第62話 平和活動ドリップ ― でもやってることはいつも通り ―
宇宙評議会から突然届いた、
「〈コメット〉を平和協力拠点に認定する」という知らせ。
あまりに唐突で、あまりにゆるくて、
そして何より——“コーヒーを淹れるだけで平和に貢献できる”という
前代未聞の任務。
でも、〈コメット〉にとっては
いつもの午後三時と、ほんの少ししか変わらない。
そんな“肩の力が抜ける日常”を描いた回です。
〈セクター7〉、午後3時。
カフェ〈コメット〉のカウンターに、
見慣れない銀色の札がそっと置かれていた。
《銀河平和協力拠点・暫定》
ジロウが目をこすって二度見する。
「……これ、絶対なんかの冗談っすよね?
リクさん、いつの間に平和活動始めたんすか?」
カナが端末を確認して、困惑気味に息をつく。
「いや……冗談じゃないわ。
宇宙評議会のデータベースに登録されてる。
どうしてコメットが“平和拠点”なのよ……」
ミナの光がふわりと揺れた。
『結論だけ言うと……
“コーヒーの逆位相安定化”が宇宙揺らぎの抑制に
効果的と評価されたようです。』
リクはケトルの準備をしながらぼそっと言った。
「で……俺がやることは?」
『“良い香りのコーヒーを淹れておくこと”。以上です。』
ジロウが派手にむせた。
「平和活動ゆるっ!!
もっとこう……巡回とか講和とかないんすか!?」
カナが眉を寄せる。
「ほんとにコーヒー淹れるだけでいいの……?」
『はい。“現時点では”。』
リクが腕を組んだ。
「で、給料は?」
『……現在は“善意の協力”という扱いで、無給です。』
「ただ働きか。」
カナが額を押さえる。
「え、ちょっと。ボランティアで宇宙を守るの……?」
ミナがほんの少し申し訳なさそうに光を縮めた。
『給金の代わりに“平和協力ポイント”が付与されます。
一定数集まると“バッジ”がもらえます。』
ジロウが目を輝かせる。
「バッジ欲しい!!」
『現在ジロウさんのポイントは……0です。』
「なんでぇ!? まだ何もしてないっすよ!?」
カナが吹き出した。
「してないから0なんでしょ。」
リクは静かに湯を落とし始めた。
ぽと、ぽと、ぽと。
香りがふわりと広がる。
その瞬間、ミナの解析が走る。
『平和波形、安定。
揺らぎ指数、低下。
地球周辺ストレスレベル……微減。』
カナが思わずつぶやいた。
「ほんとに……効いてるのが一番怖いわね……」
ジロウは神妙にうなずいた。
「平和って……コーヒーで守れるんすねぇ……」
リクはカップを置いて、ゆるく笑った。
「平和がこの程度で維持できるなら……安いもんだ。」
ミナが静かに光を灯す。
『今日の香り、タイトルは——
“平和も午後三時も、だいたい同じ味”。』
カナは頬を緩めた。
「……そのタイトル、好き。」
ジロウが手を挙げる。
「ポイントください!」
『今のは雑談なので加算されません。』
「活動にしてぇ!!」
店内に、ゆるい笑い声が広がった。
やることは、いつも通りコーヒーを淹れるだけ。
だけど、それが宇宙を少しだけ穏やかにするなら——
そんな午後三時も悪くない。
今日もゆっくり、
晴れ、ときどき地球だ。
宇宙を救った翌週に、
ただのカフェが“平和拠点”としてゆるく稼働し始める——
この温度差が、コメットらしさだと思っています。
何か特別なことをしているようで、
実際にやっていることは、いつもと変わらない。
香りが整えば、気持ちも整う。
気持ちが整えば、世界も少しだけ穏やかになる。
そんな“静かな平和”のあり方を
これからも描いていけたらと思っています。
今日も読んでくださり、ありがとうございます。
次回も、どうぞふらりとお立ち寄りください。




