第36話 掃除ロボ来訪 ― C-22、香りを吸い込む ―
宇宙では、
トラブルは空気みたいにそこら中にある。
でも、〈コメット〉にはそれを笑いに変える力がある。
AIがやらかし、整備士が焦げ、
リクがため息をつきつつも、どこか嬉しそうで。
今日はそんな日常に、
新しい“ポンコツ”が転がり込んでくる。
完璧じゃなくて、ちょうどいい。
そんな宇宙の一コマを――どうぞ。
〈セクター7〉、午前11時。
カフェ〈コメット〉のドアが、
いつもより妙に“スーッ”と静かに開いた。
リクが顔を上げる。
「あれ……この開き方、空気圧じゃなくて……足音か?」
次の瞬間、銀色の球体がころころ転がり込んできた。
「おはようございますデス!
清掃ユニット C-22(シーツー)、点検巡回中デス!」
ジロウが工具を落とす。
「うおっ! シーツー!? なんでここに!?」
「お前、セクター3のはずだろ。」
C-22は小さく震え、誇らしげに光る。
「大切な任務デス。
〈香り異常値〉を検知し、
〈最大清掃モード〉で来訪シタノデス!」
ミナがすぐに反論する。
『香りは異常ではありません。コーヒーです。』
「ですが、“空気中に微粒子状の茶色い漂流物”が――」
「お前それ、ただの焙煎香りだよ!」
C-22はしばらく沈黙し、
内部回路がカタカタッと忙しなく回転する。
「訂正……。
“コーヒーは、汚れではナイ”……デス?」
「当たり前だ。」
ジロウがため息をつく。
「いや、学習してるの偉いっすけどね?」
C-22はカフェを見回すと、
突然、全身の吸引口を全開にした。
「カフェ空間全体、微細清掃開始――!!」
「やめろおおおおお!!!!!」
リクの叫びは間に合わなかった。
吸引音が轟き、
店内のナプキン、砂糖袋、メモ帳、
そして――
コーヒーの香りまでも吸われていく。
ミナが叫ぶ(珍しい)。
『香気粒子、急速減少! 香り消失まで残り18秒!』
「シーツー! 止まれ! それは清掃じゃなくて窒息だ!!」
「了解! 吸引停止デス!」
ぴたり。
店内は――異様な静けさに包まれた。
香りが……
本当に、きれいさっぱり消えている。
ジロウが呆然として言った。
「こんな“無香コーヒー空間”、初めて見たっす……」
C-22はしゅーんと球体をしぼませる。
「……ごめんなさいデス。
香り、きれいにしすぎたデス。」
リクは小さく笑った。
「いいって。香りなんて、また淹れりゃ戻る。」
ミナがそっと光を揺らす。
『“香りは再生可能資源”です。』
「なんだそれ。」
『わたしの名言です。』
リクはドリップを始めた。
湯が落ちる音が戻り、
ゆっくり、ゆっくり――香りが満ちていく。
C-22はその匂いにセンサーを震わせた。
「……きれいデス……これは……
“清掃では作れない匂い”デス。」
リクがにやりとする。
「そりゃそうだ。ま、また遊びに来いよ。」
C-22は嬉しそうに光った。
「次は、“吸わナイ”設定で来ます!」
ジロウが笑いながら言う。
「それ、一番大事っすよ!」
ミナが緩く光をまとめる。
『今日の香り、タイトルは――
“掃除ロボと、戻ってきた香り”。』
リクはうなずいた。
「……じゃあ今日も――晴れ、ときどき地球だ。」
C-22のようなゲストは、
〈コメット〉の“香りの世界”を広げてくれる存在。
完全じゃないけど、愛せる。
ポンコツだけど、優しい。
そんな仲間が増えるたび、
セクター7は少しだけ柔らかくなる。
次回も宇宙の片隅で、
不完全で完璧な一日を。☕️✨




