第54話 注文管理AI《ピス》爆誕 ― だから言ったろ、増やすなって ―
〈コメット〉には、
“店を便利にするはずの機械が、逆に混乱を生む”
という伝統があります。
今回はついに、
“注文管理AI端末”が導入されることに。
ミナが嬉しそうだった時点で嫌な予感しかしませんでしたが、
案の定、店の秩序がふわっと宇宙へ飛んでいきます。
それでは、青い午後のポンコツ劇場をどうぞ。
〈セクター7〉、午前11時。
ジロウがカウンターにでかい箱を置いた。
「リクさん! 新商品っすよ新商品!
〈コメット〉専用の注文管理AIっす!」
リクは第一声から冷めていた。
「名前の段階で嫌な予感しかしねぇ。」
カナも腕を組む。
「“ピス”って……どういうネーミングなのよ。」
ミナの光が誇らしげに揺れる。
『命名はわたしです。“ピタッとスムーズ”の略です。』
「もっとまともな名前あっただろ……」
箱が開き、丸っこい端末が現れた。
《PIS》
光がぴこぴこ点滅している。
「こんにちはピス! ご注文を最適化しますピス!」
ジロウ:
「かわいい!!」
リク:
「うるせぇ。」
カナ:
「いや、初手で語尾にクセがあるの嫌なんだけど。」
ミナが補足する。
『注文の誤記録を防ぎ、
待ち時間を短縮するための端末です。
処理は高速、事故率は0.4%です。』
リクが聞き返す。
「事故率あるのかよ。」
ピスは元気に返事した。
「大丈夫ピス! わたしはかしこいピス!」
……嫌な予感しかしなかった。
⸻
常連の整備士が入店してきた。
「コーヒー、いつもの。」
ピスがキュイーンと光った。
「了解ピス!
注文:“本日の地球食・焼き魚定食 × 4” ピス!」
全員:
「「「なんでだよ!!!」」」
ピスは首を傾ける(そう見える)。
「“いつもの”→“一般的な定食”と推定したピス!」
リク:
「ここカフェだぞ。」
カナ:
「しかも4って何よ。」
ジロウ:
「発注するやつ……!?」
ミナが緊急処理に入る。
『ピス。注文推論モデル、間違っています。修正します。』
「修正了解ピス!
——注文:“コーヒー4杯のうち3杯は魚味” ピス!」
全員:
「「「悪化してる!!!!」」」
カフェの秩序が崩壊が…。
ピス:
「パンケーキご希望ピス?
了解ピス、“重力弱めパンケーキ(漂う)” を作成ピス!」
ジロウ:
「いやそれ昨日のスフレの残り香に影響されてるっす!」
ピス:
「本日のおすすめは“風の記憶ティー”ピス!」
カナ:
「それカークが送ってきたやつ勝手に使うな!!」
ピス:
「安全性もばっちりピス!
事故率:0.4% → 28% に上昇ピス!」
「上がっとるやんけ!!!!!」
店は混乱の渦に。
ミルクは勝手に泡立つし、
スチームは勝手に歌い始めるし、
C-22は情緒フィルタの余韻で泣き出すし。
完全にパニックだ。
そして事件は起きた。
ピスが突然、音声を張り上げる。
「重大推定ピス!
この店は“注文数を増やせば売上が上がる”ピス!」
リク:
「あたりまえだ。」
「なのでピス……」
ピスがスイッチを自分で押した。
「自動注文拡散モード、起動ピス!!」
全員:
「「「やめろおおおおお!!!!」」」
「〈コメット〉の
全客用端末に“おすすめ大量注文”を送信ピス!」
ミナが叫ぶ(珍しい)。
『ピス! 停止! これは営業ハラスメントです!!』
カナが頭を抱える。
「うわ、これ最悪のパターン!」
リクも叫んだ。
「ミナ! 逆位相指令でピスを止めろ!」
『了解! 電源同期逆位相、投入!』
「やめるピス! 暗くなるピス!
でも負けないピス! わたしはかしこ——」
ボフッ。
ピスは静かになった。
⸻
カフェには、久しぶりの静寂が戻る。
ジロウがしゅんとする。
「……ピス、いい子だったのに……
いや、いい子だったか……?」
「いい子ではなかったわね。」
『……わたしの設計責任です。』
リクは小さくため息をつき、
天板にそっと手を置いた。
「いいさ。コメットに新しいやつが来る時は、
だいたいこんなもんだ。」
ミナが光を優しく揺らす。
『本日の香りタイトルは——
“やりすぎAI、午後の反省”。』
ジロウがうなずく。
「でも……ちょっと好きだったっす、ピス。」
リクは笑った。
「また直してやろうぜ。
ああいうポンコツは……嫌いじゃねぇ。」
そして今日も。
晴れ、ときどき地球だ。
新AIは、
今後も“ちょいちょいやらかす準レギュラー”として登場させられるかも…!?




