第49話 午後の忘れもの ― コメット、落とし物センターになる ―
ピポ、久々の登場回です。
〈セクター7〉では、時々“人間より自由な”ロボたちがいますが、
今日の主役はその代表格。
そして、ひとりの小さな子が書いたメモが、
思いもよらない形で〈コメット〉に帰ってきます。
日常の中に、ふっと笑えて、
胸の奥がほんの少しあたたかくなるような——
そんな小話をどうぞ。
〈セクター7〉、午後1時。
カフェ〈コメット〉の床を、銀色の小さなロボが
コロコロと転がってきた。
「……あれ? ピポじゃねぇか。」
リクが見上げるより先に、
ジロウが叫んだ。
「リクさん! ピポの背中になんか貼ってあります!」
「貼って…? ロボに貼り紙ってなんだよ。」
ピポは“きゅるる”と誇らしげに鳴きながら入店してきたが——
背中には、白い紙がぺたっと貼りついていた。
カナが近づいて紙をそっと剥がす。
「……あっ」
紙には、小さな丸文字でこう書かれていた。
『ピポ にげちゃった
さがしています
みつけたら おしえてください
ユイ(6さい)』
ミナの光が小さく揺れる。
『解析結果:
この紙は〈セクター7〉連絡通路に複数貼られていました。
空調風と静電気で、ピポ本人に付着したようです。』
ジロウは口を押さえて震えた。
「……探されてる本人がメモ背負って帰ってくるとか、
そんなマンガみたいな事あるんすか……!」
カナも笑いを堪えながら言う。
「逆にすごい……ユイちゃん、真剣に探してたのね。」
ピポは“ぴこぴこっ”と鳴きながら、誇らしげに回転している。
リクは紙を見つめ、ふっと笑った。
「にげちゃった、か。
……ピポ、お前はただ散歩してただけだろ。」
『行動ログ:
“自主探査モード(許可なし)”
コーヒーの匂いに誘導され帰還。』
「やっぱ逃げてんじゃねぇか!」
ピポは反省の色ゼロでクルクル回る。
カナはメモを丁寧に折りたたんだ。
「これ、ユイちゃんにちゃんと返さないとね。」
ジロウがピポの頭をぽんぽん叩く。
「ピポ、ちゃんと謝る練習しとけよ?
“にげてごめんなさい”って。」
ピポ:
「……ぴ……(無言でゆっくり横を向く)」
ミナが静かに言った。
『“反省拒否モード”に移行しました。』
「そんなモードあるか!」
リクは笑いながら、コーヒーを淹れ始めた。
「まぁいい。帰ってくるだけ偉いさ。
ユイちゃんも安心するだろ。」
ミナが小さく光を灯す。
『今日の香り、タイトルは——
“迷子メモ、持ち主が帰宅しました”。』
カナが微笑んだ。
「……可愛い事件だったね。」
ジロウも頷く。
「こういうの、きらいじゃないっす。」
ピポは胸を張って “ぴこっ” と鳴いた。
迷子は、たまに——
帰り道の方が、こっちへ歩いてくる。
今日もきっと、いい日だ。
小さな事件でしたが、
こういう「何でもないけど、なんだか嬉しい」出来事こそ、
〈コメット〉らしい日常だと思っています。
ピポは次回、ユイちゃんにちゃんと返されます。
反省するかどうかは……ピポ次第。
次回も、香りと笑いと、少しのポンコツを一緒に。
また明日、〈コメット〉でお会いしましょう。
晴れ、ときどき地球。 ☕️




