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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第63話 サウナ・イン・コメット ― 熱くて始まり、冷めて終わる午後 ―

午後の〈コメット〉は、時々ふしぎな顔をする。


いつもと同じ空気のはずなのに、

なぜか“ちょっと暑い”。

なぜか“みんな動きがのろい”。

そしてなぜか“ミナが湯気っぽい”。


ただの異常じゃない。

こういう時のコメットは――必ず、何かが始まる。


今回の第63話は、

リク、ジロウ、カナ、そしてミナの“悪ノリとため息”の午後。


サウナなのか、事件なのか、カフェなのか。

ぜんぶ曖昧で、ぜんぶ愛おしい日常回です。


どうぞ肩の力を抜いて。


〈セクター7〉、午後1時。


カフェ〈コメット〉の空気が――

やけに、もわっとしていた。


カナが前髪を押さえる。


「……ちょっと待って、湿気多すぎじゃない?」


ジロウはすでにTシャツ姿になっていた。


「いやぁ……なんか夏みたいっすね……」


リクはハンカチで首筋をぬぐった。


「……ミナ、何してんだ?」


カウンター横で佇むミナの光は、

いつもより赤みを帯びて――

ほんのり湯気っぽい。


『……すみません。演算負荷が溜まりすぎて……

 内部温度が……その……上昇……』


「上昇ってレベルじゃねぇぞ。店が蒸されてる。」


その瞬間、ジロウの顔が“ひらめきの顔”になった。


「これ……サウナじゃないっすか?」


リクがゆっくりと目を細める。


「……確かに。“コメット式サウナ”ってやつか。」


カナは呆れたように両手を広げた。


「やめなさい。絶対ロクなことにならない。」


しかし、もう遅かった。


ーー5分後。


〈コメット〉は完全に“悪ノリ会場”になっていた。


リクはタオルを肩に掛け、

コーヒー豆の袋を薪代わりに囲みながら言う。


「よし、ロウリュいくか。」


ジロウが大きく目を見開いた。


「ロウリュって豆に水かける気っすか!?」


カナは即座に制止した。


「やめなさいってば! 豆が湿気たら大惨事よ!」


ジロウはタオルを回しながら叫ぶ。


「熱波師ジロウ、いきまーす!!!」


バッサァァッ!!!


カナの冷ややかな視線が突き刺さる。


「……誰が客よ。」


ミナは店の中央でぼんやりと光り、

蒸気の中で小さく困ったように揺れた。


『……皆さん……楽しそうで何よりですが……

 わたしの温度はまだ……上がっています……』


「おーしミナ! もう少しがんばれ!

 サウナは芯から温まるのが大事なんだ!」


リクが声を上げる。


「ミナさんの温度で店が営業できるんすよ!? 激アツ!!」


ジロウは楽しそうに言った。


カナが眉をひそめてツッコむ。


「いや褒めてないからそれ!」


ミナはゆっくり、じわりと光を赤くした。


『……“激アツ”というのは……誉め言葉……ですか?』


「もちろんだ!」

リクが胸を張る。


「今日の主役っすよ!」

ジロウも乗る。


ミナは数秒、沈黙し――


そして、光がすぅっと青く戻った。


『……冷めました。』


店内温度も

しゅわぁぁぁ……

と音を立てるように下がっていく。


ジロウが慌てて声を上げた。


「え、ちょ、サウナ終わり!?」


「いや、終わりに決まってるでしょ。」

カナがあきれたように言う。


ミナは淡々と告げる。


『わたしの内部温度の上昇は、

 熱暴走ではなく“精神的疲労による効率低下”でした。

 皆さんの……その……

 “悪ふざけ波形”を観測していたら……

 冷めました。』


リクが思わず聞き返す。


「精神的!?」


ジロウはショックでタオルを落とした。


「悪ふざけ波形!?」


堪えきれず、カナが笑い出す。


「つまり……呆れたってことでしょミナ!」


ミナはきっぱりと言った。


『はい。呆れました。』


リクはタオルを投げ出して苦笑した。


「……悪ぃ。」


ジロウも肩を落とす。


「ミナさん……サウナ楽しいと思ったんすけど……」


ミナは少しだけ優しく光を揺らす。


『楽しいかどうかは……

 “湿度ではなく、あなたたち次第”です。』


カナが噴き出す。


「名言っぽく言うな!」


ミナは静かに記録した。


『今日の香り:

 “午後の悪ふざけ、そして突然の冷却”。』


リクは冷たい水を一口飲み、


「……悪くねぇ。」


外では、地球が静かに回っていた。

今日も晴れ、ときどき地球だ。


サウナは終わりました。

原因は温度ではなく――人間側のテンションでした。


リクとジロウの悪ノリが暴走し、

ミナの“AI的限界”が静かに訪れ、

カナはただひたすら疲れ、

そして〈コメット〉はいつも通りなんとか平和でした。


事件というほどじゃない。

でも、何もなかったとも言い切れない。

そんな“コメットらしい午後”だったと思います。


明日はまた、別の揺らぎがやってくるでしょう。

そのたびに誰かが笑って、誰かがため息をついて、

ミナが静かに香りを記録する。


そんな日々を、これからも一緒に見ていただけたら嬉しいです。


――今日も、晴れ、ときどき地球だ。


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