ピコーン!


カナが肩をすくめた。


「とりあえず原因は不明。

 対処方法も不明。

 でも……今のところ被害ゼロ。」


リクはドリッパーを置き、言った。


「じゃあ一旦、コーヒー飲もうぜ。」


「いやいやいや!

 警報鳴ってる中で!?」


「落ち着かねぇと、余計わからなくなる。」


ミナも少し考えてから答える。


『合理的です。

 “人間が落ち着くと、だいたい事態も落ち着く”

 という統計があります。』


「そんな雑な統計ある!?」


リクが湯を落とす。


ぽと……

ぽと……


警報音が、

ピコン……ピコン……

と、なぜか弱くなる。


ジロウが目を丸くした。


「え、音……小さくなってません?」


「ほんとだ。」


カナが端末を確認する。


「警報レベル、下がってる。

 理由……“問題がなさそうだから”。」


「判断基準ゆるすぎだろ!」


最後の一滴が落ちた瞬間――


ピコン


警報が止まった。


沈黙。


ジロウが恐る恐る言う。


「……直りました?」


ミナが解析を終える。


『結論:

 特に何も起きていませんでした。

 警報は“気のせい”だった可能性が高いです。』


「そんな装置ある!?」


リクはコーヒーを差し出した。


「ほら、結果オーライだ。」


カナは笑いをこらえながら言った。


「つまり……

 何もしてないけど、

 コーヒー飲んだら解決した、と。」


ジロウが頭を抱える。


「オレ、緊急対応のために走った意味……!」


ミナが静かにまとめる。


『今日の記録:

 “ポンコツ警報、特に理由なく解除”。』


リクは一口飲んで、満足そうに言った。


「いい午後だな。」


ジロウが叫ぶ。


「よくないっすよ!!

 でも……コメットっぽいっす!!」


警報もトラブルも、

結局なにも起きなかった。


でも、なぜかみんな少し笑っていた。


今日も――

晴れ。ときどき、地球だ。


警報が鳴っても、

原因がなくても、

慌てたのはだいたいジロウだけでした。


〈コメット〉では、

何も起きないことが一番の事件だったりします。


次回もきっと、

役に立たない理論と、

意味のない行動と、

なぜかうまくいく結果をお届けします。


今日も――

晴れ。ときどき、地球だ。

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