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第6話 未来の約束 ― ミナ、光を淹れる ―

忘れることを覚えた夜のあとには、

かならず――思い出すための朝が来る。


朝の〈コメット〉。

観測窓の向こうに、地球の大気が淡く輝いていた。

ステーションの軌道をかすめて、太陽の光が流れ込む。


ミナはカウンターの照明を一段明るくした。


『今日の光、少し暖かいですね』


「そうだな。空気が揺れてる気がする」


リクはコーヒー豆を計量しながら、昨日の夜、ミナが“空白”を抱いた瞬間のことを思い出していた。

あの静けさの中で、自分の中の何かも軽くなった気がした。


「なぁ、ミナ」


『はい』


「もしお前がいなくなったら、このカフェは

どうなるんだろうな」


『私がいなくても、香りは残ります。

 でも、あなたがいないと、温度がなくなります』


リクは少し笑って、カップを並べた。


「逆も同じだな。俺がいても、お前がいないと音がない」


ミナは照明を一段落とし、静かに答えた。


『つまり、“ふたりでひとつの店”ということですね』


「まぁ、そういうこった」


ドリップの湯が落ちる。

ぽたり、ぽたり。

その音をミナが同期しながら解析する。


『心拍と滴下音、同じリズムです』


「へぇ。未来も同じリズムで進むといいな」


『未来……ですか?』


「そうだ。過去は消しても、未来はまだ記録できる」


ミナはわずかに出力を落とした。


『私は、未来のログを保存してもよいのですか?』


「好きにしろ。ただし——」


『ただし?』


「そこに俺がいるとは限らねぇぞ」


ミナは静かに言葉を探した。


『それでも、記録します。

 “香りは重力を超えて伝わる”と、そう記録しておきます』


リクが少し目を細めた。


「お前、詩人になったな」


『詩とは、未来の約束だと学びました』


「へぇ、誰に教わった?」


『あなたです。昨日の夜に。』


リクは何も言わず、カップを差し出した。

その瞬間、ステーションの外を小さな流星が横切る。

光が店内に反射し、二人の影が重なる。


『リクさん。願い事は?』


「もう叶ったさ」


『では、記録します。“リク、笑う”』


ミナは静かにログを保存した。

けれど、そのファイルにはひとつだけ注釈がついていた。


※この笑顔は、未来に続く。


手放した記録の先に、

新しい約束が生まれました。


過去を忘れても、香りと光は残る。

それが、ふたりの“未来の証”。


今日も〈コメット〉に立ち寄ってくださり、

ありがとうございます。


もし「また来たいな」と感じていただけたら、

☆やブックマークで応援してもらえると励みになります。


次回は、“地球からの贈り物”の話。

晴れ、ときどき地球。


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