第68話 ポンコツ警報発令中 ― なにもしてないのに直った ―
午後の〈コメット〉は、だいたい平和です。
……だいたい、ですが。
今回は
「何か起きた気がする」
「でも実際には何も起きていない」
そんな、非常にコメットらしい一日のお話。
理由はよくわかりません。
でも、コーヒーはおいしい。
それだけで十分な午後もあるのです。
〈セクター7〉、午後4時。
カフェ〈コメット〉の奥で、
ピコン、ピコン、ピコン
と、聞き慣れない警報音が鳴り始めた。
ジロウが即座に立ち上がる。
「やばいっす!
この音、“何かが起きてるけど、原因不明”のやつっす!」
「それ一番やばいやつじゃねぇか。」
リクはコーヒーを淹れたまま、まったく慌てない。
カナは端末を叩きながら眉をひそめた。
「異常ログ……なし。
エラーコード……なし。
なのに警報だけ出てる。」
ミナの光が少し戸惑ったように揺れる。
『解析結果:
“特に問題はありませんが、
なぜか不安です”という状態です。』
「AIが不安になるな。」
ジロウが装置を覗き込む。
「これ、オレ昨日触ったかもしれないっす。」
「“かもしれない”はやめろ。」
「いや、掃除した記憶はあるんすよ!
ちゃんと丁寧に!」
「その前に“ちゃんと丁寧に”で何回事故起きた?」
警報音が少し大きくなる。
ピコーン! ピコーン!
カナが肩をすくめた。
「とりあえず原因は不明。
対処方法も不明。
でも……今のところ被害ゼロ。」
リクはドリッパーを置き、言った。
「じゃあ一旦、コーヒー飲もうぜ。」
「いやいやいや!
警報鳴ってる中で!?」
「落ち着かねぇと、余計わからなくなる。」
ミナも少し考えてから答える。
『合理的です。
“人間が落ち着くと、だいたい事態も落ち着く”
という統計があります。』
「そんな雑な統計ある!?」
リクが湯を落とす。
ぽと……
ぽと……
警報音が、
ピコン……ピコン……
と、なぜか弱くなる。
ジロウが目を丸くした。
「え、音……小さくなってません?」
「ほんとだ。」
カナが端末を確認する。
「警報レベル、下がってる。
理由……“問題がなさそうだから”。」
「判断基準ゆるすぎだろ!」
最後の一滴が落ちた瞬間――
ピコン
警報が止まった。
沈黙。
ジロウが恐る恐る言う。
「……直りました?」
ミナが解析を終える。
『結論:
特に何も起きていませんでした。
警報は“気のせい”だった可能性が高いです。』
「そんな装置ある!?」
リクはコーヒーを差し出した。
「ほら、結果オーライだ。」
カナは笑いをこらえながら言った。
「つまり……
何もしてないけど、
コーヒー飲んだら解決した、と。」
ジロウが頭を抱える。
「オレ、緊急対応のために走った意味……!」
ミナが静かにまとめる。
『今日の記録:
“ポンコツ警報、特に理由なく解除”。』
リクは一口飲んで、満足そうに言った。
「いい午後だな。」
ジロウが叫ぶ。
「よくないっすよ!!
でも……コメットっぽいっす!!」
警報もトラブルも、
結局なにも起きなかった。
でも、なぜかみんな少し笑っていた。
今日も――
晴れ。ときどき、地球だ。
警報が鳴っても、
原因がなくても、
慌てたのはだいたいジロウだけでした。
〈コメット〉では、
何も起きないことが一番の事件だったりします。
次回もきっと、
役に立たない理論と、
意味のない行動と、
なぜかうまくいく結果をお届けします。
今日も――
晴れ。ときどき、地球だ。




