第43話 整備士の影 ― 元相棒、来航す ―
ジロウの“元相棒”が〈コメット〉にやってきます。
騒がしくて、うるさくて、でもどこか憎めない――
そんな過去の影がふらりと店に混ざり込む日。
観測席から見たらただの来客でも、
ジロウにとってはちょっとした“通過儀礼”のような時間でした。
香りと笑い、そして少しだけ胸に残る温度を。
いつもの〈コメット〉でお待ちしています。
〈セクター7〉、午後3時。
今日は静かすぎて、逆に不安な時間帯だった。
そんなとき――
カフェ〈コメット〉のドアが、やたら勢いよく開いた。
「ジロウォォォォ!! 生きてたかァ!!」
銀色のスーツを着た青年が、
エンジン音そのままのテンションで飛び込んできた。
ジロウが目を丸くする。
「えっ……ナギサ!?」
「そうだよ俺だよ!
セクター5整備隊の天才・ナギサ様だよ!」
リクが小声でつぶやく。
「……なんか、ジロウより騒がしいの来たな。」
ミナの光が控えめに揺れた。
『騒音指数、ジロウの1.7倍です。』
「数値化しなくていいっす!」
ナギサはジロウの肩をバシバシ叩きながら言う。
「いや〜聞いたぞ!
お前、コーヒー屋で宇宙直してるって!?」
「……そういう言い方やめて。」
「だって事実だろ?
“重力止めた整備士”として、セクター中で噂だぞ!」
リクは頭を抱えた。
「その呼び名、なんとかならねぇのか……」
カナが苦笑しながら近づく。
「ジロウにも、こういう“元気”な仲間がいたんだね。」
「いや元気じゃなくて、“手間のかかる”っす……」
ナギサは店内をキョロキョロすると、
いきなりミナのホログラムを指さした。
「おいジロウ! これAI!?
めっちゃかわ……いや、カッコいいな!!」
『ありがとうございます。評価値、保存します。』
「保存しなくていいっす!」
ナギサはリクに向き直る。
「マスター! お前がリクさんか!
相棒が世話になってるらしいな!」
「相棒……?」
カナが小声で笑う。
「ジロウ、“相棒”だったんだ……」
ジロウが真っ赤になる。
「やめてくださいナギサ先輩!」
「んだよ照れてんじゃねーぞ!
昔は俺と組んで色んな修理してたくせに!」
リクはコーヒーを淹れながら言う。
「で、その“天才ナギサ”が何しに来たんだ?」
ナギサは胸を張る。
「ジロウの働きぶり、見に来たんだよ。
どれだけ成長したか――」
その瞬間、店奥から
ボンッ‼
蒸気が吹き出した。
ジロウが叫ぶ。
「あっ、またスチーム弁……ちょ、ちょっと待っ――」
ナギサが即座に走る。
「任せろジロウ! 昔みたいに俺が――」
バチッ!!
静電気が炸裂し、ナギサが跳ね飛んだ。
「うぎゃああああ!」
リクが慌てて駆け寄る。
「おい、大丈夫か!」
ジロウは苦笑いを浮かべて、工具を取り上げる。
「……先輩。これ、今は俺の担当っす。」
ぐぐっと弁を締め直し、
ズレたパイプを正確に戻し、
圧を調整する。
蒸気が止まり、店内に静けさが戻った。
ナギサは床に座り込んだまま、ぽかんと見つめていた。
「……お前……いつの間に……
こんなにうまくなったんだよ。」
ジロウは頭をかいた。
「……ここで鍛えられたっすよ。
香りで宇宙直す変な人もいるし。」
リクが「変な人って誰だ」とぼそっと言う。
ミナの光が柔らかく揺れた。
『今日の香り、タイトルは――
“整備士、成長中。元相棒も、少し安心”。』
ナギサは小さく笑った。
「……ジロウ。
お前、いいとこにいるじゃねぇか。」
ジロウは照れくさそうに言った。
「……まぁ、悪くないっす。」
〈コメット〉の空気が、ほんの少しだけ誇らしげに香った。
元相棒ナギサの登場で、
ジロウの“過去の顔”がふっと浮かぶ回になりました。
人は、昔を知る誰かの前だと
少しだけ不器用になったり、
逆にちょっと誇らしくなったりします。
〈コメット〉に流れる香りは、
過去を否定もしないし、美化もしない。
ただ、今日のジロウを静かに照らしてくれるだけです。
次回も、広い心と楽観主義と、尽きることのない好奇心で。
また〈コメット〉でお会いしましょう。




