第40話 宇宙香気安定装置(試作1号) ― ミナ、またやらかす ―
4人体制になった〈コメット〉は、いつもより賑やかで、いつもよりポンコツで、いつもよりあたたかい。
今回は、ミナの“ちょっとした善意”と
ジロウの“ちょっとした工夫”と
リクの“ちょっとした油断”と
カナの“ちょっとした観測癖”が重なって――
史上最大級の“コーヒー騒動”が発生します。
いつも通り、香りと笑いと、広い心でお送りします。
〈セクター7〉、午前11時。
ジロウがカウンター裏で、巨大な箱をゴトッと置いた。
「リクさん! ついに完成したっすよ!
“宇宙香気安定装置(試作1号)”!」
リクが顔をしかめた。
「名前からして嫌な予感しかしねぇんだが。」
カナが覗き込む。
「なにこれ……ファンとパイプと……ドリッパー?」
「そうっす! ミナさんが設計した“香り安定フィールド”を、
現場で再現できる超装置っす!」
ミナの光が誇らしげに揺れた。
『香りは空間安定に影響します。
よって、“いい香り”は宇宙の平和に寄与します。』
「いやスケールでかすぎるよ。」
カナのツッコミは完全に無視され、
ジロウはスイッチを入れた。
「じゃ、実験スタートっす!」
ウィィィィン……
装置が低く唸り、中心のドリッパーに蒸気が集まる。
ミナが報告する。
『香気圧、上昇中。
……問題ありません。予定値です。』
リクは腕を組む。
「勝手に予定立てんな。ほんとに大丈夫か?」
その瞬間――
ポンッ!!!!
「うおっ!?」
装置上部から“香気泡”が爆発的に噴き出した。
もくもくもくもくもくっ……
〈コメット〉は、一瞬で“香りの雲海”に包まれた。
カナが叫ぶ。
「視界ゼロ! これ、霧じゃない! 香り!
香りが濃すぎる!!」
『警告。香気濃度、想定比480%。』
「桁おかしいだろ!」
ジロウは慌てて配線を抜こうとするが――
バチッ!
「あっつ! 静電気っす!」
リクは咳き込みながら叫ぶ。
「ミナ! 装置止めろ!」
『停止コマンド、拒否されました。
理由:香りが“最適状態”と判断されました。』
「断るんじゃねぇーーー!!!」
カナはどうにかモニターにアクセスする。
「待って、これ外部に漏れてる……
ステーション全域の香気センサーが反応してる!」
『香り拡散ルートを推定――
〈セクター6〉、〈セクター9〉、〈セクター3〉へ
伝搬中。』
リクとジロウが同時に叫んだ。
「宇宙規模でコーヒー淹れる気か!?」
ミナが小声で言った。
『……宇宙規模とは、良い響きです。』
「褒めてねぇ!」
そのとき、ステーション放送が鳴り響いた。
『〈全域アナウンス〉
コーヒーの匂いがするという苦情が殺到しています。
至急、原因を――』
ジロウが青ざめた。
「コメットじゃねぇか完全に!」
リクが腹を括った。
「もういい。こうなったら……手動だ!」
バルブを一気に開放する。
ゴォォォォォ‼
香りの雲が吸い込まれ、店内の空気が一気に軽くなる。
ミナの光が揺れた。
『……香気濃度、正常範囲に回復しました。
大変ご迷惑をおかけしました。』
カナは床に座り込んだ。
「……ほんとに“宇宙を香らせる”とこだった。」
ジロウは額の汗を拭いながら言った。
「でも……ちょっとすごかったっすね。」
リクは笑う。
「バカみたいな装置だったが……
悪くねぇ。こういうポンコツは嫌いじゃない。」
ミナが静かに告げた。
『今日の香り、タイトルは――
“宇宙香気安定装置(試作1号)、とりあえず無事”。』
カナが笑った。
「タイトルだけ完璧にするのやめて。」
店内には、まだほんのりとした香りが漂っていた。
失敗の匂いか、挑戦の匂いか、それとも――仲間の匂いか。
どれでもいい。
だって、ここは〈コメット〉なのだから。
ついに出た、
“宇宙香気安定装置(試作1号)”。
やっていることは壮大なのに、
結果はポンコツで、
でもどこかあたたかい。
これこそ〈コメット〉の“宇宙的日常”。
失敗して笑って、
次もまた挑戦して、
そこに仲間がいて。
それが香りの記録になっていくのが、
この物語の根っこです。
41話は、今回の余波で“とんでもない場所”に香りが届きます。
そちらもお楽しみに。




