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青の軌道カフェ ― 香りは、重力を超えて ―  作者: Morichu
第3章:記憶の星図

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第45話 セクター5・香気逆位相ミッション ― そして、リクは笑う ―

カナの現場復帰、〈コメット〉のポンコツ装置騒ぎ――

そして宇宙にまで“香り”が拡散した前回。


今回はその後処理でもあり、

静かに、そして確かに、チームの絆が深まる回です。


重力でも、空調でもなく。

“香り”という、目に見えないものを扱ってきた〈コメット〉だからこそできるミッション。


そして、リクが久しぶりに見せる

“整備士としての温度”と“言葉の柔らかさ”。


小さな騒ぎと、小さな修理と――

ほんの少しの、いい香りをどうぞ。

〈セクター5〉、午前9時。


空気が、なんとなくおかしかった。


重いとか、薄いとか、そういうのじゃない。


「……ん?」


リクが足を止めた。


「この匂い……昨日のだな。」


ジロウが後ろから端末を覗き込む。


「はい、完全に“コメット臭”っすね。セクター5が丸ごと……」


「コメット臭って言うな。」


カナは呆れたようにため息をつきながら、端末を操作した。


「香気センサーが誤作動してる。

 昨日の“宇宙香気安定装置”の泡が流れ込んだせいよ。」


『責任は、わたしにもあります。

 香りアルゴリズム、再構築中です。』


ミナの光が、ほんの少し申し訳なさそうに揺れた。


リクはその前にしゃがみこみ、軽く配線を確認する。


「まぁ……壊したのが香りなら、直すのも香りでいい。」


カナが苦笑する。


「また無茶言い出した。」


「いや、すごいっすよリクさん! 

 香りで直すって発想がもう……」


「褒めてるのかバカにしてんのか、どっちだ。」


「スーパーポジティブな褒めっす!」


リクさんは肩をすくめた。


「よし……じゃあ淹れるか。」


その言い方は、いつもの“コーヒーを淹れる”とは違った。

何かを整えるような、静かな調子だった。


小さな携帯ドリッパーを取り出し、湯を落とす。


静かに、慎重に。

そして――耳で“揺れ”を聴くように。


ミナが解析する。


『……香気逆位相、20%……30%……同期中。』


ジロウが驚きの声を上げる。


「ほんとに相殺してる! 

 匂いの波が……落ち着いてきてる!」


カナも息を飲んだ。


「こんなの、データじゃなくて……感覚じゃない。」


リクは笑った。


「感覚でできることなら、やればいい。

 複雑なときほど、そっちの方がうまくいく。」


ミナが小さく光を揺らした。


『共鳴……安定。香気分布、正常域に復旧しました。』


ジロウが両手を挙げて叫ぶ。


「よっしゃああああ! これで怒られない!」


「おい、まだわからんぞ。

 怒られるのはたいてい“帰り道”だ。」


「うっ……」


カナが笑う。


「でも、私も少し見直したわ。

 香りって、ただの匂いじゃないのね。」


リクは携帯ドリッパーを畳みながら言った。


「……まぁな。

 香りってのは、空気の言葉だ。

 乱れてりゃ直るし、整えれば伝わる。」


その声は穏やかで、いつもより少し柔らかかった。


ミナが静かに宣言する。


『今日の香り、タイトルは――

 “壊した香りで、直す朝”。』


ジロウが振り向く。


「いいっすねそれ!」


リクは、照れたように頭をかいた。


「……悪くねぇ。」


その瞬間、ほんのりと風が通り抜け、

コーヒーの香りが静かに漂った。


まるで


“これでいいよ”


と空気が言っているように。


――今日も、晴れ。ときどき、地球だ。


今回のテーマは 「壊したものを、壊したものから直す」。

そしてそれを可能にするのは、

結局いつもリクの“感覚”なんですよね。


ミナの分析とも違う。

カナの観測とも違う。

ジロウの勢いとも違う。


ただ耳を澄ませ、

ただ香りを感じ、

ただ空気の揺らぎを読む。


それがリクの強さであり、

〈コメット〉が宇宙で愛される理由なんだと思います。

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