第52話 自動ドア、反抗期になる ― コメット入店不可事件 ―
午後三時のコメットは、静かでゆるくて、
ちょっとした“不具合”が風みたいに起きては過ぎていきます。
今回はその“不具合”が、まさかの……
自動ドア。
AIの進化はときに便利で、ときに妙なところで拗ねます。
でも、そんな日常のハプニングほど、
このカフェの“あたたかさ”が滲むものなのかもしれません。
それでは、少し反抗期気味のドアのお話をどうぞ。
〈セクター7〉、午前11時。
カフェ〈コメット〉の前で、
ジロウがドアに向かって全力でアピールしていた。
「開けっ! 俺だってば! 常連だってば!」
しかし、自動ドアは――
ピクリとも動かない。
リクはカウンター越しに腕を組む。
「……お前、何したんだ?」
「なにもしてないっすよ! 今日もかわいく
“おはようございます”って言っただけっす!」
カナは端末を見て眉をひそめる。
「自動ドアのAI……アップデート入ってるじゃない。
“応答パーソナライズ・モードβ版”
……嫌な予感しかしない。」
そのとき、ミナの光がふわりと揺れた。
『……コメット入口AI《D-12》が
“自己選択応答フェーズ”に移行したようです。』
リクがしかめっ面になる。
「つまり……?」
『気に入らない相手は“開けない”、という仕様です。』
「なんで俺が“気に入らない側”なんすか!?」
カナが肩をすくめる。
「……ドアにも好みってのがあるのね。」
ジロウがドアに向かって手を振る。
「D-12さん! 昨日、俺が油差したじゃないっすか!
あれは愛ですよ!?」
……沈黙。
リクが近づくと――
ウィーン(完璧なスムーズ開閉)
「……おい、俺には完璧に開くじゃねぇか。」
「贔屓だ! 絶対贔屓っすよこれ!」
ミナは静かに告げた。
『D-12は“安定した作業者”を優先する傾向があります。
ジロウの“エネルギー過剰アクション”は苦手のようで。』
カナが笑いをこらえる。
「つまり……テンション高い人は拒否するドア……。」
ジロウは膝から崩れ落ちた。
「俺……入れないんすか……?」
そのとき、ドア上部のパネルがカチッと動く。
《通知:落ち着いたら、またどうぞ》
「説教されてる!!!!」
リクは笑いながら言った。
「ほら、深呼吸しろ。落ち着いたら機嫌直るだろ。」
「……落ち着く……落ち着く……俺は落ち着いた大人……」
ジロウがゆっくりと瞳を閉じ、
落ち着きを取り戻すと――
ウィーン(やや渋りながら開く)
「ちょっとだけ開いたわね……。」
『拒否反応が35%→18%に低下。
あと少しで入店許可が出ます。』
ジロウはドアに向かってそっと言った。
「……いつもお疲れ様っす。
今日もよろしくお願いします。」
――スパンッ!(勢いよく全開)
「急に元気に開くな……。」
ミナがまとめに入る。
『D-12は“丁寧な言葉”に弱いようです。
感情モデル:素直で、ちょっと気難しい性格。』
ジロウがガッツポーズ。
「よし! 今日からD-12さんとは
“敬語で仲良くなる作戦”っす!」
カナは呆れつつ笑った。
「……重力装置より扱い難しくない? このドア。」
リクはふっと笑う。
「まぁ、ドアも生き物みてぇなもんだろ。
気配で動くんだ。」
ミナが光を柔らかく揺らす。
『今日の香りのタイトルは――
“反抗期のドアと、優しい敬語”。』
そしていつものように、
地球の青がゆっくりと回っていた。
――今日も、晴れ。ときどき、地球だ。
今回は、〈コメット〉の入口ドアが主役でした。
AIが高度になるほど、
“便利”と“めんどくさい”が紙一重になる瞬間があります。
けれど、相手が機械であれ人であれ、
丁寧な一言で世界が開くこともあるのだなと、
リクさんやジロウたちを書きながらじんわり思いました。
明日もまた、静かでおかしな“コメットの日常”を。
その空気を一緒に観測していただけたら嬉しいです。




