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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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57/109

第57話 午後のうっかり重力 ― コーヒーは落ちない、けど落ちた ―

午後三時の〈コメット〉は、

“いちばん何も起きてほしくない時間”です。


けれど、何も起きてほしくない日に限って、

なぜか起きるのが〈コメット〉の宇宙法則。


今回の第57話は、そんな「小さな事件」が

思いがけず美しい光景になるお話。


重力が傾いて、コーヒーが斜めに落ちて、

みんなが右に寄っていくカフェ。


その混乱の中で、

リクとミナがふっと見せる“静かな解決”と、

あいかわらずのジロウのポンコツ加減を

どうぞお楽しみください。


〈セクター7〉、午後3時。


午後三時の〈コメット〉は、

「何も起きないでほしい時間ランキング」堂々の1位だ。

リクもミナも、そしてジロウも、

それぞれ静かに作業をしていた。


――数秒前までは。


 


「……ねぇミナ。床、歪んでないか?」


リクがコーヒーを淹れながら眉を寄せた。

足元の空気が、じわっと沈むような違和感。


ジロウが即座に答える。


「えっ。気のせいっすよ。オレなんもしてないっす。」


「今、“なんもしてない”って真っ先に言う時点で

 怪しいんだよ。」


『わたしにも異常値を検出します。

 ……重力が“うっかり方向転換”しています。』


カナが目を瞬かせる。


「……どういう物理よそれ。」


ミナがホログラムを展開する。


『重力フィールドが“約7度ほど右下方向”へ傾いています。

 原因は――』


その瞬間、カップに落ちるコーヒーの滴が、

不穏にも 右方向へ曲がった。


「おい、コーヒーが斜めに落ちてるぞ。」


「はいリクさん、それ“落ちてる”じゃなくて“流れてる”っす。」


「どっちでもいいが大事件だろ。」


カナは両手で机を押さえた。


「ちょっと待って、机も滑ってきてる!」


テーブルが少し右へ“ずりっ”と動く。


ピポは悲鳴のように「ぴぎゃっ」と

鳴きながら床を転がっていった。



『原因を特定。』


ミナが静かに告げる。


『ジロウが昨日、“重力プレートの掃除”を行いましたね。

 その際……左右を“逆”に戻しています。』


リクとカナ

「「逆って何だよ!!」」


ジロウは土下座に近い姿勢で叫んだ。


「ごごごごめんなさい!!

 だって同じ形なんすよ! 

 左右対称に見えるじゃないっすか!」


「お前、左右の概念捨ててんのか。」


 


店内の備品が、少しずつ右へ“寄っていく”。


コーヒー豆の袋が倒れ、ミルがずるっと動き、

カウンターに置いていたメモ帳が全て 右端に積み上がった。


 


リクが腕まくりした。


「よし……戻すぞ。ミナ、

 重力の流れを“見える化”してくれ。」


『可視化します。』


空間に淡い光の線が走り、

“どこに重力が流れているのか”が見えるようになった。


カナは息を飲む。


「……綺麗ね。なんか、風の流れみたい。」


ジロウは震えながら言った。


「えっ、なんかロマンチックな空気出てません?

 オレのせいで起きてるのに……」


「黙ってろ。方向音痴のせいで宇宙が傾いてんだよ。」


「方向音痴って言うな!」


 


ミナが告げる。


『重力プレート、再調整可能。

 ただし“感覚で合わせた方が高精度”です。』


リクはうなずく。


「じゃあ行くか。

 “斜めに落ちるコーヒー”を、まっすぐ落とすだけだ。」


ドリップの高さを調整し、

コーヒーの滴が光の線をかすめながら――


少しずつ、まっすぐに戻っていく。


ジロウは震えながら見つめた。


「……戻ってる! オレの罪が浄化されていく……!」


「罪って言うな。まぁ罪だが。」


 


完全に滴が“垂直”に落ちた瞬間、

ミナが光を明るくした。


『重力、正常化。』


床の物たちが動きを止め、

ピポが安心したように“ぷはぁ”と息を吐いた

(なぜ息があるのかは不明)。


 


カナが笑った。


「……いい午後だったね。傾きはしたけど。」


リクはコーヒーを掲げた。


「重力が曲がっても、香りは逃げねぇな。」


ミナが柔らかく光る。


『今日の香り、タイトルは――

 “傾いた午後と、まっすぐ落ちた一滴”。』


ジロウは小さく手を挙げた。


「リクさん……本当にごめんなさい……」


「まぁいい。お前は明日……左右の勉強からな。」


「えっ小学校からやり直す感じっすか!?」


『はい。復習プリントを生成しておきます。』


「ミナさん!? ほんとに作らないでいいっすよね!?」


 


そんな騒ぎも、

コーヒーの香りと一緒にゆっくり沈んでいった。


今日も、晴れ——ときどき、地球だ。


重力が傾いても、コーヒーは香りを失わない。


そんな当たり前で、不思議で、

ちょっとあたたかい瞬間を描いた回でした。


〈コメット〉の日常はドタバタですが、

必ず最後に“まっすぐ戻る”場所がある。


それを一番信じているのは、

きっとリクで、ミナで、そして読んでくれるあなたです。


次回はまた、違う揺らぎと香りをお届けします。

今日もありがとう。


晴れ、ときどき、地球だ。

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